報告

各士業女性合同研修会 講演会

女性会計士委員会 石原美保

日時:平成22年11月20日(土) 13時〜16時半
場所:近畿会研修室
主催:日本公認会計士協会近畿会、全国司法書士女性会、
  (社)大阪不動産鑑定士協会、全国女性税理士連盟
 
 今回の各士業女性合同研修会は、事業承継をテーマに2部構成で行われました。
 第1部は基調講演として、公認会計士の根岸良子先生より、平成20年10月1日より施行された「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(以下、円滑化法)と中小企業の今日の状況に関する、豊富な経験に基づく実例を含んだお話を頂きました。第2部ではさらに、弁護士の矢倉昌子先生、税理士の大久保倫子先生、不動産鑑定士の堀三芳先生、およびコーディネータとして全国司法書士女性会顧問の神戸学院大学法科大学院教授・今川嘉文先生を迎え、各士業の視点からの事業承継に関する昨今の状況や問題点などに関しコメントを伺うと共に、活発なディスカッションが行われました。

 第1部の根岸良子先生は、大学卒業後いったん外資系企業にお勤めになった後に公認会計士を受験、合格後は大手監査法人で勤務した後に独立。独立後は、相続税対策などを含む数多くの事業承継コンサルティングを手掛けてこられ、「私の会計士人生は自己株に始まり自己株に終わるんじゃないかと思います」と仰っていたのが印象に残りました。今では東京・仙台・盛岡・京都に事務所を置かれ、バリバリのキャリアウーマンかと思いきや、お話される物腰は柔らかく、また独立当初は子育てをしながらの事務所経営だったと伺い、同じ女性として頑張らねばと刺激を受けました。

 経営承継円滑化法は、中小企業の事業承継の円滑化を支援する目的で制定されたもので、『取引相場のない株式に係る贈与税の納税猶予制度・相続税の納税猶予制度』、『遺留分に関する民法の特例』、『金融支援』をその内容としています。
 『取引相場のない株式に係る贈与税の納税猶予制度・相続税の納税猶予制度』とは、一定の要件を充たす非上場株式の承継について、贈与税額の全額の納税猶予・相続税額の80%の納付猶予が認定される制度であり、これにより承継時の株式の分散を防ぐと共に、事業を継承した後継者が過重な相続税納付負担により資金繰りを痛め、結果として事業の存続が危うくなるリスクを回避することを目的としています。但し、あくまでも納税免除ではなく猶予であり、事業承継後も5年間は、雇用の8割以上の維持・承継した株式の継続保有や代表者の継続等の厳しい諸要件を充たす必要があること、5年経過後も、株式を一部譲渡した場合はその部分に関する猶予税額を納付しなければならない等の制約があるため、現在のような急変する事業環境への柔軟な対応(例えば事業の縮小やM&Aなどの意思決定)が難しくなるとのことです。
 また、『遺留分に関する民法の特例』とは、中小企業においては親族間の遺留分に関連する問題が円滑な承継を妨げる原因となっているケースが多いことから、先代経営者の生前において、遺留分基礎財産に算入しない財産を合意する(除外合意)、もしくは算入すべき価額を相続時ではなく合意時の価額に固定する等の合意をする(固定合意)ことにより、迅速・円滑な事業承継を可能にすることを目的としています。しかしながら、これには推定相続人全員の合意が必要であり、自分が損をするかも知れない可能性のある合意について全員の合意が成立することはかなり難しいとのことです。
 リーマンショック以降の大不況が中小企業を襲い、事業自体が非常に厳しい状況になっている中、自己株式自体の評価が大きく下落している会社が殆どであること、このような状況では、一定の厳しい要件の充足が要求され承継後の動きが制約される経営承継円滑化法の魅力は薄れがちであり、当該法の制定・施行は遅きに失した感は否めず、もう数年早く施行されていれば、より多くの企業が救われていたと思うというコメントがありました。

 第2部ではまず、各士業の先生方から事業承継の諸論点および経営承継円滑化法に関する発表がありました。

 弁護士の矢倉昌子先生からは、遺留分に関する民法の特例に関する、法的要件及び判例の説明を頂きました。合意にあたっては後継者の立場だけではなく、相続人間の衝平を図り非後継者を守るための合意を含むことが大切である事や、私たち専門家が株式評価の実施に当たって、後日非承継者から損害賠償請求を主張されないよう、注意事項(中小企業庁「経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン」(平成21年2月))の説明など、異なる視点からの興味深い内容でした。
 税理士の大久保倫子先生は、北九州からお越し頂きました。先生は、今回のためにご自身のクライアントに対し、事前にアンケートを実施して下さいました。やはり子息などの親族を後継者にと考えている経営者が圧倒的に多いものの、承継に関する具体的な対策は何も講じていないというケースが2/3程度を占めるとのことでした。また、納税猶予制度については、複雑な手続とスケジュールに関する具体的な説明を頂き、実務に役立つ有益なお話を伺えました。
 不動産鑑定士であり税理士でもある堀三芳先生からは、不合理分割や広大地の評価など相続時の不動産評価に係る諸論点に関し、その背景や問題点に関する詳細なご説明を頂きました。
 神戸学院大学法科大学院教授 今川嘉文先生には事業承継の方法と問題点というテーマで、M&Aによる売却のメリット・デメリット、事業の信託による事業承継の可能性について説明を頂きました。

 発表の後、今川先生の司会によるパネルディスカッションとなりました。各先生方が今までの実例で経験されてきた苦労話など、興味深い話が伺えたと共に、会計士・税理士として、クライアントの幸せな事業承継のために、日常から常にケアをしていくべき問題であるというコメントが心に残りました。

 今回の講演会の参加者は80名超と大変に盛況で、性別、年齢を問わず幅広い方々にご参加いただきました。特に、事業承継という会計士には興味深いテーマであったこともあり、33名の会計士の方々にご参加頂きました。これからも他の士業との連携を深めるべく研修会を続けていきますので、今後ともよろしくお願いします。
懇親会
日時:平成22年11月20日(土) 17時〜19時
場所:La Cava de SOL
(ラ・カバ・デ・ソル:スペイン料理 近畿会B1F)
 活発な質疑応答で盛り上がった熱気そのままに、懇親会も39名が参加して大変盛り上がりました。男性の参加者や、若手の参加者も多く、普段接する機会の少ない他の士業の方と交流できる良い機会となりました。