報告

関西地区三会共催
「IFRSセミナー(第4回)」の報告

新日本有限責任監査法人 増田 俊郎

 
 平成24年2月29日(水)、日本公認会計士協会近畿会の研修室において、近畿会国際委員会の企画による「IFRSセミナー(第4回)」が開催されました。
 当セミナーは、昨年度に実施したセミナーのアップデート版として、IFRSの最新動向をできるだけ織り込んだ内容となっており、ほぼ毎月のペースで全5回開催されます。

(最新の開催情報については、近畿会のウェブサイトにある研修会情報掲示板をご参照ください。)
 
IFRSセミナー第4回につきましては、新日本有限責任監査法人が担当いたしまして、以下のテーマ及び講師で行われました
 まず、最初に私からIAS第19号「従業員給付」について、ご説明いたしました。従業員給付につきましては、2011年6月に現行のIAS19号の改訂版が公表されています。この改訂版は、2013年1月1日以降開始する事業年度より対象で、早期適用も可能です。19号改訂版は、多少の例外規定があるものの、IAS8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」に従い、原則として遡及適用されます。 今回のセミナーでは、改訂版の19号の内容を中心に解説しまして、各ポイントにおいて現行のIAS19号から改訂版にどのようにかわったのかまた、日本基準の企業会計基準公開草案第39号と比較してどのような差異があるかについてご説明いたしました。
 IAS19号改訂版における主な内容は以下の通りになります。
 
数理計算上の差異の遅延認識の廃止
再測定値のその他包括利益への計上
勤務費用の構成要素の変更(当期勤務費用、縮小を含む過去勤務費用、制度清算損益)
期待運用収益の廃止及び純利息損益の計上
過去勤務費用の制度改訂時に費用処理
従業員給付の長短区分の定義の変更
 
 改訂版による変更のなかでも一番大きなものは、数理計算上の差異の遅延認識の廃止です。現行の基準では、遅延認識と即時認識の選択ができるために企業の選択によって、遅延認識をしている会社と即時認識をしている会社の財政状態を比較した場合、乖離が生じる可能性があることが疑問視されていました。また、従来の利息費用と、利息収益を期待運用収益率に基づき利息収益を計上する考えから、確定給付制度債務の測定に用いる割引率に基づき、確定給付負債(資産)の純額に対して計上されることに変更されています。また、数理計算上の差異は再測定値とし、その他包括利益で認識されその後損益への組み換えを行うリサイクリングをしないとしています。その他、従業員給付の長短区分は、従業員の権利発生時期ではなく、決済が予想される時期に基づいて行われることに変更されているので、従来、短期とされていた有給休暇のうち、1年を超えて消化されると見込まれる部分がその他の長期従業員給付に含まれる可能性があります。
 
 開示については、確定給付制度について、情報の透明性を改善するために、下記3つの開示の目的に基づいて行うようにしています。
確定給付制度の特徴及び関連するリスクの説明
確定給付制度から生じる財務諸表計上額の識別及び説明
確定給付制度が企業の将来キャッシュフローの金額、時期及び不確実性に与える可能性のある影響
 
 開示要件の拡大がされていることにより、企業は、開示規定を充足するために、どの程度の詳細さで開示するか、各開示規定に対し、それぞれどの程度の重きを置くべきか、集計及び分解の程度の検討など、詳細な早期計画が必要であると思われます。
 
 最後に、従業員給付におけるIFRSと日本基準の差異は、解消されつつありますが、まだまだ細かい点で違いがあるため、こちらについても注意が必要である旨を説明いたしました。
 
 続いて、大坪講師よりIAS第19号「引当金、偶発債務及び偶発資産」について、関係する基準、適用範囲及び定義、認識、測定、日本基準との違いについてケーススタディーを用いて解説がありました。引当金の認識については、3要件である、過去の事象に起因した現在の債務であること、資源の流出の可能性が高いこと、債務の金額の信頼性のある見積り、についてフローチャートを用いて解説がありました。資源流出の可能性が高いとは、IFRSでは50%超の確率で発生する場合になります。その他、IFRSにおいて推定的債務については明確な規定があることが付け加えられました。また、日本基準とは異なる不利な契約やリストラクチャリングについて明確な規定がある点を、強調して説明されました。リストラ引当金の計上においては、IFRSでは幅広く、要件が厳しくなっているのがIFRSの特徴です。
 その他、日本基準と比較して、IFRSでは引当金の認識において原則、企業は十分に信頼のできる債務の見積もりができ、報告期間の末日における債務を決済するために要する支出の最善の見積りを行わなければいけない点、対照的であるとの説明が行われました。その他、IFRSにおいては引当金における測定において現在価値への割引が必要であること、資産の処分による利得を考慮されない点が、特徴であります。
 
 最後に、今後の方向性として、2010年1月にIAS37号について、負債の測定が明確でないことにより、公開草案が公表されていますが、測定における確率加重平均を用いた期待値で引当金を認識されることから、早い段階で引当金の計上が行われることになる旨説明されました。
 
 引当金の会計処理においては、測定及び認識において、経営者の判断が大きく影響を及ぼすものになるので、監査人としても判断が難しく、また重要な項目であると思います。

 最後に、IAS第18号「収益認識」、IAS第11号「工事契約」について徳野講師より説明いただきました。内容は大きくわけて次の3つのテーマ、@IAS18号収益認識、AIAS11号工事契約、B2011年11月に公表された再公開草案の、各テーマについて、認識、測定及び論点などについて日本基準と比較しながら説明されました。

 IAS18号収益認識においては、まず取引の識別において、収益認識はそれぞれの取引に個別に適用し、取引を分割して考える場合と、取引を結合して考える必要がある旨の説明がございました。また、IFRSでは重要なリスクと経済価値の移転時に収益が認識されるため、日本企業においては、一般的に採用されている出荷基準について検討が必要となる可能性があるとの言及がありました。さらに、在庫リスク、信用リスク等により取引の当事者または、代理人により収益の総額表示または純額表示の検討が必要であることが説明されました。
 続いて、IAS11号工事契約における収益認識において、取引の実態に応じて工事契約を分割また結合して検討する必要があること、工事契約の分類として固定価格契約と減価加算契約があり、また、工事契約の結果が信頼性をもって見積もることが出来る場合は、工事進行基準で、信頼性のある見積もりが出来ない場合は原価回収基準を使用することになります。

 最後に、2011年11月に公表された再公開草案のうち、2010年6月公開草案からの主な変更点として、信用リスクによる影響を収益の控除項目としての表示、変動性のある対価に関する収益認識額の制限、一定期間にわたり充足される履行義務の要件の追加、履行義務の不利性に関する判定などについて説明がされました。その他、顧客との契約の識別から、収益の認識までの5つのステップから構成される収益認識モデルについて解説が行われました。収益認識については、最終基準書の公表が2012年後半に予定されています。

 IFRSセミナー第4回の内容は上記のとおりになります。今年度は、IFRS強制適用時期の延期もあり、参加者が少なくなるかと思われましたが、昨年同様たくさんの方が参加され、改めてIFRSの関心の高さを認識いたしました。今後もIFRSの改訂は注目されます。