特集

第2回 奮闘する“企業会計士”
「喜びのタネをまこう」と企業内会計士

株式会社ダスキン 経理部 連結管理室 室長 今井幸彦

 
1. 私の勤務する会社
 私の勤務する会社は、ダスキンという会社です。何をしている会社かといえば、掃除用具(モップ、マット)のレンタルやミスタードーナツなどをフランチャイズ形式で展開している会社です。当期で50期(平成23年4月〜)を迎えますが、上場したのは最近で第45期の時です。消費者向けの事業ですので、比較的知名度があったのか、東証1部(サービス業)に直接上場させていただきました。ダスキンという社名の由来がちょっと面白くて、元々は「株式会社ぞうきん」にしたかったそうです。しかし、あまりにもそれでは名乗りにくい…ということで、英語で「ぞうきん=dustcloth」なので日本語と組み合わせて「duskin」になったということです。しかし、かっこよくしたとはいえ、なぜ「ぞうきん」を社名にすることになったのかというと、創業時の主力商品がアメリカから持ち帰った、吸着剤を浸みこませた特殊なぞうきん「化学ぞうきん」だったからでもあるのですが、「掃除」など、消費者の日々の暮らしを通じて社会のお役に立ちたいという思いがあったということもあります。「消費者や社会のお役に立つことができれば、利益は必ず後から追いかけてくる」という考えに基づき創業しており、経営理念としている「喜びのタネをまこう」もそういう考えによります。「人」が商品であるサービス業の本質を表しているなと思っています。

株式会社ダスキン企業情報
http://www.duskin.co.jp/corp/index.html

2. 仕事の紹介
 私は、新日本監査法人に勤務していたのですが、約6年前の34歳のとき、上場準備でてんやわんやしているときに、縁があって中途入社しました。上場準備室に先輩の公認会計士がいたこともあり、私は経理部に配属となり、主に連結決算と開示を担当しました。入社当初は、非上場だったこともあり連結決算や開示資料などは、システムも社内の情報収集の体制も人員も十分に整備されていない状態でした。四半期決算体制、決算早期化、月次連結決算体制の構築といったところが主たるお役目でした。当時は、残業続きでつらかったですが、上場した時には一緒に頑張った経理の仲間と静かに祝杯を挙げた記憶があります。今では部下も成長したので、決算の一時期以外、残業は少なくなりました。でも、会計士ということで職務分掌と関係なく、数字にまつわる話はなにかと振られる傾向にあり(社内なので無料ですので)、そんな時はできる限り対応していますが、公認会計士という外見でみんなが期待する役割と自分ができることとのエクスぺクテーションギャップを感じますが、いろいろと経験させていただいています。
 
3. 会社の経理の仕事について思うこと
 経理の仕事について思うことは、「楽(らく)して早くできて合っていれば八方よし」ということです。僕が入社当時、担当役員が「お前ら、ちゃんと出来ていたら 遊びに行って別に会社に来んでもええぞ」とか「事務所で机に座ってんと事業部とかに遊びに行け」というようなことをいつも言っていました。多分、重要なことは@「情報収集して早く判断し分担できることは決算前に作ること」とA「間違えない仕組みを作ること」だと思うのです。
@は、当たり前の話ですが、決算日が来てから決算するから忙しいのであって実は、決算日が来なくても入れられる伝票はかなりあるし、処理を月次に前倒しすれば決算は単なる月次+αになります(月次に反映されていれば、経営者への報告も月次段階から報告されているので簡単になります)。また、新しい会計基準への対応についても、決算準備段階で会計処理から最終的な開示まで整理し監査人とコンセンサスを得られていれば、必要な情報を整理しシステム構築が必要か考えて準備するだけです。結果、予定通り数字ができれば、無用な決算時期の監査法人や事業部との混乱(監査法人に間違いを指摘されたり、事業部に決算の修正を依頼するとか)は避けられると思うのです。
Aは、人間間違えるのだから、極力間違えて怒られる奴を減らすため間違えない仕組みを作りたいと思うのです。当然ですが、会社で数字を間違えたら怒られます。部下には僕も怒らなければいけません。でも、無限に残業してしらみ潰しに数字を突合しろとは言いたくないです。自社で翻って考えてみたときに、できた数字の間違いは単純な「転記ミス」なども考えられますが、これは今どき少なく、「基準の解釈や方針の確認漏れ、勘違い」「社内・部内の情報の伝達漏れ」などが圧倒的に多いと思います。ということは、財務会計において企業の経理に求められるのは経営陣と監査法人との会計基準の解釈に認識違いがないか整理・調整し、決まった方針や会計処理を正確に事業部・子会社や部内・部下に伝達することだと思います(自分もできていないのですが)。これがうまくいっていないと、決算作業中に「部下」又は「事業部・子会社」は結果的に間違った数字をあげてくるし、「監査法人」は修正しろと言ってくることになります。
 監査法人にお願いしたいのは、可能な限り相談事項には乗ってもらいたいし、「○○対応しています?」とかの新しい会計基準の情報を教えていただきたいのです。決算作業が始まるまでクライアントの会計処理をどうも他人事のように考えているようなところがあるように思うのです(一方、企業は新しい会計基準の難易度や論点もわかっていない)。会社側は、会計処理や開示をするためには数カ月前から準備をしているので、なるべく早く情報をいただきたいし、方針を判断してもらいたいと思っています。近年、監査法人では粉飾決算事件や会計基準の見積要素増加などでクライアントの相談事項は、責任転嫁されそうで避ける傾向があったと思います(指導的機能の後退?)。しかし、監査の観点からも企業と監査法人のコミュニケーションが十分できていれば監査リスクはかなり低減できると思うのです。企業の決算作業も監査法人の監査手続もお互い過度な残業を避けるためにできることはいろいろあると思います。
 
4. 企業内会計士ネットワーク
 今の会社に転職してから、公認会計士登録はしておりましたが、普段は特に「公認会計士」と名乗ることもなく、社内でも私しか会計士はいなかったため(今はキャリアナビで後輩を採用できました)、会計士業界とは縁遠くなっていました。入社当初は忙しくて思い及ばなかったのですが、自分も協会に登録しているのだから人脈や視野を広げるために協会に参加しなければと思っていました。そんなことを思っていた去年の秋ごろ、公認会計士協会で行われた公認会計士試験合格者の採用説明会で企業内会計士ネットワークをご紹介いただき、以後参加させていただいております。ネットワークでは、「会計士が企業の中でいかに働くべきか」とか「業界としてどうあるべきか」など自分の存在意義や生き方などのよろず相談から、「東日本大震災対応の開示や会計処理」の財務会計的な議論から予算統制や業績予測開示の話までいろいろな議論がされています。一方、ネットワーク自体ができてから日が浅いのでこれからどういう会にするか作っていく段階でもあります。企業に所属していると仕事で忙しく、協会活動自体が社内で評価されるわけでもないと思うのですが、公認会計士という国家資格を名乗っている以上は社会的存在なので社会のために、業界のために、後進のために企業に所属されている会計士の皆さんに是非、駆け出しのこのネットワークに参加してほしいと思います。

経理部の仲間とオフィスにて、左から3人目が決算経理室室長、左から
4人目(中央)今井、右から3人目が社内税理士、あと連結管理室メンバー