寄稿

「共通すること」、「違うこと」それぞれにそれぞれの面白みがある

第40回リレー随筆

岡田 修

 「地球には多くの生物が存在している。細胞の数で比較してみると1つの細胞よりなるものから数百兆個の細胞よりなるものまで存在する。」これは、自分の修士論文の書き出しである。このリレー随筆の依頼を受けた時、ちょうど学部時代に属していた研究室の元同僚と飲みに行くことになった。せっかくなので、学部・大学院で専攻してきた生物化学(いわゆる「基礎研究」といわれる分野であり、応用が「医学・工学」の分野である)の話を踏まえて、自分への将来の課題を書かせていただくことにする。
 ヒトも例にもれず、約60兆個の細胞よりできている「集合体」である。この「集合体」は、様々な環境の中で成長し、1人1人それぞれ容姿も性格も行動もまったく違うものとなっている(ときどき、そっくりさんが、いらっしゃいますが)。
 それが「個性」である。
 だからこそ、反りが合ったり、合わなかったり、社会は面白おかしいものとなっている。しかし、この異なる「個体」である「ヒト」をよりミクロに見ていけば心臓・胃・腎臓などの「器官」、さらにミクロに見れば平滑筋・上皮などの「組織」、さらにミクロに見れば「細胞」となっていく。ここまでくると正常であれば、人それぞれでほとんど変わるものではない。さらに、ミクロに見ていけばたんぱく質・脂質といった「分子」のレベルまで来ると、人それぞれ共通して保有するものである。このたんぱく質・脂質の「分子」レベルにおいて何かの要因での異常がおこると、上位レベルの「個体」にまで影響する様々な疾患が発症する(その一例が、「強い紫外線を大量に浴びることによる皮膚がん」である)。
 よって、現在の生物化学の主流となる研究は、人が共通に保有する個々の「分子」の働きを探るものとなっている。具体的なアプローチの1つが、疾患という「異常」から当該「分子」の分析をすることにより、健康であるときの体内で起こる働きを知るという、アプローチである。「個体」での違いがあるからこそ、必要な働きを知ることができる。この点において生物化学の面白さがある。
 さて、このような分野に身を置いていたわけであるが、この会計監査の業界に入れていただき、はや2年半となる。最近、ひしひしと感じることがある。
 「企業も生き物なんだなぁ」
 現在の業務で携わる、個々の企業はそれぞれやっていること・目標とすることはそれぞれ違う「集合体」である。だからこそ、企業の持つそれぞれの違う「企業風土(個性)」を感じ取れることは面白い。しかし、ミクロに見ていけば取引方法は、業界特有の慣行がありと多少違う部分もあるが、業種が違っても、個々の企業ごとで共通する点が多い。だから、あるべき方法・望ましい手法を提案することができる。また、同じように生まれた企業でも、時間を経る中でうまくいく企業もあれば、うまくいかなくなる企業も当然ある。企業「集合体」を脅かすものとして、今年の東日本大震災のように突発的で巨大な外的要因による不具合や、IT等のビジネスの中で生じたちょっとした不具合など様々なものが要因となる。突発的な流行によるインフルエンザや日ごろの飲みすぎによる不摂生(自分のことか?)など様々な要因により、「集合体」であるヒト全部がダメになる可能性がある点で、よく似ているものである。
 話は飛んでしまうが、冬になるとインフルエンザワクチンを打つ人が多いと思う。あらかじめ、注射することで「分子」レベルの反応により免疫機能を働かせ「個体」全体を病気から予防するものである。現在の自分の業務は、企業「集合体」が不具合を生じさせる前に指摘をしていこうという点で、このワクチンに似たものであるのかもしれない。
 昨今、多剤耐性菌や鳥インフルエンザなどのように、病原体によるニュースがトップニュースになったりする。病原体は、常に進化しており、ワクチンや抗体などの我々の体を防御する薬剤の開発も日進月歩で進んでいる。それは、研究分野での話ではあるが、自分の周りをよく観察すれば、大衆薬市場の変化やM&A等が頻繁なバイオ・製薬業界などのように、様々な要因により企業の戦略やあり方も時に合わせて変わってきている。また、国際会計基準・国際監査基準に合わせて基準も変わりつつある。生物化学の目線で考えれば、その変化に対応できるように常にアップデートが自分に求められているのだろう。まだまだ、ついていけていませんが…(やられないように、がんばります。)
 このように、全く違うように見える生物化学と会計監査にも、考え方は共通する部分が多いのです。もちろん、実験をしないので、違う部分も多いのですが、それは、また、別の機会に話させていただきたいと思います。
 まだまだ若輩者ですが、「随筆」ということで好き勝手に書かせていただきました。これも、1つの「個性」として、笑って見逃してやってください。
 
【おまけ:せっかくなので、ちょっとだけ、実験室の中をのぞいてみよう!】

<タンパク質「分子」構造解析用の実験装置(核磁気共鳴装置)>

これでも、国内では中程度の装置。国内最大の装置は横浜にあって、3階の建物ぐらいになります。健康診断で使うMRIに似た装置。

<細胞培養のための環境づくり>

「分子」に違いを与えた「細胞」を培養する環境。真ん中のシャーレに培養する細胞を入れます。赤い液体は、培養液。
このあと、恒温の培養環境で育てます。