特集

基 調 講 演

IFRS導入における企業側の課題〜企業が直面する5つの壁

住友商事株式会社ファイナンシャルリソーシズグループ長補佐 鶯地隆継

 
1. 講師紹介
 講師の鶯地隆継氏は、住友商事潟tィナンシャルリソーシズグループで住友商事におけるIFRS導入準備支援に携わっておられ、社外では経団連・日本公認会計士協会による『IFRS導入準備タスクフォース』幹事、ASBJにおける『IFRS実務対応グループ』オブザーバーや国際財務報告解釈指針委員会(IFRIC)委員もされています。
 なお住友商事鰍ヘ2011年3月期の有価証券報告書を任意適用規定によりIFRSベースで提出することを決定されており、IFRS導入に関して実務者サイドの観点からご講演いただきました。
 
2. 講演概要
 IFRS導入における企業側の課題を、『企業が直面する5つの壁』として下記のように説明されました。
日本の企業が直面する5つの壁

 プロジェクトマネジメントの観点から
1.任意適用を選択するか、強制適用を待つか
2.インパクト分析とMOU(Moving Targetの問題)
3.初度適用と社内業績管理
4.原則主義と監査
5.社内教育とシステム対応
1. 任意適用を選択するか、強制適用を待つか
【任意適用を選択するメリット】
IFRSを使用して海外資本市場にて資金調達ができる。
以前は米国での資金調達は、米国基準の財務諸表の提出が必要であったが、現在はIFRS基準による財務諸表でも認められるようになった。欧州でも認められている。また上場していなくても海外の事業パートナーに日本基準の財務諸表の説明が不要である。
IFRSのレベルで経営管理ができる。
世界中のライバルと同じレベルで比較ができる。
海外子会社等との基準の統一が促進される。
海外子会社同士の比較も可能である。
日本基準(米国基準)とIFRSの両方の基準をフォローする必要がなくなる。
全体のプロジェクトの期間は短くなる。
IFRSのみのフォローで足りるため、全体としてのプロジェクトの期間は短くなると思われる。日本基準とIFRSの両方の基準をフォローするとなると6〜7年のプロジェクト期間が必要になるはずであるが、プロジェクトとして緊張感をもっていられるのはこれまでの経験から言えば3年くらい。
任意のタイミングが選べる。
強制適用の時期が決まってから導入に向けて動き出すと、期限が決まっているため時間的な余裕がない。
   
【任意適用を選択するデメリット〜強制適用を待つ理由】
2012年において、日本が強制適用の選択をしない可能性がある。
一旦任意適用をすると、後戻りできない。
強制適用までに簡便法などの措置がとられる可能性がある。
現在のIFRSは大きく変わることが予想されるので、IFRS任意適用の後、再度、変更する必要が生じる。
強制適用まで待つ方が、プロジェクトの準備期間が長くとれる。
   
2.インパクト分析とMOU(Moving Targetの問題)
自社の財務諸表をIFRSに変更することにより、自社の財務諸表が受ける影響(インパクト)の分析が必要。
どの時点のIFRSを目標にすべきか?
MOU項目修正後かMOU項目修正前か
MOUのスケジュールは確かか?
変更直後の実例などがない会計基準にスムーズに乗り換えることができるか。
今現在のIFRSを適用し、徐々に変更するのが現実的であり、確実に落ち着いて処理ができるのではないか。
   
3.初度適用と社内業績管理
【初度適用と社内業績管理の連続性】
初度適用は今までの財務諸表との連続性を絶って、全く新しい財務諸表でフレッシュスタートを切るということ。
公表上の財務諸表は問題ないとしても、社内の業績管理、予算、人事考課など経営管理上の扱いの整理が必要。
例えば
過去に減損処理したはずのものを、もう一度減損処理。
含み益があるはずの資産が、いつの間にか公正価値表示に。
包括利益とリサイクル損益の扱い。〔IFRS第9号株式の評価など〕
   

4.原則主義と監査

【IFRSの原則主義とは何か】
例外なし
核となる原則(目的)
不整合がない
概念フレームワークとの結びつき
判断
最小限のガイダンス
   
【原則主義のジレンマ】
例外規定を多く作れば、多く作るほど監査はやりやすい。企業・監査人・当局ともにHappy。
しかし、国毎、産業毎に例外規定作れば膨大なルールとなり、かつ比較可能性が担保されない。
例外規定がないからと言って、例外処理が全く出来ないということではないはず。(それを例外と呼ぶかどうか)
 ⇒企業/監査人/当局による判断が重要。
しかし、裏ルールの蔓延はさらに問題。(不透明かつアンフェア)
透明性を保ちつつ、かつ納得性のある判断が出来るか。
企業/監査人の徹底した議論と実務プラクティスの積重ねが必要。
   
5.社内教育とシステム対応
システム対応が先か、社内教育が先か。
⇒業務フローが明確でないシステム対応は困難。
一般知識としてのIFRSから、自社の具体論へ落とし込んだIFRSへ。
⇒まずは期首バランスシートの作成から。
原則主義の中での社内ルールの確立、監査人との協議。
⇒Accounting Policy Manualに基づいた実務徹底と監査。
連結決算データ収集のインフラストラクチュアは必要。
⇒連結子会社からのデータベース統一化。(一時的にはデータの二重管理が必要)
方針、目標設定、計画の重要性。
 最後に、韓国や東南アジアなどのアジア諸国の企業も含め海外の競争相手と競争していくならば、比較を行うためにも強制適用に関係なく、IFRSの導入は必要ではないかとおっしゃられていました。

(報告:宮口亜希)