寄稿

「ありがとう台湾」

第41回 リレー随筆
辻本通孝

 
 東日本大震災という未曾有の災禍を受難した日本に対し、いち早く救いの手を差し伸べてくれた国、台湾。少しでも恩に報いようと繁忙期がひと段落した初夏の旅行を台湾にしました。我が家ではリビングの壁に真っ白な世界地図を張り、訪れた都市に日付と国旗シールを貼ることにしている。この地図は韓国を旅行した際に自宅への土産として購入したものなので「竹島」がしっかり「独島(ドクト)」と記載してあるシロモノでピリリと一味出している。
 台湾は、中国大陸の東南海岸からおよそ160キロメートル、日本とフィリピンのちょうど中間に位置しており、台湾本島と周辺諸島の面積は約3万5,980平方キロメートルと九州とほぼ同じくらいの大きさ。人口は約2,290万人で、公用語は北京方言に基づく普通中国語が使われている。歴史的には17世紀以降オランダ、日本の植民地として統治され第2次世界大戦以後は中国に復帰し、その後は蒋介石率いる国民党政府が統治し、1987年に政治的民主化が起こっている。通貨は「元」と表記されることが多いが、台湾元(ニュータイワンドル)を意味し、レートは1NTDが約3円程度(2011年7月時点)となっている。これらの基礎知識を頭に入れて日本を後にする。
 台湾桃園国際空港からバスで台湾北部に位置する台北市内に向かう。今回は日程が短いため台北付近のみの散策となった。市内は少し古い建物が目につくものの整然と開発されており、日本の気候に近いことや漢字の看板などが多いせいもあって外国であることを忘れそうな程。市内の移動はMRTと呼ばれる地下鉄が整備されていることもあり、かなりスムーズに行うことができる。
 ホテルで旅装を解いた後は、MRTで移動して中山記念堂を見学。
 蒋介石を偲ぶために建てられた台湾を代表する建築物のひとつで、皇居のような雰囲気で台北市内の真ん中に広大な敷地が設営されている。かなり大きな広場があるため、訪れた日も何かのイベントがあるらしくテレビ局が数多く集結し、芸能人らしい集団も撮影を行っていた。中でも驚いたのは台湾市民がものすごく整然と行列を作るということ。このイベントに限らず、地下鉄や他の施設などでもキレイな行列を作って、それは行儀よく順番を待っていた。大阪の地下鉄で見かけるおばちゃんにも見習って欲しいものだ。
 翌日は台湾旅行の主たる目的でもある観光地、九份に向かう。台北から少し距離があるため、MRTではなく特急電車にのって1時間ほど移動することになる。台湾は観光地を除き英語がほとんど通じないため、メモに中国語で行き先と利用したい電車の種類を書いて切符販売窓口のおばさんに提示する。電車は主に3種類あり「自強号(特急:全席指定)」「莒光号(準急:全席指定)」「區間車(各駅停車:自由席)」となり、到着時間や運賃がそれぞれ異なる。切符をもらって、自分達の乗る電車を電光掲示板で探していると違和感が。切符をよく見ると區間車の切符となっている!特急(自強号)で1時間もかかるところに各駅停車で行ってられるかと思うが、言葉が通じない相手にどうやって説明しようかと悩んでいると、隣にいたおじさんが話しかけてきた。言葉が通じなかったのでここからはジェスチャーと雰囲気でこちらが読み取った情報を元に再現。おじさん「どうしたんだ?なんか困っているのか?」私「これを見てくれ。自強号で九份まで行きたいと切符を買ったのに區間車の切符で困っているんだ。」おじさん「そうか俺にまかせな。」そう(多分)言って切符を奪い取る。自動券売機まで行き、目的地までの切符を検索してくれる。その結果、自強号は予約がいっぱいでしばらく指定席がとれないとのこと。じゃあ変わりにこれを予約してやると(多分)言って?光号で指定席を取ってくれ、さらに間違って買った切符の払い戻しまでしてくれた。「良い旅を」(多分)そう言っておじさんは笑顔で去っていった。台湾人の優しさに心が温まる。親日とは聞いていたが、なんて良い国なんだ。おじさんの余韻を感じながらホームに入り、出発時刻を確認する。40分後出発。「おい、おじさん。それじゃ遅すぎるだろ。」つっこみたい気持ちはありつつも悪気のないおじさんを責める気にはなれず、仕方なく40分待ってやっと電車に乗り込む。席を探すがここでもびっくり。切符を見ると3号車(私)と7号車(妻)に指定席が予約されている。「離れ過ぎやろ!」挙句の果てに全席指定であるはずの車内はお盆時の新幹線のごとく満員状態。
 この状況下で席が離れたら合流するのが難しいかもしれないと考え、1時間立ったままで九份に向かった。
 九份は宮ア駿監督がオスカーを獲った作品である「千と千尋の神隠し」の冒頭で主人公の両親がつまみ食いをして豚に変身するシーンの街並みのモデルとなった場所。急斜面に階段と赤提灯が印象的となっている。もともとは鉱山の街として観光地となっている。急勾配のため、一息つくためにお茶屋に入る。偶然か店の名前は「天空之城」。
 宮ア駿の影響か?心の中で「本当にあったんだ」とつぶやきながら、ぼったくり気味プライスの本場ウーロン茶を楽しむ。
 最終日は台北に戻って世界で2番目に高いタワー「台北101」に登るが台風直撃で景色は、ほぼ見えず。ここに向かう際も道に迷っていると声を掛けられ親切に道を教えてもらう。
 短い滞在ながらも台湾人の優しさに触れることのできた気持ちのいい余暇となりました。人に優しい国、台湾への旅行をお勧めします。ありがとう台湾。