1. 「資産除去債務」会計基準の概要 |
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会計基準導入の背景 |
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「資産除去債務」会計基準は、以前からIFRSで適用されており、日本の会計基準と国際会計基準のコンバージェンスの過程で、日本基準にも適用されることとなったものである。 |
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資産除去債務とは |
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資産除去債務とは、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準するものをいう。 |
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会計処理 |
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会計基準で規定されている会計処理方法につき、スライドを用いて詳細な説明が行われた。 |
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適用時期 |
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平成22年4月1日以後開始する事業年度から適用(早期適用可能)。 |
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2. 開示事例 |
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平成22年3月期の早期適用の開示例、平成23年3月期第1四半期の開示事例についての説明が行われた。 |
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3. 事例分析 |
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資産除去債務を合理的に見積もることができないケース |
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平成22年下期の監査事例研修会では、資産除去債務について、合理的に金額を算定できない場合は極めて限定的であり、通常は見積可能と考えられる旨の見解が示されている。あわせて、適用指針の説例8は、極めて限定的な事例に該当する場合の注記事例を示したものであり、賃貸借契約が自動更新で、退去する時期が分からない場合は賃貸借契約の継続期間を合理的に見積もることができないケースに該当することを明示したものではないとの見解が示されている。 |
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【説例8記載例】 |
当社は、本社オフィスの不動産賃貸契約につき、オフィスの退去時における原状回復に係る債務を有しているが、当該債務に関連する賃借資産の使用期間が明確でなく、将来本社を移転する予定もないことから、資産除去債務を合理的に見積もることはできない。そのため、当該債務に見合う資産除去債務を計上していない。 |
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開示例と状況 |
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JICPAデータベースで検索したところによると、平成23年3月期第1四半期で、「合理的に見積もることができない」としている会社は110社あり、多くは適用指針の説例8に類似した注記が見られた。ただし、このうち41社は資産除去債務の計上は行われており、一部において合理的に見積もれないとしている。 |
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敷金を償却するケース |
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平成23年3月期第1四半期で、28社の開示例が見られるが、IFRSでは敷金の償却処理に関する規定はないため、IFRS導入後、どのような対応を取るべきか検討を要する。 |
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業種別の適用状況と分析 |
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小売業、金融機関(銀行業)、電気機器業、電力・ガス業を調査対象として分析を行った。複数の業界に共通している点は、賃貸借契約に基づく原状回復義務が資産除去債務の主な計上内容となっていることである。ただし、本社物件の取扱いについては会社間で処理方針に差異があり、また、同業種間でも会社によって資産除去債務の計上額が異なっている。特に金融機関(銀行業)では、特定 の金融機関の資産除去債務が、同業他社と比較して多額に計上されている例が見受けられた。
資産除去債務に対する監査上の対応としては、その開示だけではなく、資産除去債務の計上に関する内部統制の運用状況の評価が重要になると考えられる。 |
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資産除去債務の会計基準適用と耐用年数の変更との関係 |
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資産除去債務の履行時期と、当該資産の耐用年数が異なる場合、耐用年数を変更している事例が4社検出された。この中には、「資産除去債務」会計基準の導入を契機に、賃貸不動産の賃貸借契約期間を調査し、耐用年数を賃貸借契約期間に変更している事例も見受けられた。 |