特集

羽ばたき続ける日本の女性会計士に乾杯
〜「女性会計士20人 人生の中間決算書」を読んで〜

澤田眞史

 
 このたび、近畿会の女性会計士委員会が「女性会計士20人 人生の中間決算書」を出版されました。この2月19日の近畿会の会務報告会で配本され、帰りの電車の中で読み始めたのですが、なかなか興味深く、一気に読んでしまいました。それは、登場人物のうち数名の方と面識があるということもあるでしょうが、なかなかリアリティに溢れ、迫力が感じられたからです。そこで、登場人物及び女性会計士委員会出版プロジェクトのメンバーに敬意を表し、私の感じたところを述べてみたい気持ちに駆られました。以下は、あくまで私の感じたところを勝手にまとめたもので、きっと登場人物の方には「そうではないわ、的外れよ。」といわれる箇所があると思いますが、お許し願いたいと思います。
 
『彼女たちの原点』
 彼女たちが中間決算書で述べられている、その時点における状況への突入のキッカケには、いくつかのパターンがあるように思われます。私流に整理すれば、(イ)憧れのチャレンジタイプ、(ロ)気が付けばそこにいたタイプ、そして(ハ)性格がそうさせたタイプの3つに分かれます。
 まず、(イ)のタイプから。研修で立ち寄ったニューヨーク事務所で働く、スタッフの生き生きとした様子に刺激され、海外駐在の話に「チャンスの神様には前髪しかない、後悔したくない」と即決した後藤順子さん。香港事務所の1年以上前からの駐在員募集に応募者がいなかったため「地区(福岡)事務所・経験の浅い・女性会計士」に回ってきたチャンスをキャッチした重富由香さん。「海外で働く女性はなぜこんなに生き生きしてるのだろう」と海外に積極的に人を派遣することに定評がある会社を選びそのときを待つことにした山口綾子さん。ブランドをさりげなくこなす彼女(公認会計士)のしぐさに憧れ公認会計士を目指し、”In order to be irreplaceable one must always be different.”の実践を目指された須藤実和さん。
 次に、(ロ)のタイプ。「私が監査法人を辞め独立して事務所を開設したのは、監査法人勤務に耐えられなくなったから」と素直にいう平林亮子さん。試験合格者就職氷河期を、自らを見つめ直すよい機会と捉え、一般企業へ方向転換した大西かほるさん。米国ミネソタ州セントトーマス大学への進学時には父が、シカゴ事務所でのタイ勤務への打診時には事務所長が背中を押してくれたというYasuko Metcalfさん。
 そして、(ハ)のタイプ。少し余裕が出てくると「人と同じことをしたい」私ではなく、「人と違うことがしてみたい」いう虫がうずきだし台湾行きを決めた宮川明子さん。府会議員選に、出馬するなら離婚という夫に「出馬するけど離婚はしない、だって私はあなたが好きなんだから」と人生の舵を切った栗原貴子さん。安定してくると、変化を求める元来の性分が目を覚まし、香港事務所の初代駐在員となった西川京子さん。
 私は勝手に3つのタイプに分けましたが、そこに共通して感じるのは、周囲に言い訳をしない柔軟性を持った強さです。現在、公認会計士を目指す人々には、資格を取ったことにより、そこそこの給与ベースの安定的な生活が送れると考えアプローチしている人が多いと聞きます。しかし、ここで取り上げられた彼女たちには、そのような安定感志向はあまり感じられず、資格を取ってある組織に飛び込めば、何か面白い、自分を活かす世界が広がるのではというチャレンジ精神が感じられます。もちろん、彼女たちはある意味ではウイナーであるからかもしれませんが、全く女々しいという感じはありません。
 私などは、何かことを進めるときにはいろんな想定をし、それに合わせていろんな対応策を準備してからスタートするのですが、彼女たちにはそんなことより自らの想いが行動に駆り立てるようです。
 
『彼女たちの仕事・勤務のスタイルと心構え』
 これについても、私のイメージからは(イ)経営者タイプと(ロ)組織内勤務タイプ、そして(ハ)オピニオン・リーダータイプに分かれるように思います。
 まず、(イ)のタイプ。実際に行われている企業の経営活動にじかに触れることが醍醐味といい、自由と不安定のバランスを楽しむという中森真紀子さん。安定した事務所経営には、農耕型と狩猟型の仕事をバランスよく獲得することが必要という根岸良子さん。
 続いて、(ロ)のタイプ。監査法人に必要とされる存在になりたいと財務省への出向を決めた皆見幸さん。組織内女性会計士に「100点を取ろうと思わないで、ぎりぎり合格点を取ろう(鹿島かおるさん)」、「周りの人とコンフリクトを起こさないためには、理解してもらってなんぼのものよ(土岐祥子さん)」とアドバイスする監査法人のパートナー。何事においても、楽しいと感じられるかどうかは自分が納得する方法で取り組めるかどうかにかかっており、そのプロセスは自分の固有のものという榎本尚子さん。厳しい業務の中、メリハリのある日々を過ごすためには、自分の中で譲れる点と譲れない点を明確にすることという倉本朋子さん。
 そして、(ハ)のタイプ。高校の卒業時に担任の先生から贈られた言葉を「たまには非日常的な世界から自分の人生を鳥瞰して見なさい」というメッセージと受け止め、たった一人のオーダーメイドの人生を送れるのが女性の特権という辻山栄子さん。絶対に即断せず、夜は情緒的ゆえ判断を先送りし、何日も考えて結論にブレがないことを確かめて、朝の判断に従うという友永道子さん。
 やっぱり、彼女たちは「凄いな」というのが実感です。いま、「凄いな」と言いましたが、何が凄いのかと考えますと、きっと生命力のようなものではないかと感じています。誤解をされると困るのですが、彼女たちはどのような環境におかれても、そこで与えられる環境の下で利用できるものは利用し、自分の肥やしにする潜在能力を持っているように感じます。また、もし一旦失敗したとしても、あまりそれを引きずらず、自ら次善の活動領域を見つけ出す臭覚を備えているようにも思えます。
 私自身、自分の女房や娘たちが、ここの登場人物のように自分の想いに正直に人生を突っ走る姿はとても想像することはできません。周りにいる人は大変だろうなと思う反面、きっと彼女たちには自然に周りの人々を引き込んでしまう何かがあるのでしょう。
 
『日本の女性会計士の社会的意義』
 この本の中で、小森尚子さんという英国シェフィールド大学会計学講師の「日本の女性会計士が構築してきた役割」という欧米との比較による考察は非常に示唆に富んだものです。ここでは、欧米の女性会計士はその歴史的背景から、男性からの「独立」が共通目的であったこと、一方、日本の女性会計士の実態は、「男性からの独立」や「組織の上部階層の地位」を目指すという意識は希薄で、「形だけ」の独立を目的とはしてこなかったことが述べられています。そして、「彼女たちは公認会計士の日常業務の中で、よい仕事をすることによって、自己実現することを果たしてきました。」、「彼女たちは女性としての社会的地位やポジションに閉塞することなく、かつ、いたずらに男性からの独立意欲にエネルギーを浪費することなく女性としての多様な地位、役割、その経験を「上手く」活用することによって、社会的に不利な女性の立場を、公認会計士としての仕事をする上での利点へと転換してきた。」と述べられています。
 現在、グローバル経済の共通言語である会計・監査の領域では、アングロ・サクソンの影響が支配的な状況です。このグローバル化の波は止めることはできないでしょうが、上記の一節における「女性」を「日本の会計・監査基準」に、「男性」を「国際会計・監査基準」に読み替えれば、今後の我々の対応の方向性を示唆してくれているのではと思います。
 
『終わりに』
 近畿会の女性会計士委員会は、もう25年くらい経つのでしょうか、松浦圭子先生が立ち上げられました。当時、先生に協力を求められた私は、あまりぴんと来ず、積極派ではなかったように思います。しかし、今回の出版はさすが近畿会、なかなかのもんだと感心しています。近畿会会長の小川さんにその旨を伝えると、「当たり前や、けっこう予算使ってるねんで。」という答え。この本は、私を含め現状にややもすれば悲観的な公認会計士に勇気を与えると思われます。公認会計士の裾野を広げるために、バー「レモン・ハート」もいいですが、この本も非常に有効かと思います。皆さん、是非御一読をお勧めします。