編集後記

編集後記

 
 今月号では3月29日に開催された大阪弁護士会との共催シンポジウム‐公正なる会計慣行を考える‐の概要が紹介されています。会計士の考える公正と、法律家の考える公正の違いが表れており、興味深い内容となっています。会計士の常識が非常識になりうる場合があるようです。
 熊本学園大学大学院教授 千代田邦夫氏が月刊監査役に3年間連載された記事が「監査役に何ができるか」という題で出版されています。その中に「米国のような訴訟社会で工夫された組織的監査は、ややもすると監査事務所を守るための監査、公認会計士自身を防御するための監査に陥りやすいのです。公認会計士は、現場では「攻める公認会計士」に徹してもらいたいのです。」とあります。
 また、少し前の経営財務の記事でMBOによる上場廃止の記事がありました。上場メリットより上場コストの方が大きいという内容です。SOXの導入による監査報酬の増大によってIPOが激減したのみならず、既上場会社も上場廃止へ動いているということです。
 そもそもSOXによって経営者不正を防止できないことは監査論の定理であるにもかかわらず、エンロン・カネボウの事件によってどたばたと日本では全上場企業に導入されてしまいました。このオーバーライドの定理は監査人なら誰でも知っているのに、自分達の報酬が増えるということで誰も異を唱えませんでした。オリンパス・大王でもしかりです。裸の王様を裸と言い続けているようにしか思えません。
 昔の大先生たちはトップとよく懇談し、トップの資質を十二分に把握して監査にあたっており、究極のリスクアプローチをとっていたと思います。今は独立性の名のもとに会食は殆どなくなり、形式的なヒアリングとなっています。これで経営者の人間性がつかめるのでしょうか。
 1月に監査制度充実強化調査会が発足し、現行監査制度の有効性を検討することとなっています。統計手法によるサンプリングで1000件のバウチングをするのが意味があるのか、自分への訴訟リスクを回避するためだけの監査になっていないのか、十分な検討が期待されます。
 

(会報部 熊木実)