|
|
国際委員会主催 |
|
有限責任監査法人トーマツ 秋山雅彦 井尾武司 |
|
公認会計士協会近畿会国際委員会では、国際会計基準・国際財務報告基準(以下総称して、IFRS)の近畿会会員向けセミナーの開催を本年度の重点活動としており、5回シリーズのセミナーを開催いたしました。今回はその5回目となり、下表にありますとおり、金融商品、法人所得税、外貨換算の各基準についてセミナーを開催いたしましたのでご報告させていただきます。 | |
(第5回IFRSセミナー概要) | |
|
|
第5回セミナーは、前半部分として「IAS第39号 金融商品−認識及び測定」と「IFRS第9号 金融商品」の両基準を秋山雅彦が解説し、後半部分として「IAS第12号 法人所得税」と「IAS第21号 外国為替レート変動の影響」の両基準を井尾武司が解説いたしました。 まず、金融商品については、現在IASBでの改訂作業が行われているところであり、「分類及び測定」の改訂は終了しましたが、「償却原価及び減損」「ヘッジ会計」のプロジェクトは引き続き進行していることを説明いたしました。この改訂により、1)分類方法が変更されること、2)分類方法により期末評価だけでなく売却時点においても会計処理に大きな影響を与えること、3)市場価格のない資本性金融商品についても原則的に公正価値評価が要求されること、4)公正価値で評価される金融資産については減損処理がなくなること、5)減損処理を将来の予想損失に基づいて処理する方向で議論が行われていること、6)ヘッジ会計を企業のリスクマネジメント活動と整合性のあるものとする方向で議論が行われていること、という6点が現在の金融商品会計の方向性を理解するうえで特に重要なポイントとなるため、その点を重点的に説明いたしました。 現状のIAS第39号は、金融資産の分類・測定カテゴリーが多く、カテゴリー変更の考え方も複雑であったことから、IFRS第9号ではシンプル化が図られている旨を説明し、償却原価で測定される金融資産、純損益を通じて公正価値測定される金融資産(FVTPL)、その他の包括利益を通じて公正価値測定される金融資産(FVTOCI)の3種類へ分類する方法を説明いたしました。この分類によりFVTOCIのカテゴリーに指定されたものは、評価差額だけでなく売却差額までその他の包括利益で処理しなければならず、売却損益を計上することができなくなります。また、公正価値で評価する金融資産は、評価差額と売却差額が同じ区分で計上されることになるため、減損処理を行う必要がなくなることを説明いたしました。 また、現状のIAS第39号では、市場価格のない資本性金融商品を取得原価で評価することが認められていましたが、IFRS第9号では取得原価が公正価値の適切な見積となるような限られた場合でなければ、公正価値評価しなければならないことについて解説いたしました。 金融資産の減損は、IAS第39号で採用されている発生損失モデルでは何らかの損失事象が生じることでようやく損失が認識されることになりますが、これでは信用リスクの変動を的確に反映できないという批判があり、公開草案として予想損失モデルを採用することが提案されています。この予想損失モデルでは、将来の信用損失を将来キャッシュ・フローに反映した償却原価で測定することが考えられていることを説明いたしました。 ヘッジ会計は、原則主義で複雑なヘッジ会計を、単純な目的主義のアプローチに置き換え、企業のリスクマネジメントの実務をより良く反映するための改訂が進められていることを説明いたしました。 その後、現状のIAS39号における減損処理とヘッジ会計について、大きく日本基準と異ならないものの、IFRSで特徴的な部分を中心に解説を行い、前半を終了いたしました。 続いて、講師を交代し、後半部分の法人所得税と外貨換算について解説を行いました。両基準は日本基準の考え方と整合する部分の多い基準であり、前半の解説にあった金融商品会計よりもなじみやすい基準であることを説明いたしました。その上で、両基準の詳細な解説に移っております。 まず、IAS第12号については、基準の構成及び概要を述べた後、日本基準との差異を中心に、2009年3月に公表された法人所得税に関する公開草案及び2010年12月に公表されたIAS第12号の改定についても解説を行っています。 IAS第12号は繰延税金(Deferred Tax)に関する会計処理を定めるほか、当期税金(Current Tax)についての規定も含まれています。当期税金については、当期税金資産・負債の認識及び測定について規定されています。ここで、公開草案の中では税務上の不確実なポジションに対する負債の認識について触れられていることを解説いたしました。これは、米国会計基準におけるASC740(旧:FIN48)の考え方と基本的には同様のものであり、将来の税務リスクを見積もって会計処理を行うことが要求されているものです。公開草案が確定し、基準として適用された場合は、当期税金の計上について日本基準とIFRSとの差異の一つとなると考えられます。 さらに、日本基準とIAS第12号との差異として、未実現利益の消去に関する税効果について説明いたしました。日本基準では資産の売り手において課税関係が終了していることから、例外的に売り手の税率により税効果を認識する一方、IAS第12号ではそのような例外は設けずに原則通り買い手の税率を使用する点が差異となっています。加えて、日本基準とIFRSとの差異として、日本基準では繰延税金の発生原因により流動・固定の表示を区分することに対し、IFRSでは全額非流動として表示する点を解説いたしました。 また、税効果会計を適用するにあたってのポイントである、繰延税金資産の回収可能性について、IAS第12号での考え方を重点的に解説いたしました。IAS第12号では、繰延税金資産の計上要件として、主として将来加算一時差異が十分にあること、及び、将来減算一時差異が解消するのと同じ期に課税所得を獲得する可能性が高いこと、の2点が考慮されます。一方、日本基準では「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取り扱い(監査委員会報告第66号)」により、一時差異のスケジューリング可否に判定基準を置くほか、一時差異の金額と課税所得の比較により会社区分を設ける考え方がとられています。このように、回収可能性の判定における考え方に相違がみられるため、日本基準とIFRSで回収可能性の判断方法が異なる点を解説いたしました。 IAS第12号の解説の最後として、昨年末に公開されたIAS第12号改訂:「繰延税金:原資産の回収」の解説を行いました。これは、IAS第40号の公正価値モデルを適用している投資不動産について、「売却により簿価が回収されるという反証可能な推定をする」という 例外規定を設けたものであります。これは、IAS第12号第51項の「繰延税金資産・負債の算定にあたっては、資産及び負債の帳簿価額の回収または決済を行おうとしている方法から生じる税務上の影響を反映しなければならない。」との規定に対して、一部の国では将来の回収方法(例えば、売却収入か賃貸収入など)に応じて税率が異なるなど、実務への適用が困難な局面が生じていたことによるものです。そのため、本改訂により、当該投資不動産については売却による回収を推定することにより、会計処理の適用が容易になりました。 続いて、IAS第21号の解説に移りました。IAS第21号は外貨建て取引及び在外営業活動体の財務諸表の換算について定めている基準であり、基本的には日本基準の考え方と整合していますが、ポイントとして機能通貨の概念が導入されていることを解説いたしました。機能通貨は日本基準ではなじみの薄い概念であるため、企業は機能通貨を決定しなければならないこと、及び、IAS第21号は外貨建て取引の機能通貨への換算と機能通貨から表示通貨への換算という2つの局面での換算方法を規定している基準であることを強調して解説いたしました。 最後に、司会より閉会の挨拶及び質疑応答を行い、本セミナーは終了いたしました。 近畿会国際委員会主催のIFRSセミナーは第5回を持ちまして、全てのセミナーを終了いたしました。本5回のセミナーはいずれも昨年を上回る人数の参加をいただき、IFRSに関する意識の高まりを実感しております。セミナーを通じ、会員の皆様におかれましては、IFRSについての理解をより深めていただけたことと思います。IFRSの導入が日本企業にとっても大きなテーマとなっているため、本セミナーが会員の皆様の一助となり、皆様がさらなるご活躍をなされることを祈念いたします。 |