寄稿

第4回 奮闘する“企業内会計士”

「49歳、ルーキーです。」

米山 高志

 
現在
 皆様、こんにちは、49歳ですが公認会計士としてはルーキーの米山高志と申します。私は2009年に公認会計士試験に合格し、修業年限短縮者として修了考査にも無事合格できたので、先日同期生よりも2年早く公認会計士登録を行うことができました。
 さて、「随筆」ということなので現在の仕事や今思うことをいろいろ書かせていただきます。現在、私は財団法人大阪産業振興機構に勤務しています。弊機構はいわゆる大阪府の外郭団体です。ただし、私は昨年(2010年)の4月に採用され、職員としてはまだ2年目です。
 仕事としては中小企業の皆さんへの設備投資支援事業(小規模企業等設備貸与制度)に従事しております。監査でも会計でもありません。従業員規模50名までの企業が必要とする設備を弊機構が購入し、低利で割賦販売(またはリース)する制度です。お金を貸すのではなく、物(設備)を貸すことで中小企業の経営基盤の強化に必要な設備導入支援を目的としています。金額的には最大6千万円までと監査対象となる会社と比べれば小さな投資額かもしれません。しかし、小規模企業にとっては100万円の投資であっても大きな投資です。皆様、当該制度についてご存知でしたか。私は昨年就職でお世話になるまで制度の存在を知りませんでした。このため現在は制度利用促進のための広報にも力を入れております。
 普段の仕事としてはお客様ごとに申込みから検収引渡まで一連の作業を担当しております。具体的には事前相談、申込受付、書類審査、企業調査、審査会資料作成、契約、検収引渡等となります。審査会で設備貸与の可否が決定されます。このため受注の確実性や償還能力等、企業調査や資料作成に緻密さを欠けば、誤った判断を誘引しかねないため責任は重大です。公認会計士試験における自分の答(数字)は『必死さ』の表れでした。実務でも企業の財務諸表数値は企業の『必死さ』そのものです。企業の財務数値は単なる数字の羅列ではなく、経営者や従業員が一体となって必死で活動をした結果です。財務諸表項目や財務数値については慣れや慢心や油断して取り扱ってはなりませんし、単なる数字の羅列ではないと自分を戒めなければなりません。無事に審査会で可決されれば契約後に設備が導入されることになります。検収引渡には職員として立会いますが、経営者の皆さんのやる気に満ちた表情を拝見できることが私にとってもうれしい限りです。大阪の中小企業の活性化に少しでも役立てることにやりがいを感じます。
 
公認会計士試験合格まで
 私はかつて公認会計士を志望しましたが、数回の受験後、自分には無理だとあきらめた「あかんたれ」でした。近年、勉強することの素晴らしさを知り、「たかが試験問題に解けない問題はない」という気持と、「自分には公認会計士試験は無理」という気持の矛盾が生じてきました。今やらないで後悔したくなかったこと、専門的な勉強とそれを活用できる会計士としてより充実した仕事がしたいことを理由として再受験を決意し合格することができました。ただ2007年に仕事を辞めて受験しました。当時3歳と0歳の子供がいましたが、受験専念を認めてくれた家族には感謝の気持ちでいっぱいです。また、貯金はなくなりましたが、合格できたことで人生は豊かになったと感じます。自分の財産は「お金」や「地位」などではなく、知識と経験の「記憶」であることがわかったからです。
 
ブランド化
 公認会計士の使命は、国民経済の円滑な発展に寄与することですが、個人的には会計や監査だけでなく、様々な形式で経済の発展に寄与することができると考えます。
 私自身も合格後就職がしばらく決まりませんでした。公認会計士としての将来について不安で悲観的となったときに、諸先輩方から様々なアドバイスをいただけ、将来に希望を持ち前向きに取り組もうと気持ちを切り替えることができました。おかげさまで、無料職業相談所(現在のキャリアナビ)の求人にて弊機構にお世話になることができました。現在も税制税務委員会や企業内会計士ネットワーク小委員会で勉強させていただいたり、就業多様化対応委員会でお手伝いさせていだけるのもありがたいことで、先輩会計士の皆様には感謝の気持ちで一杯です。
 就職後、私にでもできることは何かないかと考えました。抽象的ですが就業多様化を「強み」とするための同期生のブランド化です。現在、個人企画ですが勉強会や懇親会を行っています。組織に所属していようが個人で活動していようがそれぞれが独立したプロフェッショナルでなければなりませんが、相互に依存するのではなく、競争と協調による連帯感の構築が必要と考えます。継続的に専門能力を有するための努力だけでなく、同期相互の経営資源を有効活用することで09期生をブランド化していきたいです。
 公認会計士を取り巻く厳しい環境により、公認会計士を目指そうという若者たちが減少していくことが危惧されます。たとえ監査に従事できなくても、監査法人勤務の公認会計士に負けない公認会計士になることができれば、受験者へは希望を、再受験者へは勇気を与えることもできるのではないかと思います。またブランド化には長期かつ継続的な活動が必要です。30年後、私は現役ではないかもしれません。しかし同期生はそれぞれの仕事で重要なポジションに位置していることが想像されますので、そこで「09ブランド」を有効活用してほしいです。一例としては、30年後、監査法人の代表社員と企業のCFOがともに公認会計士の同期生として継続的信頼関係が築けていることを目指してがんばります。