寄稿

本部会長解任請求に同意した一会員の報告

西尾 宇一郎

 日本公認会計士協会会則第86条第5項及び第6項では、会員は、300名以上の会員の同意を得て、会長の解任を理事会に請求することができ、その請求があった場合、理事会の議を経て、会員の投票により会長解任の可否を問うこととされている。
 私は、会長解任請求に同意した一人であるが、解任請求があったにもかかわらず、その請求は理事会で否決され、会長の解任投票に至らなかった。強制加入団体でありながら、会長の選任及び解任に直接何らの意思表示もできない一会員として、以下のとおり、今回の解任請求について知る範囲で経緯を報告する。
解任請求
 近畿会、兵庫会、京滋会、東海会、東京会を中心に、全国11地域会から544名の会員の同意の署名を集め、6月7日付で、日本公認会計士協会理事会あてに、会長の解任請求が行われた。解任請求理由書は、次ページ以下のとおりである。
 なお、解任請求の理由は、公認会計士法改正問題ではなく、リーダーシップのなさや当事者意識の欠如(何でも他人ごと意識)等が会長としてふさわしくないからであり、それが、公認会計士法改正問題で顕著に表れたものである。
理事会での否決
 6月8日に開催された本部理事会で、解任投票の実施は否決された。「JICPAニュースレター」の記事によると、賛成13、反対58、棄権5という圧倒的な票差での否決である。
 7月6日の日本公認会計士協会定期総会での手塚副会長の報告によると、解任投票に反対する理由として、「解任請求は背徳的、背信的あるいは背任的行為の場合に限られる。」とか「(この程度の)リーダーシップや当事者意識の欠如は解任理由にならない。」といった意見が理事会で出されたとのことである。まず、前者については、解任理由を著しく狭く解釈しすぎである。こうした行為があった場合は、信用失墜行為として懲戒の対象になろうし、会員からの解任請求以前に辞任(もしくは、理事会等による強制辞任)すべきものである。後者については、リーダーシップや当事者意識の欠如が解任理由にふさわしくないのであれば、業界団体の会長の資質、必要条件は一体何なのであろうか。リーダーシップや当事者意識は業界のリーダーとして最も重要なことではないのか。また、リーダーシップや当事者意識の欠如等、解任請求の理由としている事項が、解任理由に該当するかどうかは、各会員が判断することで、理事が判断することではない。したがって、こうした反対理由は、解任投票の実施を否決する理由にはまったくならない。いったい、理事という人たちは何を考えているのか。
 ただ、近畿会選出のある理事は、「私は、解任には反対であるが、解任請求がある以上、解任するかどうかは会員の意思に委ねるべきものである」とし、解任投票の実施に賛成をされたとのことである。これが、本来、理事のとるべき行動ではないか。
 会長解任請求の規定が、平成18年の会則改正により会長選出が会員の直接投票から推薦委員会による推薦制へと移行されたことに伴い創設されたことを考えれば、解任請求の理由が、誹謗中傷、明らかな事実誤認又は権利の濫用に該当する場合を除き、解任投票が実施されるべきであると考える。
日本公認会計士協会定期総会
 会長解任請求が理事会によって否決された場合には、日本公認会計士協会会則第86条第7項に基づき、第一順位の副会長が、解任請求があった旨及び理事会が否決した理由を、総会で報告することとされており、7月6日に開催された第45回定期総会で、手塚副会長からその報告がなされた。手塚副会長の報告では、解任請求があった旨、その理由の要旨(以下の解任請求理由書の解任請求理由の表題を羅列した程度のもの)、理事会での賛否両方の理事の意見、理事会で解任投票の実施が否決された旨が述べられた。
 私は、総会での報告内容について会員がその妥当性を判断するためには、解任請求の理由が会員に開示されるべきであると考える。したがって、6月21日に、日本公認会計士協会会長あてに、会長解任請求理由書の会員への開示を求める文書を提出した。しかしながら、文書又はホームページ等で会員全般に開示されることはなく、定期総会の場でも開示はなかった。それについて、総会で質問を行ったが、納得できる回答はいただけなかった。
 また、手塚副会長の報告について、近畿会の谷晋介会員から、「会則の規定では、解任請求を否決したときは、理事会が否決した理由を報告することになっている。副会長は一部の理事の意見は報告されたが、理事会としての理由は述べていない。明らかに会則違反である」旨の質問があった。これに対する回答も要領を得なかった。もっとも、解任請求規定の趣旨からして、本件については、理事会として否決する理由は見出せないと考えられるので、その理由が述べられないのは当然であると思う。しかしながら、摩訶不思議なことに、解任請求は否決され、その旨が総会で無事報告されたのである。

 私自身、いままで、無事に公認会計士としてやって来られたのは、日本公認会計士協会(JICPA)(近畿会等の地域会を含めて)のおかげです。JICPAには、大変、感謝しています。
 JICPAの屋台骨は会長です。会長には、情熱、見識、理念があり、強力なリーダーシップが必要です。昨今の公認会計士業界は、喫緊の重要課題が山積しており、以前にも増して、会長にはこうした資質が必要とされます。(会長には、細かいテクニック的な知識は不要です。)
 個人的には、現会長は不適格であると感じていますが、会員の総意で適格と認められるのであれば、それはそれでいいと思います。これだけ多くの会員が会長としての資質に疑問を抱いている場合、全会員にその適格性を問うべきです。今回の会長解任請求による解任投票が実施されなかったことは残念です。

平成23年6月7日

日本公認会計士協会 理事会 御中

日本公認会計士協会会員有志一同 
代 表 安村 長生(東京会)
代 表 畑下 辰典(近畿会)
代 表 光田 周史(京滋会)

 私たちは、日本公認会計士協会会則第86条第5項の定めるところに従い、山崎彰三会長の解任を請求する。
なお、その理由は以下のとおりである。
 

会長解任請求理由

 平成23年4月27日の参議院本会議において、「資本市場及び金融業の基盤強化のための金融商品取引法等の一部を改正する法律案(閣法第44号)」は、公認会計士法の改正に係る第4条を削除した修正案が、賛成228 反対6の多数決で可決承認された。その後、この修正案は衆議院に送付され、5月17日の本会議において賛成多数により可決された。
  今回の公認会計士法改正案(以下「改正案」という。)は、待機合格者を抑制することを主たる目的としていたが、その効果には当初から疑問が呈され、また、公認会計士試験制度のあり方と試験合格者の就職問題とは別の次元の問題であることから、積極的な推進者は必ずしも多くはない状況であった。一方、日本公認会計士協会(以下「協会」という。)は改正案に関する直接の当事者であるプロフェッショナルの団体であり、社会的に責任のある対応をすべき責務があったにもかかわらず、改正案が廃案になる過程における協会執行部の対応は、当事者として主体的に明確な意思表示を行わず、金融庁主導の提案には反対できないという態度に終始した。
 このような協会執行部の姿勢に対し、多くの会員は疑問を抱くとともに危機感を募らせ、とりわけ「企業財務会計士」なる新たな資格の創設に対して反対の意思を示すとともに、各自の責任において政治家にも働きかけ等を行った。こうした働きかけ等を受けた政治家は、提出された法案に対する協会執行部の姿勢は必ずしも多くの会員の支持を得たものではないことを見抜き、拙速な改正案であるとして賛意を示すことなく廃案に持ち込んだものと推察する。
  このように、結果としては多くの会員の望むところとはなったものの、協会としては、改正案への賛成から廃案に至る一連の経緯と顛末から、金融庁はもとより経済界や会計専門職大学院関係者などから社会的な信頼感に疑問を呈されることとなり、計り知れない損失を蒙ることになった。
こうした現状において、協会は社会的な信頼感の回復に全力を投入しなければならないが、次の二つの理由から山崎会長にこのまま会務運営を委ねることはできないと判断する。
 
(一)社会的信頼を失墜させた会長のもとでの再出発は不可能であること
 山崎会長(以下「会長」という。)は、理事会において自らも積極的に賛成できないと発言していた改正案について強引に賛意を取り付けたにもかかわらず、その改正案の成立に向けた積極的な行動を取ろうとはしなかった。また、会長は、ある外部会場における挨拶において、今回の件に関して「時代が大きく変化するときには思いもよらないような大きな力が働き、気が付いてみると我々の力が全く及ばないところで意外な結果を招いた。」という趣旨の発言をしているが、当事者意識が欠如した信じがたい発言という他はない。このような会長が、この期に及んで協会の信頼回復に向けた如何なる発言を行ったとしても、もはや社会からの理解は得られない。したがって、今回の不幸な結果を招来させた責任者が協会のリーダーとして留まることは協会の将来にとってマイナスであり、新しいリーダーのもとで協会は再出発する必要がある。
(二)会長には当事者意識とリーダーシップが著しく欠如していること
 今後、協会は税理士法改正も視野に入れた公認会計士制度の見直しや公認会計士業務の中核をなす監査業務の拡大など山積する重要課題に対処しなければならない。とりわけ、公認会計士に関わる制度設計の再検討には当事者である会員の理解と協力が欠かせないが、会長には当事者団体の長としての問題意識と責任感・使命感が著しく欠如しており、このまま会務運営を委ねることはできない。なお、問題意識と責任感・使命感が欠如している事例を次ページ以下に示す。

  ついては、今般やむを得ず協会会則の定めるところに従って会長の解任を請求するものである。
1.会長の会務執行に対するスタンスとリーダーシップの欠如
 (1)改正案廃案に至る過程における会長の当事者意識の欠如
 協会執行部は、改正案において示された「企業財務会計士」には社会的な意味がないこと、その名称に「会計士」が含まれることによって社会的混乱が生じること、さらには、このような中間的な資格を創設しても企業等の採用ニーズが強まることは期待できず*1、したがって待機合格者の抑制には効果がないことを認識していたという。しかも、法律改正と試験合格者数の低減(待機合格者問題の解消)とは別の問題であると認識していたようであるが、結果として金融庁の「法律改正なくして試験合格者数の低減はありえない」という発言に翻弄され、社会的プロフェッショナル団体としての責任ある行動をとることができなかった。
 すなわち、今回生じた問題の最大のポイントは、大多数の会員が反対である「企業財務会計士」資格の創設を主な内容とする改正案に対して、協会自身が反対といえなかったことにある。つまり、理事会において「改正案に賛成して合格者数を減らすか、それとも反対して合格者数を据え置くか、いずれを取るか。」と、あたかも踏み絵を迫るかの如く恫喝して賛意を誘導し、その結果を内外に表明しておきながら、協会執行部は法案成立のための積極的な行動をとらなかったことにある。この点についての会長の弁明は「この件は前執行部か ら引き継いだ案件であり、社会的な合意形成にあたっては協会の主張だけが通ることはなく、やむなく賛成した。」とのことである。このような弁明の根底には、金融庁には逆らえないという協会のプロフェッショナル団体としての独立性に悖る姿勢があったという他はない。
 その結果、改正案の廃案に対して外部からは「協会が仕掛け、協会が潰した」と受け止められており、ひいては今回の協会の対応は理解できないとも批判されている。その意味で、協会は社会的な信頼性を大きく損なうことになったのである。こうした不幸な結果を招来したのは、偏に会長の当事者意識を欠いた姿勢、すなわち責任を前執行部に転嫁したり、合意形成のプロセスにおいて明確な意思表示をしようとしない姿勢に基因するのであって、その責任は重い。
*1 週刊経営財務4月25日号「会計専門家に関する実態調査が意味するもの?公認会計士の活用領域拡大に向けて」によると、企業での会計専門家の必要性に対して「必要」と回答した上場会社CFOの割合は23%に留まる結果が報告されている。
(2)責任の所在を曖昧にするリーダーとしての矜持の欠如
  改正案廃案が確定した後に開催された5月の理事会において、会長以下執行部の責任を問う声が多くの理事から発せられたと仄聞する。発言を控えられた理事も少なくないようであるが、会長はこれらの声に対して「責任は全て自分にあり、然るべき時期に然るべき責任を取る。」と回答したと聞く。
  しかし、その理事会から既に三週間余が経過しようとしているにもかかわらず、責任の所在は曖昧に放置されたままであり、それが明らかにされた事実は窺えない。いやしくも協会のリーダーたる者が「責任を取る」と明言した以上は、その言葉は重いはずであるが、これを軽んじているとすれば、もはや会長はリーダーとしての矜持すら持ち合わせていないと判断せざるを得ない。
(3)協会ガバナンスにおける専務理事の取扱い
 協会会則第84条第2項において、副会長は「会長を補佐するとともに、会長の定めるところにより会務を分掌する。」とされている。一方、同条第3項ないし第4項において、専務理事は「会務執行に関し会長及び副会長を補佐するとともに、本会会務を総括的に掌握し、常務理事が分掌する会務の調整を行う。」とされ、さらに、「事務局スタッフ(地域会事務局の職員を含む。)を統轄する。」とされている。
  ところで、実質的な協会の会務執行の方向性は正副会長会議において合意されているものの、副会長が理事会において公認会計士制度や協会ガバナンスのあり方といった組織的な重要議案に対して積極的に発言する機会はほとんどないと聞く。これに対し、事務部門の責任者で会長及び副会長を補佐する立場に過ぎない専務理事が、本来副会長が果たすべき「会長の定めるところによる会務」を分掌しているかのような実態が垣間見られるようである。このような実態に対し、会長と専務理事のいずれが協会の責任者か判然としないという会員の声も少なくない。
  会長は会則等の定めるところに従って適切なガバナンスのもとに誠実に会務執行にあたるべきところ、そのような認識は全く感じられず、会長のリーダーシップに対して疑問を払拭できない。
2.理事会の監視機能を軽視した理事会運営
 本年3月の理事会に、監査業務審査・綱紀事案処理体制再整備要綱案が審議事項として提出された。この案件は、協会の自主規制機能の充実・強化を図ろうとするものであるが、その一方で会員の権利・義務に大きな影響を与えるものでもある。しかし、その起案に際しては、監査業務審査会委員及び綱紀審査会調査員等の関係者の意見に真摯に耳を傾けることなく、唐突かつ拙速に提案されたものとの印象が拭えない。形ばかりのデュープロセスは踏んでいるものの、理事会及び関係者の意向を軽視しているとしか思えず、理事会においても相次ぐ異論に対して多数決で執行部案を貫くという対応に終始している。
 これは一例を示したに過ぎないが、会長には議論を深めて多くの理事の理解と賛同を得ようとする姿勢は見られず、多数決を奇貨とした強引な理事会運営に終始しており、理事会の監視機能を軽視するものと言わざるを得ない。
3.業務拡大に対する認識の欠如がもたらす不幸
 現在、公認会計士の中核業務である監査業務の規模は残念ながら縮小傾向にある。このような傾向に歯止めをかけ、公認会計士制度の順調な発展を促すためには、適時適切に社会的ニーズを掘り起こし、業務拡大を図ることが喫緊の課題である。
この点、株式会社林原とそのグループ会社の破綻事件*2に端を発した会社法監査忌避問題や地方自治法抜本改正に伴う外部監査のあり方に関わる会長の対応は、当事者意識を著しく欠くものであり、逆に第三者として傍観している感すらある。例えば、前者の事件の発端は今年1月であったところ、およそ半年を経た今日現在においても、協会は沈黙したままであり、他にも存在するであろう会社法監査を忌避している株式会社に対して明確なメッセージを発信しようとすらしないのは何故か。それは、協会が業務拡大を指向することは、パブリック・インタレスト*3に反するような思考が会長にあるからではないのか。もし、そうであるとすれば、公認会計士制度の発展が経済社会の発展に寄与しないということを自認するものに他ならず、これを看過することはできない。ましてや、大量の待機合格者を抱えている現状下では、業務の拡大こそが解決の糸口となるのであって、決して企業財務会計士などという意味不明の資格の導入ではないことは火を見るよりも明らかである。
このような会長の会務運営は、公認会計士法第43条第2項に掲げられている協会の目的が「第2条第1項業務の改善進捗」にあることを失念したかの如きであり、会務執行責任者の資質を欠くものと言わざるを得ない。

以上

*2 事業再生ADR手続の申請が1月25日、会社更生手続開始申立ては2月2日、会社更生手続開始決定が3月7日である。
*3 ここでは、公共の利益または社会的利益の意味で用いている。