報告

第244回企業財務研究会報告

有価証券報告書の記載事例による
「継続企業の前提」の開示事例分析

監査会計委員会副委員長　山添　清昭
【日　時】 平成24年1月18日　午前10時～12時
【会　場】 大阪合同庁舎第4号館2階　第1共用会議室
【出席者】 近畿財務局：森　秀雄理財部統括証券監査官　他10名
　 　近　畿　会：小川泰彦会長　　他10名
　京　滋　会：髙橋一浩会長　　他 5名
　兵　庫　会：谷　保廣副会長　他 2名
【発表者】 山添清昭（監査会計委員会副委員長）、和田林一毅（監査会計委員会副委員長）
　 奥村　圭（監査会計委員会委員）、　　原　繭子（監査会計委員会委員）
太田晶久（監査会計委員会委員）、　　池上由香（監査会計委員会委員）
　当会からの報告終了後、近畿財務局から「監査報告書の訂正事例等について」の報告があった。
Ⅰ. はじめに
　金融庁、企業会計審議会より平成21年4月9日付で「監査基準の改訂に関する意見書」が公表され、継続企業の前提に関する意見表明についての取扱いが改正され、平成21年4月に財務諸表等の開示に係る規則の改正、日本公認会計士協会による実務指針等の一連の改正が行われた。これらの継続企業の前提に関する開示上及び監査上の取扱いの改正は、平成21年3月期末決算会社から適用されており、それ以降の3年間、新基準に基づく継続企業の前提の開示制度が行われている。
　継続企業の前提の開示が、新制度導入前後でどのような変化があったのか、また、新制度導入後の開示の状況など、日本公認会計士協会近畿会、監査会計委員会の各メンバーの中で関心が高かったため、その事例分析を近畿会の監査会計委員会にGC小委員会を組成し行ったものである。
　実際の開示事例分析は、近畿会の監査会計委員会でGC小委員会の各担当者が「継続企業の前提に関する注記」を記載している有価証券報告書の事例の収集、3年間の時系列での開示事例について分析を行った。企業財務研究会での報告では、改正前後の規則に基づくＧＣ注記等の記載状況について、事例分析の結果を事例の開示パターン別に分析した結果とともに、各開示事例について、分析を行った各担当者より紹介を行った。
Ⅱ. 事例分析の概要
１．分析対象会社
　開示Netのデーターより、直近3年間の有価証券報告書を公表した会社の中から、有価証券報告書の連結財務諸表に「継続企業の前提に関する注記」がされている会社について、「事業等のリスク」や「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の開示がされているかについて、検索し、該当する記載がされている会社222社を選定した。事例分析は、「継続企業の前提に関する注記」の用語をキーワードに、上述の開示がされているかを、抽出・確認したものであることから、必ずしも有価証券報告書提出会社全体にかかわる情報の網羅性が確保されているわけではない。
２．範囲
　有価証券報告書の開示実例について、直近の３年間に「継続企業の前提に関する注記」が記載されているか。また、「継続企業の前提に関する重要事象等」の記載はされているか。「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況」の項目としては、どのような記載がされているか、さらに「対処すべき課題」又は「業績等の概要」において、重要な不確実性が認められなくなった経緯などが適切に記載されているかなど、について開示状況を調査した。事例分析の対象としたのは、有価証券報告書のうち次の項目である。
第２　事業の状況
　 ★１．業績等の概要
★３．対処すべき課題
★４．事業等のリスク
★７．財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析
第５　経理の状況
　 １．連結財務諸表等
（１）連結財務諸表
★継続企業の前提に関する注記
　 ２．財務諸表等
（２）財務諸表
★ 継続企業の前提に関する注記（基本的には、連結財務諸表を分析対象とした）
★ 独立監査人の監査報告書（連結財務諸表）（財務諸表）（基本的には、連結財務諸表を分析対象とした）
Ⅲ. 分析結果
　分析の結果は、以下のとおりであった。以下に分析の集計結果を示している。

１．

 「継続企業の前提に関する注記」と「継続企業　　の前提に関する重要事象等」
　事例分析の結果、直近３年間の「継続企業の前提に関する注記」の記載は、下記【図表１】に記載のとおりであった。分析対象会社222社のうち、直近3年間の有価証券報告書において、「継続企業の前提に関する注記」がされている会社は、以下のとおりであった。
【図表１】「継続企業の前提に関する注記」等の記載状況

（注１） 重要事象等の会社数は、GC注記を記載している会社が重要事象等を記載した会社数を集計している。
（注２） 計の数値は、継続記載会社を１社とカウントしているため、単純合計とは、一致しない。
【図表２】に「継続企業の前提に関する注記」の記載の３年間の変動状況を示している。
【図表２】「継続企業の前提に関する注記」の記載の変動状況

（注）ＡとＢの箇所は、原則分析対象外である。
　「継続企業の前提に関する注記」を記載している会社数は、176社から117社、81社と減少の傾向にある。とくに、2008年4月1日から2009年3月31日の間に決算期が到来する会社のGC記載会社176社のうち、旧基準によるGC記載会社が94社含まれている。GC注記の旧基準から新基準への変更による影響が大きいものと考えられる。
　直近3年間の「継続企業の前提に関する注記」と「継続企業の前提に関する重要事象等」の記載との関係について、【図表３】にまとめている。
【図表３】 「継続企業の前提に関する注記」と「継続企業の前提に関する重要事象等」の記載との関係（社数）
（注１） ＡとＢの箇所は、原則分析対象外である。ただし、1年目にＧＣ注記し、3年目に復活GC注記を記載した2社（Ａの箇所）については、調査している。
（注２） 括弧書きで表記した社数は、GC注記を記載した翌年度又は前年度の「重要事象等」の記載がされている社数を表示している。
（注３） 旧は、改正前のGC注記、新は、改正後のGC注記を表している。
　1年目は、「継続企業の前提に関する注記」を記載している会社82社のうち、68社が、「継続企業の前提に関する重要事象等」の記載をしていた。1年目「継続企業の前提に関する注記」を記載していた会社で2年目記載を取りやめた会社のうち、「継続企業の前提に関する重要事象等」の記載をしていた会社は、27社であった。
　一方、前期、当期ともに「継続企業の前提に関する注記」の記載会社117社、81社に対して、「継続企業の前提に関する重要事象等」を記載している会社は、それぞれ112社、80社あり、概ね「継続企業の前提に関する重要事象等」の記載がされている。
　「継続企業の前提に関する重要事象等」の記載は、会社が将来にわたって事業活動を継続するとの前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況その他会社の経営に重要な影響を及ぼす事象が存在する場合には、必ず記載が必要であるとされているので留意が必要である。
　次に、「継続企業の前提に関する注記」と「継続企業の前提に関する重要事象等」のそれぞれの記載が、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況のどの記載項目に基づいて記載していたかを調べた。
　【図表4】に、直近3年間における監査委員会報告第74号「継続企業の前提に関する開示について」で示されている「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況」としての記載項目20項目とともに、記載項目の件数を示している。1社で複数の項目を記載している会社もあったので、記載件数は、上述の会社数とは一致しない。
　結果、記載項目は、財務指標関係や財務活動関係の記載項目に集中しており、営業活動関係やその他の記載事例の件数は極めて少ない。特に「継続的な営業損失の発生又は営業キャッシュ・フローのマイナス」、「重要な営業損失、経常損失又は当期純損失の計上」および「借入金の返済状況の不履行又は履行の困難性」の記載事例が、多く見受けられた。
【図表４】 継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況についての記載項目（件数）

２．監査報告書の記載について
「継続企業の前提に関する注記」を記載すると、監査報告書において、GCに関する追記情報の記載が求められる。直近3年間の監査報告書での記載は、【図表５】に記載のとおりであった。
　今回の事例分析の結果、当期「継続企業の前提に関する注記」を記載した会社について、追記情報の記載をしていた会社と、意見不表明の会社は、それぞれ以下の会社数であった。
【図表５】「継続企業の前提に関する注記」の記載の監査報告書での記載

　
　平成21年4月21日に改正公表された、監査・保証実務委員会報告第75号「監査報告書作成に関する実務指針」では、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在すると判断した場合には、当該事象又は状況に関して合理的な期間について経営者が行った評価及び対応策について検討した上で、なお継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるか否かを確かめなければならないこととし、経営者が行った継続企業の前提に関する評価の手順を監査人においても確認するものとしている。
Ⅳ. 各パターン別・分析結果の報告とGC事例の紹介について
　前述の【図表２】の集計結果に基づいて、各パターン別の分析結果の報告とＧＣ事例の紹介を行った。
　
【図表６】「継続企業の前提に関する注記」の事例の開示パターン
　
　【図表７】に示す６つの事例の開示パターンごとに、記載事例を整理し分析している。研究会の報告では、各事例の開示パターンごとの特徴的な事例を抽出し、各担当者より紹介を行った。個々の具体的な開示内容はEDINET等でご参照願いたい。
【図表７】紹介した事例

Ⅴ. おわりに
　今回、監査会計委員会のGC小委員会において、有価証券報告書の記載事例による「継続企業」の開示事例分析を担当し、継続企業の前提の開示（定性的情報・連結財務諸表の注記・監査報告書の追記情報）について、実際の有価証券報告書の記載をもとに事例の分析を行った。GC小委員会で各担当者が分担することで、有価証券報告書に実際に記載された３年間の連結ベースでの「継続企業の前提」の開示をかなり網羅的に分析することが出来た。また、基準改正の前後を3年間の時系列で分析することで「継続企業の前提」の開示も、旧基準から新基準への移行、継続的な開示、新たに注記される会社、業績の回復等で記載の外れた会社など開示に変遷が見られることがわかった。
　改正後の継続企業の前提の開示制度では、「事業等のリスク」や「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の記載箇所に重要事象等との開示として求められるようになっている。制度改正後３年目を経て、これら定性的情報への記載ルールも定着してきているものと思われる。監査人にとって、「継続企業の前提」の開示を、定性的情報と財務情報の両側面から総合的に分析することが今後も重要であり、重要事象等の定性的な情報への対応に注意が必要である。
　3年前の継続企業の前提の開示制度より、それまでの形式的な開示制度から実質的なＧＣ開示制度に移行していることが事例を分析してわかった。監査人の対応としては、クライアントの情報を適時に把握することがなにより重要であり、今回実施したＧＣ開示の時系列での分析について、今後も継続して行い、GC開示の変遷状況の分析など、今後も注視しつづけることが必要であると考える。