特集

国際委員会主催
「第3回IFRSセミナー(5回シリーズ)」

山本憲吾

 
 国際委員会では、国際会計基準・国際財務報告基準(以下総称して、IFRS)の近畿会会員向けセミナーの開催を本年度の重点活動としており、5回シリーズでのセミナーを順次開催しております。今回はその3回目となり、棚卸資産、リース、無形資産、有形固定資産、資産の減損、についてセミナーを開催いたしましたのでご報告させていただきます。
 今回のセミナーは、あらた監査法人が担当しており、以下の日時、場所、テーマで行われました。講師は、私、山本憲吾と平岡伸也さんで、IAS第16号「有形固定資産」、IAS第36号「資産の減損」及びIAS第17号「リース」については私が講師を担当し、IAS第38号「無形資産」及び IAS第2号「棚卸資産」については平岡さんが講師を担当しました。

 
 まず、最初に私のほうからIAS第16号「有形固定資産」に関する論点について解説をいたしました。主な内容としては、当初認識と測定、事後の測定に関連するIAS第16号の基準の解説で、最後に日本基準との差異についても説明を加えました。
 当初認識と測定に関しては、用語の定義を含む基本的な規定の説明のほか、資産除去費用や交換取引の論点についても説明いたしました。さらに関連する基準としてIAS第23号「借入費用」についてもふれました。また、事後の測定に関しては、取得価額をベースとした減価償却を行う原価モデルに加え、IFRSに特有の論点である再評価モデルについても説明いたしました。
 最後に日本基準との主な差異について話をさせていただきましたが、ここでは実務上の問題点となりがちな、コンポーネント・アプローチを含む減価償却方法、耐用年数の考え方や借入費用の資産化を中心に解説を加えました。
 続いて、平岡さんからIAS第38号「無形資産」について解説がなされました。まず冒頭で一般的に想定される主要な会計基準の差異についての概説を行い、その後大きく@無形資産の例示A定義B無形資産の認識要件及びその類型C認識後の測定・償却・減損D日本基準との比較、の順に説明がなされました。その中で特に強調されていたのが、日本基準との差異のうち自己創設無形資産に関するもので、具体的には開発費をどのように資産化するのか、という論点でした。日本基準においては原則費用処理される研究開発費のうち、開発段階に発生した原価については一定の要件を満たした場合、無形資産として資産計上されることとなり、この点については、製造業を営む会社にとって実務面での影響が大きくなる可能性があります。講義では、研究開発の定義、認識要件の解説や、当該要件を判断するにあたっての留意点、開発費の集計範囲を中心に説明が加えられました。
 その他にも有形固定資産と同様に再評価モデルが認められるという点や、償却年数が見積もれない場合には償却を行わず毎期減損テストを行わなければならない点についても解説がなされました。
 続いて、再び私のほうから、資産の減損とリースについて説明をいたしました。
 まず、IAS第36号「資産の減損」について解説いたしました。主に資金生成単位などの重要な用語の定義の確認と、減損兆候判定、回収可能額の測定、減損の戻入に関して、日本基準と差異がある論点を中心に解説をいたしました。特に回収可能額の算定において、売却費用控除後の公正価値あるいは使用価値の算定や資金生成単位の識別に関する留意点について重点的に説明いたしました。
 次に、リース会計については、IAS第17号「リース」について、日本基準との差異を中心に解説しました。また、あわせてIFRIC第4号「契約にリースが含まれているか否かの判断」についてもふれました。そして最後にIASB公開草案「リース」における新しいリース会計の考え方について解説しました。この公開草案は、主な内容としてオペレーティング・リースについてオンバランス処理を求めるもので現行の会計処理を大きく変えるものとなっています。今年の半ばに基準が最終化される見込みであり、今後の動向に留意が必要です。
 最後に、平岡さんよりIAS第2号「棚卸資産」についての解説がなされました。まず冒頭で一般的に想定される主要な会計基準の差異についての概説を行い、その後@定義A棚卸資産の原価に含める範囲B原価算定方式C棚卸資産の評価方法D費用認識E日本基準との比較、という順に講義が進められました。特に、日本基準との差異となる点として、@定義については販売促進のための物品など製造に直接関連しないものは棚卸資産に含めてはならないこと、A原価範囲について固定製造間接費は「正常生産能力」に基づいて配賦しなければならないこと、B棚卸資産の評価において切放法は認められないことを中心に解説がなされました。とりわけ固定製造間接費の配賦については、生産設備の「正常生産能力」を定義していない企業が多く存在すると考えられることから、実務への適用にあたって困難が想定される点が強調されていました。
 以上、国際委員会主催IFRSセミナー第3回についてご報告させていただきました。今回のテーマは、製造業を中心に財務面、あるいは業務プロセス面でも大きな影響を及ぼす可能性のあるテーマであり、かつ、適用にあたって高度な判断が必要とされる論点が多く含まれています。これは、IFRS全般についても言えることではありますが、今後、私たち公認会計士が会計監査やその他の業務の中で、こうした論点に対応していくためには、IFRSの趣旨を十分に理解しておく必要があると思われます。