特集

パネルディスカッション

 
 講演に引続き「企業が直面する5つの壁と公認会計士の対応」をテーマに、パネルディスカッションが行われました。
 パネリスト、コーディネーター及びオブザーバーは以下の方々です。
<パネリスト> <コーディネーター> <オブザーバー>
中島 伸也氏(東海会)
北岡 愼太郎氏(京滋会)
東良 徳一氏(近畿会)
和田 朝喜氏(兵庫会)

加藤 博久氏(北陸会)
鶯地 隆継氏
(住友商事株式会社ファイナンシャルリソーシズグループ長補佐、IFRS解釈指針委員会委員) 
山崎 彰三氏(協会本部会長)
 
 コーディネーターの加藤氏、パネリストの中島氏、北岡氏、和田氏は、それぞれ所属の監査法人でクライアントのIFRS導入の支援をされています。パネリストの東良氏は、23年にわたりドイツで監査法人に所属され、2005年のEUのIFRS導入を経験されていました。
 基調講演で鶯地氏より、「IFRS導入における企業側の課題」として、企業が直面する5つの壁を挙げて、プロジェクトマネジメントの観点から5つの論点について講演がありました。
 まず、コーディネーターの加藤氏より、パネルディスカッションのまえに、5つのテーマについて、考え方の整理がされました。また、2005年にEUがIFRSを導入したときに現地の状況を経験された東良氏から、説明がありました。2005年以降、ドイツだけでなく、EUでは上場企業の連結決算書はIFRSが強制適用されていること、非上場企業の連結決算書は各加盟国によって処理が違うこと、ドイツでは非上場企業についてはIFRSについては任意適用という形になっており、個別決算書については、上場・非上場にかかわらず、ドイツ商法基準(日本でいう会社法基準)が強制適用されるという形になっていることなどの報告がありました。
 パネルディスカッションの内容は、(1)任意適用を選択するか、強制適用を待つか、(2)インパクト分析とMOU、(3)初度適用と社内業績管理、(4)原則主義と監査、(5)社内教育とシステム対応の5つのそれぞれのテーマについて、各パネリストから、監査人の立場として、それぞれ議論が繰り広げられました。
 
(1) 任意適用を選択するか、強制適用を待つか
 まず、「任意適用を選択するか、強制適用を待つか」について、監査人の立場から任意適用のメリットと強制適用のメリットについてそれぞれ各パネラーより説明がありました。
任意適用のメリットとしては、IFRSに精通した人材を確保できるということと、他の会社に対して先行して国際化が進んでいるという企業のイメージが高まるということ、時間的余裕を持ってIFRSに対応できるなどの説明がありました。昨年9月から10月に実施された東証のアンケート結果によれば、早期適用を予定されている会社の割合は低く、大部分が強制適用を待って移行される予定である。したがって、監査人としては、上場企業が強制適用を待って一斉にIFRSへ移行すると、すべての上場企業に対応できるだけのIFRSに精通した人材が十分に確保できないと想定されます。この点から、早期適用会社が増えれば、IFRSに精通した人材を有効に使えるというメリットがあります(中島氏)。
監査人としては強制適用まで待った方が、事例等の参照案件が多くなり、適切なアドバイスができると考えています。監査人の立場としては、任意適用を急がせて出戻りが発生するよりも、十分準備期間を取った方が効果的に対応できて良いと思う、また、Moving Target等を考えた場合にもぎりぎりまで待った方がリスクは少ないと考えています(北岡氏)。
在外子会社が多い比較的規模の大きい公開企業など、強制導入された場合、インパクトが大きいと想定されるクライアントは、IFRS導入の準備を開始するよう促すという対応も大切ではないでしょうか(加藤氏)。
 
(2) インパクト分析とMOU(Moving Targetの問題)
 「インパクト分析とMOU」について、以下の意見がありました。
東証のアンケートの結果によれば、インパクト分析実施済みの会社は、東証一部全体の3割という状況です。また、早期適用を予定している会社は40社と少なく、まだまだインパクト分析をされていない会社がかなりあります。監査人としてはインパクト分析をする会社が増えるように働き掛けていく必要があると思います。インパクト分析を提案することを進める理由としては、監査人のリソースの有効利用があります。また、監査人の経験値アップにもつながります。インパクト分析を実施すれば、企業の担当の方にチェック項目をヒアリングしながら、基準に照らして影響を検討することになり、実務経験を積めます。監査人はIFRSの解釈について理論付けの訓練が積めるし、IFRSデスクなどのレビューにより、自分のIFRSに対する理解不足についても気付きが得られ、経験値が上がるということになります(中島氏)。
インパクト分析でよく出てくる課題で、決算期の統一という問題があります。これは経理の体制などにもかかわってくるので、実務的にはかなり負荷が高くなると思います。もう一つは、初度適用する場合には、財政状態決算書については3期間、包括利益計算書等、フローの計算書については2期間を開示するわけですが、監査人としても、適時に監査対象となるものが出てくる体制を企業に作ってもらわなければいけないので、実務上、非常に重要な点ではないかと思っています(和田氏)。
ドイツで会計事務所に勤務していたとき、インパクト分析は、売れ筋のコンサルテーションの目玉パッケージというような位置付けをしていました。内容としては、変更が必要な会計処理の特定とその影響額の算定になると思っていたのですが、かなりの部分は原則主義の原則と実際に使用する会計処理との間の合理性の理屈付けといったものでした。ドイツで実務としてやっていたインパクト分析は、企業サイドが採用する会計処理と原則との間の合理性の説明を、監査意見を述べる会計士として合理的な説明と認めるのかどうか、あまり合理的でない簡便法などを採用した場合と合理的に厳密におこなった場合との差を重要性の観点から認めるかどうかということの擦り合わせ作業と位置付けていたように思います(東良氏)。

 この点について、コーデイネーターの加藤氏より、IFRSのスムーズな導入のキーの一つに「重要性の原則」はあるのではないかと思うとの発言がありました。

 
(3) 初度適用と社内業績管理
 3つ目の「初度適用と社内業績管理」のテーマについて、以下の説明がありました。
 まず、北岡氏より、日本企業が、IFRSを初度適用するに当たっての留意点として、@IFRS第1号の主な特徴の説明、AIFRS初度適用時の会計処理、「原則」と「例外」規定に関する論点、B初度適用計画策定におけるポイント、の3点について説明がありました。
 その説明の中で、初度適用計画の作成におけるポイントは、@重要性の決定、A初度適用方針の決定、B優先順位の決定、CMoving Targetの対応という4点が考えられるとしたうえで、重要性の決定について、以下の意見が述べられました。
「財務諸表の作成および開示に関するフレームワーク」には、重要性の項目があり(29項、30項)、重要性の項目から考えると、投資家の意思決定に影響を及ぼさないものであれば、必ずしもIFRSの会計処理上の対応を行う必要はないものと考えています。重要性の基準値を設定するに当たっては、従前の会計基準に基づく財務諸表を作成する上での重要性等を勘案して、IFRS適用時には、その暫定的な基準値として、財務諸表の基準値からやや保守的な金額をいったん採用すればいいのではないか。重要性の基準値を設定することによって、限られた資源を有効に活用し、コスト効率の高いプロジェクトを設計することができます。こうした重要性の基準値に基づき、対応項目を取捨選択し、その根拠を文書化することによって、IFRSへの調整項目の網羅性を検証することができると考えます。
 次に、中島氏より、実際にIFRS導入支援をされていて、作業の中で具体的な注意点について、報告がされました。
初度適用となると、日本基準からIFRSへ会計処理が変わります。それによって、そこから監査上の課題が生じる可能性があります。残高確認やカットオフでエラーが生じた場合には、売掛金の実在性に対して心証は十分得られない可能性があります。期末の監査で初めてそういう状況になって、認識をして検討しているのでは、適正意見を出せるだけの心証は得られず、監査が間に合わない可能性があると思います。ですから、インパクト分析をする段階から、心証を得るためにはどういう証拠があればいいのかということを想定しながら、インパクト分析などを進めていく必要があるのではないかと思っています。
 また、鶯地氏より、初度適用の中で実務上、特に苦労された点について、報告がされました。
初度適用する項目を決めていかなければいけないというところが、実はかなり難しかったです。具体的には、みなし原価の算定をどういう資産について適用していくか、あるいは為替換算調整勘定をどうすべきなのか、あるいは年金についてどのような選択肢があり得るのかという辺りが一番難しかったです。とくに困ったのが、ヘッジ会計です。これは初度適用を認められていないし、金融商品についてはむしろ禁止されている分野が多いです。しかも、さかのぼって指定ができないので、移行日以前から準備をしていないとそれができないということなので、その辺りの組み合わせが一番難しかったところです。
 東良氏より、社内業績管理とIFRSに関して、ドイツ企業はどのような方法をとったのかについて報告がありました。
ドイツの場合、上場企業を含むすべての企業の個別決算には商法基準が強制されるため、IFRSの連結決算を作るときは、個別決算に連結修正を入れるというようにした企業が多かったわけです。そうすると、IFRSへの移行にあたっては、とりあえずは、社内の業績管理は従来どおりの個別決算ベース、すなわち商法基準ベースで行い、必要に応じて時間をかけて、業績管理方法も徐々にIFRS基準に直していくという企業が多かったように聞いています。
 
(4) 原則主義と監査
 4つ目の、「原則主義と監査」です。日本は今、細則主義に近いような形かと思いますが、原則主義に移行するとどういう影響があるのか、会計士の立場から、以下の意見がありました。
原則主義が一番大変だなということが、よく言われています。原則主義が大変なのはどうしてかというと、長年、企業も会計士も、適用指針や実務指針などの詳細なルールになれてしまっている。昔は企業会計原則や連続意見書など、本当の基本的な考え方があり、われわれの先輩方はそれに基づいてよく考えて判断をされて、監査実務等を積み重ねてきたのだと思います。また、われわれは監査をする立場では、大事なのはIFRSの趣旨や、そのベースにある概念フレームワークをよく理解して、その上できちんと実態に合った、合理的な、納得感のあるというか、第三者に説明できるような判断をまず会社にしていただいて、それについてわれわれ会計士がジャッジするということがより求められてくるのではないかと思います。従って、企業側にも会計士側にも勉強というか、研鑽がより要求されるようになるのだろうと思います(和田氏)。
もう一つ、原則主義になると、結果として開示した方法などにばらつきが出る可能性があるかもしれません。ただ、それは結果に至るまでには、先ほど申し上げたようなIFRSの趣旨等を踏まえて、十分に検討されて、それに基づいて判断され、会計士がジャッジしたのであれば、表面的にA社とB社のとる方法が違ったとしても、十分に尊重されるべきではないかと思います。会計士の立場からすると、それだけより高度な判断というか、研鑽が要求されるわけですが、前向きに考えると、監査という職業がよりやりがいのある仕事になるいい機会だととらえたいと思います(和田氏)。
監査人としてはフレームワークを理解して、その上にIFRSの趣旨を踏まえて、しかもそれぞれの会社の事情に合わせて解釈・判断していくことがIFRS導入に当たって監査人に求められている知識と考えられます。また、原則主義は、一般的には例外がなく、かつ適用指針等の詳細なルールがなくなるといわれていますので、クライアントに解釈・判断の過程を検証可能なように文書化していただくことが重要であり、かつ監査人としても、その文書内容を確認した上で、意見形成のための過程を監査調書にきっちりと文書化することがIFRSにおいても必要になると考えています(北岡氏)。
   東良氏より、原則主義について、ドイツの状況について報告がありました。

ドイツの会計原則というのは商法で決められています。ドイツには、DSR(ドイツ会計基準)という連結決算書についての会計基準があります。会計基準と訳していますが、これは意見書のようなものです。これはFASB(米国財務会計基準審議会)やIFRIC(国際財務報告基準解釈指針)のような意見書の形をしていますが、強制力はありません。従って、ドイツではもともと商法が原則になっています。商法の中ではそんなに細則を決められないので、そういう意味では、ドイツではどちらかというと、今までから原則主義だったという感じがしています。国際的な会計事務所の海外の受け皿のような形でずっと仕事をしていたので、日本の国際会計事務所に勤める会計士の方々のアクションをよく見ていました。IFRSに関しては、これまでは、ヨーロッパ企業の日本子会社の監査を日本でやっていることが多いので、そうなると、ヨーロッパの本社の方では既に個々の処理については検討されているので、ロンドンの本部にどういう解釈をされたのか質問するというようなことを慣習的にやっていました。日本の会計士としては、今後、国際会計事務所においても発想の転換がかなり必要になってくるのではないか、思考方法の転換、すなわち独自の判断がより必要になってくると思っています。
 山崎会長から、以下のコメントがありました。
 本来、監査は原則主義なのです。どこかに書いてあるから、それに従っておけばいいという監査は、監査ではありません。ですから、基準に書いてあることをよく読む、そしてそのバックにあるフレームワークをよく理解する。フレームワークには非常に抽象的なことが書いてありますが、これは将来の投資家、現在の経営者や現在の株主のためだけに財務諸表を作るわけではないということで、現在と将来の両方の投資家の投資の判断のために資するということから出てくるということをよく理解していけば、原則主義は会計士にとって何も難しいことではないということを、コメントとして発言されました。
 また、コーディネーターの加藤氏より、近年、日本の会計基準も、アメリカの会計基準に近くて、細則主義に傾斜する方向性なのではないか、監査もややもすると、書いてある基準というか、基準探しが中心となって、財務諸表の利用者の視点を見失いがちかと思うとの意見が述べられた。IFRS導入によって、細則がなくなって、原則主義で個々の会計士に判断が委ねられるということになると、各会計士の研鑽が非常に重要になるのだろうとの発言がありました。
   
(5) 社内教育とシステム対応
 最後のテーマは「社内教育とシステム対応」です。IFRSと内部統制監査という関連について、内部統制監査とIFRS導入はどのような関係になるのかという点について、和田氏から報告がありました。
内部統制監査制度があって、それが変わらない限りはIFRSのときに記載誤りが出てしまうと、判断は基本的には同じなのだろうと思います。IFRSの強制適用、あるいは任意適用で自ら選ぶとしても、ターゲットがあって準備をする期間があるので、それに向けて社内教育をして、きちんとできる体制を作っていくことが大事なのだろうと思います。
 次は、システムの方ですが、財務諸表のどの段階でIFRS対応をするかということです。個別ベースでIFRS対応をして連結していくのか、個別は従来の基準で作成して、連結ベース、連結仕訳でIFRS対応をするかという二つの考えがあるかと思います。個別ベースのIFRS導入は会社単位でなされるので、グループで統一した会計基準になるなど、経営管理上、積極的なメリットがあるかと思います。一方で、個々の会社がIFRSを理解しなくてはいけない、システム対応をしなければいけないなど、コストがかかるというところもあるかと思います。この点について、中島氏から以下の報告がありました。
個別ベースでIFRSに対応し連結する場合は、個別決算書の精度が求められると思います。監査人としては、内部統制の視点から、決算書に携わる人のIFRSの理解度が十分かどうか。また、業務プロセスや会計処理のマニュアルの整備状況が十分かどうか。それから、監視機能として、内部監査人がその個社を定期的に監査しているかといった点がポイントとなると思います。
個別ベースでIFRS対応するシステムを導入するか検討する段階で、このポイントを満たすためにはIFRSに精通した人材をどれだけ確保できるか。もし、そのような人材が不足している場合は、そういう人材を育てるための十分な教育をする期間があるか。つまり、企業のリソースの把握が重要になると考えます。企業のIFRSの適用時期を踏まえて、IFRS移行日までに適正な連結決算の体制がとれるようにIFRS移行のスケジュールが組まれているかどうかを確認していくことになると考えます。
IFRSに精通した人材などのリソースが十分確保できない場合には、まずはIFRSに精通した人材を本社に集めて、本社で連結決算時にIFRSベースの決算書への組み替え作業をすることになると考えます。ですから、個別ベースでIFRS対応するシステムの導入はシステムを変更する個社において人材がいるかどうかで、もしいなければ変更は時期的に早すぎる可能性があると思います。
 ドイツも現在は連結のみIFRS対応ということなので、当然、個別財務諸表と連結財務諸表は異なる会計基準で処理されているそうですが、システム対応はどのようになされているのでしょうか。この点について、東良氏より報告がありました。
ドイツでは、すべての企業に商法決算基準による個別決算書の作成が義務付けられているため、当面は各子会社の商法決算による個別決算書に連結修正を入れて、IFRSに基づく連結決算書を作る企業が多いようです。この場合、社内教育は限定的な従業員だけ、すなわち親会社の連結修正を担当する従業員だけを教育しておけば、取りあえずは行けるという形がとれていたようでした。システムについても、従来どおり商法基準の個別決算書を作るシステムをそのままにしておいて、サブシステムという形で、商法基準とIFRSとの差をサブシステムで集めてくるというような形をとることで、間に合わせている企業が多かったように思います。ただ、ドイツでは、今年ないしは去年から適用されている2009年の商法改正があります。この改正によって、商法ベースの個別決算書をIFRSに近づけようという努力をし始めました。初めから商法ベース、単体ベースでの決算書をIFRSに近いものにしておけば、社員教育なりシステムなりに特別なものは不要で、また、差の調整は少なくなるのではないかという発想だと思います。そういうように、ドイツでは個別の財務諸表にIFRSを導入する作業を一昨年ごろから始めています。そうすると、社内教育ないしはシステム対応もかなりの部分を子会社レベルでやることになり、IFRSに基づく連結決算書を作成するときの手間がだいぶ省けるだろうという方向性を持っているということです。
 システムの二つ目のポイントとして、基幹業務システムへの影響ということを挙げたいと思います。基幹業務システムに対する変更が必要と思われます。監査人としての対応というか、今後留意しなければいけないところについて、北岡氏から、以下の意見がありました。
監査人としてはインパクト分析に対して早めに対応し、企業の業務フローを正確に把握した上で、業務フローや分析結果を受けて、システム化の相談を受けて対応することが必要だと思っています。特にちょうど今の時期は、システムを入れ替えようとされているクライアントも多いので、そのようなところに対しては、IFRS導入に合わせて対応できるように、IFRSも今後かなり変更等が見込まれるので、後戻り、出戻りを考慮した上で、変更に対応できるシステムをアドバイスできればいいと考えています。特に監査法人などに勤めていると、IT監査部等のIT専門化の部門があるので、それらとの連携を深めながら、会計を中心とする基幹業務システムを、特に子会社が多いところであれば、グループ全体で連携させる、あるいはシステムを統合させるようなアドバイスができればいいかと考えています。
   
IFRS対応に向けた最重要課題とその対応
 最後に、パネリストとオブザーバーの方々より、IFRS対応に向けた最重要課題とその対応について一言ずつ報告があり、今回のパネルディスカッションの締めくくりとされました。
(東良氏)ドイツでは、任意適用の期間は6年程度ありました。ただ、強制適用という目標がないまま、任意適用だけが先歩きしたというところはあります。実際、強制適用が決まってから1年でIFRSに対応しなければならない企業も相当数あったと聞いています。このような企業でも、大きな混乱があったとはあまり聞いていません。これはどういうことかというと、インパクト分析という名の下で企業と監査人との間の擦り合わせを手際よくやったためだと思っています。従いまして、企業にとっては、まずインパクト分析を早くしてほしいということです。また、会計士の方々には、発想の転換・判断を今後磨いていただくことになるのだろうと思います。もう一つ、私が立法行政当局に対して言いたいのは、強制適用を決めれば、何年間かの任意適用期間を定めてほしいということです。ドイツでは、結果的に6年という任意適用期間がありましたが、それがIFRSをスムーズに導入できた一つの原因ではなかったかと思っています。
(中島氏)企業の監査に携わる多くの会計士の方がなるべく早い段階でインパクト分析などの実務経験を積むことによって、IFRSに精通した人材になるとともに、従来の日本基準の監査手続きで見直しが必要な部分はどこか、それをインパクト分析のときなどの早い段階で確認することによって、言い換えれば、監査のインパクト分析を早い段階で実施することによって、将来のIFRSベースの監査に備えることが重要であると考えています。
(北岡氏)IFRSに対応した最重要課題というか、今後、IFRS導入に向けて、考えているのは、今後ますます情報がいろいろな形で流れてきますので、最新の情報に適時に対応して目を配る必要があると考えています。しかし、逆にあまり情報という形で追い求めると、かえって情報に振り回される可能性があるので、監査人の立場としては、クライアントがその情報に振り回されずに、必要な情報だけを的確につかめるように、指導・助言等をしていくように努めたいと考えています。
(和田氏)案ずるより産むが易しという言葉がありますが、やはり前広に積極的に対応すればきっとできると思います。
(鶯地氏)財務諸表は企業からのメッセージですから、誰に対してどういうメッセージを出したいかということで、財務諸表が決まってくると思います。そして、国際的に何かを発信したいということであれば、IFRSという道具がある。任意適用ということは、その道具を使って国際発信をしたときに、それを日本でも認めてくれると言ってくれているのですから、もしそういうメッセージを発信したいのであれば、積極的にこれを採用していけばいいということだと考えています。
(山崎会長)会計士協会は、IFRSの適用指針やIFRSの実務指針を作るというようなことは全く考えていません。これはASBJも全く同じで、鶯地さんも同じだと思います。今、やろうとしているのは、IFRSを適用したとき、実務上、日本の企業にとってどういうことが問題になるのか洗い出すことと、それをどう考えるのかというところまでです。どうすればいいかということは、誰も答えを出しません。それは皆さん、自分自身で答えを出していただかなければいけないことだと思います。

(報告:山添清昭)