寄稿
第38回 リレー随筆

  繁忙期の一息

上原 豊

 只今、期末監査の真最中。この時期が会計士の腕の見せ所。パソコンに向かい、契約書と睨めっこ。クライアントにしつこく質問。不適切な会計処理を指摘するとクライアントが嫌な顔。そんな日々が繰り返される毎日。
 ある日、依頼していた資料がなかなか出てこないので、上司の目を盗み監査室を出る。ちょっと息を抜くため、喫煙室で煙草に火を付ける。口と鼻から吹き出した煙草の煙が空を浮かぶ雲と交わり、その雲の流れを見ながら・・・休日はドライブに行こう。僕は煙草の火を灰皿で消し、また足早に監査室に戻った。

 今日はドライブ日和。何も考えずに車に乗り込み、阪神高速を走る。ふと、気がつくと明石海峡大橋の標識が目に止まる。何かに引き寄せられるかのように阪神高速から明石海峡大橋に向かう。明石海峡大橋に差し掛かった。でも、僕は風景を眺めることもなく、思うことは、この橋の原価はどれくらいなのだろう、人件費は原価の何%を占めているのだろう・・・そんな職業病を患いながら、車を進めていく。

 明石海峡大橋を渡り終えると、そこは淡路島。小学生の時、祖父と一緒に遊びに来たものだ、そんな懐かしい思い出に浸っているうちに、大鳴門大橋も渡り、四国に到着。家から2時間運転し続けて疲れた体をリフレッシュするため、パーキングエリアで一休み。周りを見渡しても目に映るのは、青々とした山々。でも、そんな景色は、昨日まで数字ばかり見ていた僕にとって、どんな目薬よりも目を潤してくれる。

 その後、缶コーヒーを手に取り、会計を済ますためレジに向かった。精算をするとき、さぬきうどんのチラシが目に止まる。僕は車のエンジンをかけ、何も考えずにさぬき市に向かった。さぬき市で有名なうどん屋に入った。「いらっしゃいませ」と気の良さそうなおばちゃんの声。笑顔で案内してくれた。そんな笑顔が、不適切な会計処理を指摘したときのクライアントの嫌な顔を忘れさせてくれた。卵うどんを頼んだ。本場の、有名なうどん屋だけあって美味しかった。

 うどん屋を出て、市内を車で観光した。地図も見ずに、ただ当てもなく車を走らせた。ふと気付くと、桜並木があるのを見付けた。昨日まで桜が咲いていることを忘れるほど忙しかった。車を路肩に停め、桜並木を潜った。桜は本当に綺麗だった。

 日が落ちてきた。明日もまだ繁忙期が続く。今日は繁忙期の一息。僕は再び車に乗り込みエンジンをかけた。明日の監査業務は重要項目だ。僕はアクセルを強く踏み込み、帰路に着いた。