税理士法改正に関するアンケート調査 第2弾

日本公認会計士協会近畿会 会報部

 
 9月号においては、「税理士法改正に関するアンケート調査」の集計結果・分析を報告したところでありますが、今月号においてはアンケートの際に寄せられたコメントの一部について掲載することにします。なお、原則として原文のまま(明らかな誤字脱字は修正)掲載しております。まず紹介に先立ち、日本公認会計士協会本部の考え等を紹介します。
 
1.税理士法改正に対する日本公認会計士協会の考え

日本公認会計士協会 副会長 小見山 満

 
 日本税理士会連合会(日税連)が17項目にわたる税理士法改正案を提示し、本年6月30日より、国税庁・財務省と勉強会に入った。そもそも、税理士法の見直しは平成20年度における規制改革会議において指摘されたものであり、その観点に立っての税理士法改正である。しかし、上記17項目の一つに「能力担保措置」を講ずる必要があるとして、公認会計士が税理士登録をする際に、税理士試験の一部を受験することを要求している。規制改革会議の趣旨に反する主張といえる。
 日本公認会計士協会は、昨年反対声明を日税連会長に手渡し、税理士法改正の「必要性・必然性のない」こと、ならびに「国益に反する」ものであると反論してきた。
 当協会は昭和23年の税理士法制定当初より、公認会計士法に「当然税務業務ができる」と記載すべきであると主張してきている。(昨年9月の公認会計士法改正に関する中間報告に対しても同様の意見を建議した)
 今般、資格問題に関する税理士法改正に対し「反対署名活動」を展開しているが、これは、個々の会員の意思を表明するものである。上記規制改革会議には財務省・国税庁も公認会計士に税理士としての資格は十分にあり、それゆえ国民の利便性の向上に寄与していると意見を提出していることから見ても、反対運動は当然のことと言える。
 
2.本部理事の声
(1)税理士法改正は日本の公認会計士監査の信頼性を失墜させる

本部常務理事 東京会 鈴木昌治

 
1.公認会計士監査の重要性と国益
 公認会計士は監査及び会計の専門家であり、我が国で財務書類の監査を行いうる唯一の資格者である。公認会計士監査は、その専門的知識に裏づけられた信頼性の付与を通して、企業等の公正な事業活動、投資家及び債権者の保護を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与していくべき使命を担っている。
 このように、公認会計士監査は国益を担うものであり、そのためには監査の確固たる信頼性が基本となる。しかしながら、今回の税理士法改正案に織り込まれている「公認会計士に対する能力担保措置」は、日本の公認会計士は税務知識を有していないとの非現実的な疑念を呈することになり、結果として、公認会計士による監査の信頼性を大きく失墜させる可能性がある。すなわち、今回の税理士法改正は、現行の監査制度を否定することに繋がり、国益に反するものである。
 
2.公認会計士監査における税務知識の重要性
 公認会計士監査において、我が国企業の行う経済取引に関する会計処理を考えるとき、会計基準への準拠性と
同時に、法人税法等での取扱いについても確認し、両者の処理の相違を検討することになる。それは会計と税務との間に処理上の差異が存在する場合には、将来における税効果の有無を判断するなど、会計処理に影響があるためである。したがって、公認会計士が監査業務を有効かつ適切に実施するうえでは、税務知識の保持は不可欠であり、公認会計士としての基礎能力として、税務知識を具備することが強く求められる。
 公認会計士が行う財務諸表監査において、未払税金や繰延税金資産等の税金関連科目は極めて重要性の高い勘定科目である。また、各種引当金や固定資産など、財務諸表監査を実施する上で税務知識が必要となる勘定科目は多い。このように、公認会計士は税務知識を有しているがゆえに、財務諸表監査を行い得るのであり、その結果である監査意見によって、財務諸表に対する社会的信頼性が確保されているのである。しかしながら、今回の税理士法改正が実施されれば、税務知識がないとされる公認会計士が表明した監査意見については、その品質が否定されることになり、特に、海外から見た場合、日本の公認会計士監査に対する信頼は大きく損なわれることになる。この結果、我が国企業の事業活動に悪影響を及ぼす可能性がある。
 
3.日本の公認会計士の国際的信頼性の確保
 我が国の公認会計士は、他の先進諸国の公認会計士と同様に、公認会計士試験や業務補助等を通じて、税務知識を習得している。したがって、この公認会計士に対して、改めて税法に関する能力担保措置を講ずる現実的必要性はない。そればかりか、敢えて能力担保措置を講じた場合には、我が国の公認会計士の能力に対して、国際社会から疑問を呈せられるとともに、我が国の公認会計士の国際社会における発言力の低下をもたらす。
 税理士法改正により、我が国の公認会計士を“不思議の国の会計士”としてはならない。したがって、世界の公認会計士業界の常識では理解できない今回の税理士法改正については反対である。
 
(2)現在の公認会計士試験の租税科目と研修における比重

本部理事 近畿会 副会長 田 篤

 
 公認会計士が税務に関する十分な知識を有していることは、昭和26年の税理士法制定要綱に基づき制定されている現行の税理士法において既に確認されている。
 もとより税理士試験を合格した税理士は、合格した税法科目についてのみ税務サービスの提供が許されているわけではなく、すべての税務サービスを提供することができる。これは、専門家としての資質が一定水準以上であることが試験により確認され、その後の研修や実務を積むことによって国民の期待する税務サービスの提供が可能であると考えられているからである。
 公認会計士及び弁護士は、同様な意味において税務の専門家としての資質について法制度的に確認済みであることは明白である。すなわち、公認会計士については、昭和26年の税理士法制定要綱により、公認会計士試験に租税に関する試験が課された。現在では、公認会計士試験において必須試験科目として「租税法」が問われ、さらに最終試験である実務補習所の修了考査においても「租税法」は「監査論」と全く同じ試験時間をかけて受験者の「能力」が検証されている。
 また、公認会計士試験合格者は、監査法人等における業務補助等で相当に高度なレベルの実務経験を積んでいる。例えば、会社の法人税等や消費税等の税金計算の妥当性検証、繰延税金資産の回収可能性検討、非上場会社の株式評価における相続税評価額の参照、土地等の不動産評価における相続税評価額の検討、外国税額控除や移転価格税制をはじめとした国際税務等、上場会社の監査証明過程においては、相当に高度なレベルの税務知識が不可欠であり、公認会計士が既に十分な税務知識を有していることは明白である。
 さらに、実務補習所が実施する実務補習においては、必須履修単位(時間)である270単位(時間)の履修に当たり、税務教科(税務通論、法人税法、所得税法、相続税法、消費税法、地方税法、国際税務等)について全体の30%近い78単位(時間)の講義・実習等が行われ、これに加えて、会計や監査の講義においても、繰延税金資産や法人税等の会計処理及び監査上の取扱いについて高度な税務知識を習得している。また、その知識習得レベルが修了考査の「租税法」で確認検証され、内閣総理大臣が実務補習の修了確認を行うことによって公認会計士登録を行うこととされている。
 上記の実務補習及び業務補助等の実務経験を経て公認会計士登録がなされてからも、公認会計士には、年間40単位(時間)の継続的専門研修が法律により義務付けられており、その中で法人税、消費税、所得税、資産税等の租税科目を受講し、改正税法にも適切に対応しているところである。
 さらに、現在、日本公認会計士協会において税務業務部会が設置され、税理士登録をしている会員が公認会計士としての資質及び特色を発揮して税務業務を遂行できるよう、資料又は情報の提供その他の支援により、税務業務の適切な遂行及び改善進歩が図られている。
 このように公認会計士は、公認会計士試験、業務補助等及び実務補習によって十分な実務対応能力を備えていることが、現行法制度上、明白であり、公認会計士登録後も継続的な研修等により十分な能力担保が行われている。逆に言えば、このような能力が担保されているからこそ、監査という保証業務の保証人たりえているのである。
 したがって、公認会計士は国民の期待する税務サービスの提供者として適格であるばかりでなく、国民にとって欠くべからざる資格者である。
 
3.税理士法改正に関するアンケート調査に記載された会員の声
質問10「税理法改正に関する意見(案)」に反対である場合、あなたの意見はつぎのうちどれに該当しますか?(複数回答可)

 
 少数意見ではあるが、「その他」回答には、下記のような意見があった。
 
租税法の試験を行っていない弁護士に対して税法の試験が要求されないのに、租税法の試験を通過した、公認会計士に税法の試験合格を課すのはいたって、不合理である。
 また、税法の知識の有無は顧客が決めることであり、最低限の税務知識を有している公認会計士には、当然、税理士業務を認めるべきである。
能力担保を理由に公認会計士に試験を課すことは、現在、公認会計士で十分な品質の税務サービスを提供する人たちを否定する内容でもある。現在、提供されているサービスの品質について、十分に検証される必要がある。
 また、近年の会計士試験合格者の増加を懸念しての改正かと思われるが、能力が十分ではない者が税務サービスを提供しようとしても、市場原理に基づき淘汰されるはずであり、これを税理士登録時にペーパーテストを設けても根本的な解決にはなっていない。
税務業務を独占したい一心かもしれないが、そもそも会計士であろうが税理士であろうが弁護士であろうが、力のないものは市場で淘汰されるのが原理であって、入口である資格制限を設ける必要を感じられない。
税理士試験自体、複数科目のうち一部の科目の合格で税理士取得となり、例え受験上酒税法を取得しなかった。としても、実務では酒税法に携わることができる。税理士法を改正するならば、各税理士の担当業務と受験科目に不一致があれば、その者にも試験を受けなおさせる等の措置をしなければ平等ではないと思います。
国税専門官等が試験の全部または一部を免除されて資格取得できることへの対応がなければ、改正の趣旨からして片手落ちであるから。
CPAの最近の合格者にレベルの低い者が存在する事自体が一番の問題。税務は能力主義。CPAに資格を与えたって、能力の無い者には客は付かない。客はそれほど馬鹿ではない。税理士協会も分かっているはず。
 会費の問題?
公認会計士・弁護士に試験を課すのであれば、税理士試験合格者、国税OBについても定期的に(例えば10年毎)に見直しの試験を実施すべきである。
そもそも、税理士のサービス提供先(顧問先)にとって、メリットのある改正とはいえず、デメリットが大きいのでは。
 グローバル企業の監査など様々な経験のある職業会計人(公認会計士)が税理士業務を行うことは、税理士業界のサービスレベル向上にも役立ち、税務顧問先にとってもメリットが大きいと思われる。それに制約を加える制度の意義が感じられない。
そもそも、歴史的背景を考えれば会計士の数が不足していたために税務専門家を創設したものであり、あえて会計士の資格から税理士を除く必要は無い。
 (むしろ当初の趣旨に戻って、会計士法を把握して、税務業務も含めることも考慮しても良いとは思う)
税理士会は公認会計士の税務的能力が不足しているから税理士登録に際して租税法試験を受けよと主張するが、その具体的根拠または統計データを税理士会は示すべきである。
日々の監査業務で培った事例探索能力、法律解釈能力及び法律探索能力により、税理士試験を課さずとも税理 士業務は十分遂行可能である。税理士の職権擁護にしか思えない。
公認会計士が会計監査において信頼性を担保する財務諸表には、税務に関する論点が存在しており、実務を通じて税務のスキルを身につけているため。
上場企業の顧問税理士であるにも係らず、極めて税務知識が不足している税理士が多数存在し、監査人が税務の誤りを指摘する場面が多い。このことから、どちらが税務知識が不足しているのか、再度確認してもらいたい。
公認会計士が行っている税務業務の品質が低いと思わない。何か問題があるのであれば、刑事事件、民事事件、税務査察の割合など客観的指標を示すべきである。
 
質問11「税理法改正に関する意見(案)」に賛成である場合、あなたの意見は次のうちどれに該当しますか?

 
 少数意見ではあるが、「その他」回答には、下記のような意見があった。
 
税理士が公認会計士に客を奪われないようにするための法律だと思うが、税理士が客を奪われるような優秀な会計士には、税理士試験の受験くらい簡単にパスするため、参入障壁にはならず、無意味である。
税務OBやダブルマスターについて同様の規制をかけるというのであれば、我々も議論に応じる必要はあると思う。
 
質問12「日本の公認会計士は世界の会計士と同様に公認会計士法により当然に税務ができるものとすべきだと思いますか?

 
 少数意見ではあるが、「その他」回答には、下記のような意見があった。
 
税理士制度を廃止すべきである。会計士のみで税務を行うべきである。
理士資格を認めている国はごくわずかなため、何とも言えない。
今回の税理士法改正案は公認会計士と弁護士をターゲットとして削除している。原則としてという表現の例外はかなり範囲が広いであろう。したがって公認会計士法や弁護士法で税務業務ができる旨あらためて規定し、その法律根拠基盤を強固にすべきである。一方で税理士が税務当局に対して協力し行っている無料納税相談など確定申告時の社会貢献は税務に携わる以上やらなければならず、特に所得税法、消費税法とそれに関する租税特別措置法の研修は必要不可欠である。
そもそも海外では「税理士」という資格自体が存在している国が少ないと思われるため、単純に世界の会計士と比較はできないが、公認会計士試験に税法科目が入っている以上、当然に税務も実施できると考えます。
法人税、消費税、所得税は公認会計士が当然にできるものであるが、例えば相続税などは能力担保措置が必要ではないか。
公認会計士と税理士は統合して一本化すべきである(将来に向かって)。
納税者の視点にたって納税者やひいては長期的な国益にメリットがあるかないかで判断するべきと考えます。
日本のように税理士と公認会計士の資格を分けていることがそもそも経済的でないと考えます。
 
 
質問13「税理士法改正に関する意見(案)」では、公認会計士が税理士登録を行う際に能力担保措置として税理士試験の受験・合格を課そうとしていますが、改正された場合、監査事務所への影響は?

 
少数意見ではあるが、「その他」回答には、下記のような意見があった。
 
監査法人退職後の業務形態が一つ減少することになり、独立される方が減少することとなる。この結果として、監査法人等の組織の硬直化や人事の流動性が悪くなるなど考えられます。
公認会計士として独立して業務を行う際のサービス提供範囲が徒に制限されることになる。
税務業務もできることでより広範な業務の選択肢がある公認会計士を目指そうとする人々の一部が、公認会計士試験を受験せずに最初から税理士試験に向う可能性がある。この結果、公認会計士試験受験者の裾野が狭められるのではないか。
潜在的な独立希望者の独立意欲が低下することにより人材の流動性が低下し、待機合格者の就職問題が深刻化する。
将来の日本国民の利益を考えた議論になっていないことが問題です。
課す必要なし。必要な知識、経験、学ぶ姿勢が無ければサービス低下で客がいなくなるだけ。試験制度を無駄に肥大化させるだけと思います。
将来的には受験者の減少により人手不足になる可能性がある。
CPA試験の中に「税の実務試験」があるのに、更に税理士試験合格を課すことは時間のロス(個人的、社会的)となる。
税務を含めた一体的なサービスの提供が難しくなる。
公認会計士を目指す人材が減ることにより、優秀な人材確保に支障が出る。
高い税務能力を持った人材が、中小企業等広い分野で能力を活用できなくなり日本の人的資源の浪費となる。
会計士志望者は、会計士が監査のみならず会計サービス、税務サービス等の幅広い領域の業務をさばける専門家として魅力を感じ志望しているものが多い。別途税理士試験の受験等課すと、これらの魅力が低減し、ひいては優秀な人材が集まらない懸念がある。 
実務に従事してスキルアップを図ることが社会的に求められるにも関わらず、試験対策に没頭せざるをえない。同じ時間を使うにしても税理士試験の受験となると、座学の要素が増えざるをえないため、会計業界全体の質が下がり、ひいては税理士・会計士の両業界とも社会からの信頼に疑問符がつく。会計士は実務で最先端の税務を担っているため、実務での従事および継続的専門研修制度において十分能力的に担保されている。
税理士資格も同時に取得できるという魅力が無くなることは、優秀な人材が公認会計士試験を受けなくなり、結果として人材の質が下がる。
 
質問14「税理士法改正に関する意見(案)」の公認会計士に対する能力担保措置が法定化された場合、国際的な監査マーケットに与える影響は?

 
少数意見ではあるが、「その他」回答には、下記のような意見があった。
 
会計士の能力が諸外国に比べて劣っていると思われる、などと心配する前に、税務業務について諸外国より厳しい要件を求めているだけ、というアピールをすべきである。
現状では、大手や中堅の監査法人のほとんどは、海外の大手会計事務所のネットワークに所属しているため、日本の公認会計士資格の範囲が直ちに国際監査のマーケットに影響するとは思わない。
国際的な監査マーケットにおいて税理士資格と公認会計士資格の両方を有する者の価値が上がる。
業界間の争いに終始することは国際競争力を著しく低下させる。
世界的には公認会計士は当然に税務を行うことができる者とされているが、日本の公認会計士が試験に合格しないと税務業務を提供できないこととなると、グローバル企業の海外税務に関するサービスに支障が出る。
日本の公認会計士は、より監査に特化したエキスパートと見なされ、国際的なマーケットでの信用力がむしろ向上する。