寄稿

ランニングのすすめ

第42回 リレー随筆

太田彩子

 
 半年ほど前、自分のあまりの体力のなさに耐えかねて、ランニングを始めた。一般に、特別に鍛えている人を除けば、人の体力のピークは高校2年生らしいので、私のピークはとうに過ぎている。特に運動をしていなかった私の体力は、間違いなく低下の一途だった。
 体力が無いと疲れやすくなる。体が疲れると気力が出ない。帰宅するとすぐ眠くなる。明らかに1日の活動時間が人より短い気がする。「朝活」を謳う雑誌がまぶしい。
 今の年齢でこのていたらくでは、数年後は…。という危機感を抱いて、ランニングを始めることとした。

 この随筆では、立派なランニングの勧めを書くつもりはなく、(そして書けず、)「適当に走っているが、(恐らく)何とかできてます!」というような素敵なランニングの勧めを書きます。

 私は、まず手始めにスポーツジムに入会し、ランニングマシンで走り始めた。入会するジムにもよるが、外で走ることと比べてランニングマシンの良いところは、外の天候に左右されず走りたいときに走れること・自分のペースの数値コントロールが容易であること・ペースを一定に保つことができること。
 そして何と言っても、テレビが付いているところである。
 走ること自体をそこまで楽しいと思えていない初心者には、テレビを見ながら走るのは、とてもお勧めである。
 私は休日にスポーツジムに行くことが多く、予定がないときしかできないが、お気に入りは休日のお昼にやっている関西ローカルのお笑いを観ながら走ることで、これを人に言うと、笑いながら走るなんていかがなものかと思われるようだが、私は楽しんで長く走ればそれでいいので、気にしない。しかしそれでも、一人で走りながら笑っているのは気持ちが悪いので、控えめに心の中で爆笑するようにしている。
 しかも、せっかくの休日の昼間に家に居てお笑いを観ているなら、「私、何しているんだろう…」と自責の念に駆られることは間違いないが、何せランニングしながら見ているので、自分としては胸を張りたいくらいだ。
 楽しいので、1時間程度ならあっという間に経ってしまい、苦も無く走れる。夢中になれるテレビを観ながらランニング、お勧めです。
 笑いながら走っているという適当さから分かるように、私は人から正式に教わってランニングをしているわけではないので、ストレッチも、走り方も、ペース配分も、記録の伸ばし方も、全てが適当である。
 ストレッチは、足首を回すこととアキレス腱を伸ばすことくらいしかやらない。(他に何をしていいのか分からない。聞けば、ジムのインストラクターが教えてくれるはずであるが。)食事の直後に走って腹部に激痛を感じたこともあるし、考えられないほどの空腹時に走って、体に力が入らなかったこともある。ともかく、走れそうな距離を走れそうなペースで走っている。
 それでも、進歩が無いのも物足りないので、前回走ったときよりも「少し長い距離」か「少し速いペース」を目標に走るようにすると、達成感がある。ランニングマシンであれば、この「少しの進歩」が数値で選べるので良い。

 ランニングを始めた当初、得意になって知り合いに「ランニングを始めた」と言いふらしていたため、たまに「まだ走ってるの?」と聞かれる。自分でも、こんなに適当なのによく続いているなと思うが、恐らくそれがいいのだと思う。目標レースや目標タイムを設定し、記録を厳密に計り、適切な指導を受けて走る方がもちろん効用も高いだろうし、何より体を痛めるリスクも低いはずだ。ランニングに情熱をめいっぱい傾けられる人はそのようにするべきだが、私はそこまでしてランニングをしたいのではなく、体力が増強できたら嬉しいだけなので、半分くらいは苦しくても、半分くらいは楽しみたい。適当なランニングのいいところは、そんなに夢中にならないけれど楽しみたいし適度な運動をしたい、を叶えてくれるところである。