特集
「IFRSにおける『財務諸表の表示』について」

北陸会 高村藤貴

 
 北陸会 坂下清司副会長のご挨拶に始まり、同じく北陸会の高村藤貴氏により発表がなされました。以下、当日の主な発表内容を記載いたします。
 
1. IFRSをめぐる最近の動向
  (米国の動向)
IFRSを適用している米国外企業に対して米国基準への調整を不要とした。
米国企業についても2015年から段階的にIFRSを強制適用することに関する「ロードマップ案」を公表。
  (我が国の動向)
2009年6月に金融庁企業会計審議会より「わが国における国際会計基準の取扱いに関する意見書
 (中間報告)」公表。(IFRSの任意適用が可能に。2015年以降のIFRS強制適用を提案)
  (IFRSの今後の変化)
現在、IFRSと米国基準とのコンバージェンスプロジェクト(MoUプロジェクト)が進められており、IFRS自体もこの調整を受け、現行の基準から変更が予定されている。
この調整項目の1つが、今回の研究発表の対象である「財務諸表の表示」である。
 
2. IASBからの公表物
「財務諸表の表示」に関する以下の問題認識が出発点である。
@ 情報は財務諸表で首尾一貫して表示されていない。
 (例えば、営業キャッシュ・フローと営業利益の関係性について、現状では十分明示できていない。)
A 事業活動と財務活動が区分表示されていない。
B 利益のうち、市場価値変動に伴うものとそれ以外のものが区分されていない。

 上記の問題を解決すべく、「財務諸表の表示」に関して、IASBから以下の公表がなされた。

  ◎「財務諸表の表示に関する予備的見解」(DP 2008年10月)
◎「財務諸表の表示」(スタッフ・ドラフト公開草案 2010年7月)

 この2つの公表物の関係は、まず「財務諸表の表示に関する予備的見解」(DP 2008年10月)が公表され、その後に、その内容の一部を修正する形で「財務諸表の表示」(スタッフ・ドラフト公開草案2010年7月)が公表されている。

 
3. 「財務諸表の表示に関する予備的見解」(DP 2008年10月)の内容
問題点を克服するために下記の点が提案されていた。

 

@各財務諸表の表示区分を「営業」「投資」「財務」に統一。

 当初は、上記のような例示がなされてあった。これによると、それぞれが、事業活動と財務活動に明確に区分されるとともに、情報を各計算書類上、首尾一貫して表示することができる。
 
A キャッシュ・フロー計算書を直接法に一本化した上で、財務諸表の注記として「調整表」提案。

 

 
 当初は、上記のような例示がなされてあった。これによると、営業キャッシュ・フローと営業利益の関係性についても、十分な明示ができる。また、利益についても、市場価値変動に伴うものとそれ以外のものが区分して把握できる。
 
4. 「財務諸表の表示」(スタッフ・ドラフト公開草案 2010年7月)の内容
 「財務諸表の表示に関する予備的見解」(DP 2008年10月)は、問題意識に対応した理想的な方法ではあったが、一方、実務面の困難性に問題があった。
 例えば、上記のキャッシュ・フローを作成するためには、同じ固定資産を保有していても、営業目的で保有している設備部分とそれ以外とを区分けして、その動きを別々のデータとして会社は保持しておく必要がある。また、営業の定義を「コア事業」としていたので、何を営業用資産と捉えるかは、会社の主観に大きく依存することになる。
 これにかえて、一部代替的な措置をとることで実務面にも配慮した修正を「財務諸表の表示」(スタッフ・ドラフト公開草案 2010年7月)で行っている。主な修正として下記の点があげられる。
@財務セクションの区分の見直し。
  (財務セッションに区分する項目は、借入・資本に関連するものとし、主観的になりやすいため資産項目は財務区分から排除した)
A営業と投資の区分の見直し。
  (投資=特定の資産これ自体から収益あげるもの、営業=収益をあげるために一体として機能する資産と再定義し客観性を優先)
B「調整表」の廃止と代替的な注記の新設。
  (作成に負担の大きい「調整表」を廃止。かわって、営業損益と営業キャッシュ・フローの比較を間接法ベースで注記、うち、重要な資産負債の増減、再測定部分の増減を追加注記)
 
5. 実務に与える影響
 今回の「財務諸表の表示」に関する変更を踏まえて、IFRSが、実務に与える影響として、私見としながらも下記の項目の発表がありました。

(財務諸表利用者)
 いままで、入手できなかった新たな情報が入手でき(包括利益の内訳、各財務諸表における「営業」「投資」「財務」のカテゴリー情報等)、より深度のある企業分析ができる可能性がある。

(財務諸表作成者)
 作成手続の増大が第一の影響として考えられる。(「営業」「投資」「財務」への区分、直接法によるキャッシュ・フロー計算書の作成及び関連注記の新設、連結グループで会計方針のみならず、表示の考え方もグループで統一する必要がある等)
 また、外からの会社の見え方が変わるので、IR対応、経営管理指標の変更を通じて、管理会計の考え方等、企業内部への波及が考えられる。

(監査人)
 IFRSは、原則主義なので、今後は、財務諸表作成者と監査人が協議しながら具体的な対応を決めていく必要がある。一方で、わが国企業の多くは細則主義に馴染んでおり、適切な対応を自社で判断できないことも想定される。
 したがって、監査人には指導的機能の発揮が、これまで以上に求められることになると思われる。

(報告:西村 強)