『格付けの本質』 |
日本公認会計士協会学術賞MCS賞受賞作品「格付の深層 知られざる経営とオペレーション」より |
発表者 ワールド ゴールド カウンシル 機関投資家部門ヘッド 森田隆大氏 |
1. はじめに |
第39回日本公認会計士協会学術賞MCS賞を受賞された「格付けの深層 知られざる経営とオペレーション」の著書より、格付けの基本・現状とその問題点の紹介がなされた。ムーディーズでの勤務経験に裏打ちされた貴重なお話であった。 |
2. 講演の要約 |
まず、「格付けの基本」として、格付けの決定要素、プロセス、分析フレームワークが解りやすく紹介された。格付け作業の8割はクレジット・ストーリーの構築、即ちその発行体の将来像の構築に費やされるとのお話には新鮮な驚きを覚えた。 続いて「格付けの本質」として、様々な非難を受ける格付けではあるが、格付けが市場のインフラとして組込まれており、格付けに代わる選択肢がないため格付けの失敗は格付けの需要の低下をもたらさないと説明された。金融機関はコストのかかる自前の信用調査をやめて、格付けを利用する方向にあるという指摘は感慨深い。また、格付けの歴史は、投資家優先の顧客認識で勝手格付けが基本であった格付け会社のビジネスモデルが発行体も重要な顧客となり依頼格付けのみを行うこととなり、ジャッジメンタルな格付けから確立された格付けモデルにあてはめた格付けへと変貌してきており、この変貌が報酬での手心やモデルによる自動判断によってサブプライムローン問題を引き起こしたとの解説は愁眉を開くものがあった。 最後に「規制と格付けの質」で、サブプライムローンを機に導入された格付け会社への規制は格付けの質(アウトプット)より格付けプロセスの透明性・一貫性(インプット)が重視されており、この規制によって格付会社では経験豊富なアナリストによるジャッジメンタルな格付けより格付けモデルへの忠実な格付けへと指向しており、格付会社の人件費の削減に寄与し、格付会社にとって最大かつ唯一の資産である人的資源の低下を招いていると危惧された。 なにやらパソコンに向かって会社の人と話もしない昨今の監査業界の現状を語っておられるようで背筋が寒くなる思いであった。 なお、著書の内容は会計監査ジャーナル7月号の書評で詳しく紹介されているのでご参照ください。 |
(報告:熊木 実) |