T. 公認会計士試験の現状と業務の関係について |
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(制度確認) |
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旧制度は原則二度の国家試験があり、二次試験は税法科目なし、三次試験で論述式と口述式による税法実務の試験。現在の新制度では、一度の国家試験である公認会計士試験に租税法、実務補習所修了考査で租税法を実施。
(現状の受験対策について) |
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現在の受験専門学校の教材・テキスト類は、基本書を読まなくても合格できるようなシステムになっています。体系的な理解などではなく、所得金額の調整、例えば減価償却や受取配当など加算・減算項目について計算規定中心に勉強しました。相対順位で上位を占めるための勉強であり、法律としての租税法ではない状況でした。 |
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会計士の試験については、3年間、試験委員を致しました。計算と理論の試験があり、会計士試験では、通達の知識は要らないのではないかという意見の人もいました。ただ、通達を無視したところの計算問題を作成することが難しいということもあって、計算問題は、税理士試験に似たような問題となっています。税理士は申告書を作成し、会計士はその作成された申告書を参考として、会計監査を行うのです。その辺のところで少し役割が違うような感じを持っています。従って、試験の問題もそのような観点から、それぞれ作成されるのが好ましいと思います。 |
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(業務と税法の知識習得について) |
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監査法人在勤時に税金による粉飾を発見、会計監査においても税法の知識は必要不可欠と感じました。独立開業後、事務所収益の7割は税理士業務で重要な収益源ですから、一般的な法人税や消費税の知識は必要不可欠です。つまり、税法の条文や通達規定の熟知が重要です。 |
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現在、監査法人にも属しつつ、ロースクールで教えるほか、組織再編のコンサルタントをしております。弁護士としての訴訟の場で活躍するための教育と、申告をするための教育というのは全く違います。監査という面からの教育とアメリカのタックスロイヤーがやっているタックスプランニング的な教育もまた違います。公認会計士の今の試験制度や教育を見ますと、基本的に税理士試験の焼き直し版になっているような気がして、何とかならないかというのが率直な印象です。 |
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U. 公認会計士が提供する税務サービス |
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私は近畿大学法学部で学部と大学院とロースクールで、いずれも租税法を教えています。新制度の司法試験では租税法が選択科目として導入されました。租税法を知らないと弁護士として、仕事の上で、色々と問題が生じます。会計士も同様に、会社から税に関する質問を受けたときに、質問に関連する規定などの内容や目的・趣旨について説明をしなければ、会社の人も納得しません。会計士も、単に税金の計算だけでなく、法律として租税法を学ぶことも必要です。 |
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本題からは若干外れますが、例えば税務訴訟絡みの仕事や、タックスプランニングの仕事において、シビアな判断をする業務への取り組みはいかがでしょうか。 |
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現在、公認会計士試験を合格されて、監査法人以外の職に就かれる方が過半数になり、今までの監査目線だけではなく、これからは会計の知識もあり、税の知識もある人が企業の戦略部門へ入っていく将来像になるのではないでしょうか。今、アメリカのTax
LL.Mなどというコースが非常に人気だと聞きます。先進国のこれからの姿になっていくのではないでしょうか。 |
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こういう仕事というのは、監査に比べたら非常に創造性があって、仕事自体は面白いのではないかという気はします。ただ、リスクもあり、連結納税制度や組織再編税制などに対して、法人税法の条文で行為計算の否認規制を設けるなど、課税庁も、租税回避に対しては、非常に神経質になっています。会計士という肩書きを持ちながらタックスプランニングをするという方向を目指される人も否定はしませんが、そういう方向を目指さない人も会計士にはいるのではないかという気はします。 |
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V. 公認会計士の租税教育の現状 |
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例えば事業承継に関するタックスプランニングについても、公認会計士として一定の水準の仕事ができるように後進の人たちに経験を積んでもらうというか、勉強してもらう、知識を入れてもらおうとすると、そういうシステムがありません。補習所の教育も、マスプロにならざるを得ません。マニュアル化された勉強サービスを受けるのに慣れている人たちがわれわれの業界に入ってきています。 |
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受験予備校のシステムに乗っていけば合格できる体制が確立され、今の若い人たちは、与えられるものに乗ってきているのではないかという気はします。現在、税制税務委員会などで勉強をしておりますと、本質的には何も分かっていなくて、部分点を取っているようないびつな勉強の仕方だったと受験時代のことを思い出して反省しています。 |
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大学では、租税法を教える場合、一番難しいのは、租税法のどこまで(範囲)を教えるかです。僕は、基本的には租税法のすべての範囲を教えようという気持ちを持っています。あまり内容が深くなくても、取りあえず、法人税、所得税、消費税、固定資産税、相続税、消費税そして印紙税、事業税なども入れて、主要な税目については、どういう問題点があって、重要な課税標準の導き方などを学生に教えます。授業で、参考になるのは、税金に関する新聞の記事です。武富士事件は、もうすぐ最高裁の判決が出るらしいですが、税金を逃れるために息子を香港にやってどうのこうのというストーリーを話すと、学生はじっと聞いています。 |
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ロースクールは、基本的に司法試験の予備校です。試験は判例から出るので、判例はつぶしていこうということになります。先々週、譲渡所得と贈与の関係が受講生みんな分からないと言うのです。では、贈与税と譲渡所得というのはどう違うのか、なぜ無償で譲渡所得はあるのかなど、頭が混乱しているのです。ですから、そもそもの譲渡所得の趣旨、保有期間中のキャピタルゲイン課税や、贈与税の趣旨というところから教えてあげないといけません。会計士がそういうものを皆知っているかというと、予備校がピンポイントで教え、計算テクニックを習得するのでは、身につかないと思います。会計士試験のあり方も、補習所教育ももうちょっと変えていかないと、本当の税の理解にはならないのではないかと思います。 |
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W. 実務補習所における教育について |
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公認会計士にとって税務サービスというのは少なからぬウエイトを占めています。会計士特有の税務知識のブラッシュアップやトレーニングは必要であると思います。一方で、公認会計士の税務に関する教育について、その環境が十分であるとは言えません。大学の教育、専門学校の教育でも税務については十分な力がつきませんが、受かってきてしまいます。税務の仕事は非常に面白いですよというところを、どこかで教育する必要があります。 |
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私は実務補習所の運営委員を十数年務めています。旧試験時代は、基本書を読む習慣があって合格をされた方が多かったのか根源的理解があり、計算問題では実務的な問題でも基本を理解した上で、解答しているとの印象を受けました。理論問題も税理士試験と同様の出題形式の論述の問題で、立法趣旨を理解していないと解答できない問題にも適切な解答がありました。
新試験で租税法の試験を通ってきた方々は、試験合格対策に終始されたためか、根源的な理解ができていない傾向があります。税法は、普通の法律とは違い通達という実務上の取扱が重視される法律理論と実務上の取り扱いが両立する世界です。計算という実務面だけでなく法律理論の勉強も必要です。 |
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実務補習所では、税法に関する科目の大多数が法人税法で、テキストは計算規定の確認が大半です。本来は、立法趣旨などをしっかり理解できる、ないしは判例研究のようなことにも取り組んでいくべきです。さらに、税法総論や租税制度総論などの総論科目は現在e−ラーニングが導入されています。総論科目で税法というのは法律なので立法趣旨があって云々という話をフェース・トゥ・フェースでする場面がなくなり、テキストどおりに話すだけとなり非常に残念です。 |
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確かに、e−ラーニングというのはナンセンスです。特に税については本音のところの話がなかなかできなくて、それはフェース・トゥ・フェースでやるしかありません。先ほどタックスシェルターというような話もありましたが、シェルターをやるのが良いか悪いかというのは価値観の問題になってきますが、こんなことをやると、こんなもうけができる、面白いことをやっているということは、恐らくフェース・トゥ・フェースでやっていくしかないと思います。そこで、補習所の教育もe−ラーニングになって、考査も税額の計算になってくるとなると、興味を持たなくて当然です。もう少し興味を持てるような、面白くてかつお金もうけができる内容があるのだということを伝えていくことではないかという気がしています。 |
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税務では最終的に事実認定の問題があるので、国税局などに事前照会をしても、ある程度まで回答があっても、最終的には調査でどう事実認定するか分からないという答えが返ってきます。すべてケース・バイ・ケースなので、似たような事案があったとしても、それがそのまま次の事案に当てはまりません。ケース・バイ・ケースの事実認定 とその場合におけるリスク評価をしながらタックスプランニングしていくという辺りは、テキストなどにはできないのです。フェース・トゥ・フェースの講義ではこのようなことにも誤解を得ないように話しができますが、本やDVD、e−ラーニングなどでは、個々の事案の違いが薄れ、絶対的回答と思われがちで誤解を招くという点で難しさがあります。 |
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会計士の税法の勉強としては、試験に合格後も、そこから自分でもう一度、勉強をするか、勉強する機会を会計士協会などができるだけ提供する必要があります。租税法というのは法律ですから、議論をして、理解を深めるようにしなければなりません。色々な意見が出てくると思います。学説も色々あります。その説を互いに議論し合って、そこで認識して自分の理解を深めていくという作業を絶対にどこかでしなければいけません。そういうことで、会計士協会も補習所などで、ゼミ形式か何かで小グループを作って、議論をして深めていく場を設けてもらえたらと思っています。 |
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税務署と見解の相違があったときに、向こうは判例を持ってきて話をしますが、よく見ると微妙に前提条件が違っていたりします。似たような事例で微妙に違う判例を持ってきて「こういう判例が出ているから」というような押し方をしてきます。そうすると、判例をしっかり読んで、それに対応する条文をもう一度検討して、自分の目の前にある事案に当てはまるのかどうか、少し違う話を持ってこられているのではないかという検討を現場でやろうとすると、どこかでそのトレーニングを受けていないと、そういう発想になりません。これを教育の現場でどうやって話すかということになると、結局、先ほどの問題に戻り、そこで言ったことがDVDになって、前提条件を理解する能力が全くない人が、会計士協会のDVDでこう言っていたから、これは正しいに違いないと思われてしまうと辛いところがあります。 |
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色々な事案が出てきて相談を受けたときに、その事案に対してオーダーメードで答えてあげなければいけません。このお客さんにとってはどれが一番いいのかというものをオーダーメードで作っていかなければいけないわけです。そういうことがこういうDVDでできるのか疑問です。 |
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国税職員と真剣に税法の解釈の議論をして、税法の理解を深めたらいいと思います。向こうは国家権力として大きな組織です。しかし、最近の裁判では、課税庁が負けている事件が結構あり、必ずしも税務署の言うことがすべて正しいということでもありません。そこは認識して、課税庁と大いに議論して頂いたらと思っています。 |
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税務調査で税法の解釈をめぐって争っても勝ちようがないので、事実の認定としてどうなのかとなってきます。そうすると、オーダーメードですから、基本的に正解は教えられません。そうであれば、興味を持つきっかけを与えるのが教育ではないのでしょうか。単に条文などを当てはめるということではなくて、とにかく興味を持って色々考える習慣を持ってもらって、会計の面からも、法律の面からも、税の面からも、色々な面から考えていくという習慣をつけてほしいと思います。それに対して、今の試験制度や実務補習所の体制がいいのかということに私は非常に疑問を持っています。 |
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大学と上手に連携できないのか。例えば大学の先生に来て頂いて、補習所で教えて頂くなど。 |
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税法の教育の方法には色々あると思います。定員に余裕のある会計大学院に、会計士試験に合格した人を教育してもらうのも一つの方法かと思います。ただ、租税法というのは、色々と議論をして、理解を深めなければならない学問なので、講義を聞くだけでは、あまり実が上がらないように思えます。会計大学院で学ぶにしても、少人数で 議論できるようなゼミ形式の教育の場が必要でしょう。 |
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(補習所のe−ラーニングについて) |
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東京は、人が多いという事情があるのだったら、e−ラーニングをされたらいいのであって、例えば、北陸会であれば、独自にやるというのは駄目なのですか。 |
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実は地方の支所はDVDです。だから、わざわざ自分が移動するより、ネットで見せてくれたらどうなのかという議論も一方で出てきます。ですから、なかなか難しいところがあるとは思います。特に、租税に関しては、少人数の議論ができる場を確保したいとは思います。 |
(当日、大変活発な議論がありましたので、大幅に要約致しました。要約した関係で発言者の意図とは異なる可能性もあり得ますので、後日発行されるインディペンデンスで議論の全容をご確認下さい。) |