報告

国際委員会研修会 IFRS基礎講座 第1回 実施報告

国際委員会 委員長 塩尻明夫

1. IFRS基礎講座について
 IFRS(国際会計基準)について、我が国は長年コンバージョンを意識して対応を進めてきました。しかし、2006年のMoU(Memorandum of Unde
rstanding)などの影響を受け、日本におけるIFRSへの対応も急激にその方向性を変えることとなりました。
 このような状況を踏まえ、昨年度から国際委員会は、「IFRSセミナー」を実施しております。今年度も引き続き、「IFRS基礎講座」として5回シリーズで実施する予定です。
2. 研修の概要
 平成22年11月24日、近畿会研修室にて「IFRS基礎講座」の今年度第1回となる研修会が行われました。今回も昨年度と同様、基礎的、全般的な項目について本部から講師をお招きして実施しました。
 まず、前半においては「IFRSを巡る最近の動向」と題して、日本公認会計士協会 自主規制・業務本部 IFRSデスク所属の 樋口尚文先生に講演して頂きました。また後半は新たな試みとして「概念フレームワークの説明」として、日本公認会計士協会 自主規制・業務本部 研究員(IFRSデスク担当)の吉田健太郎先生にお話を頂戴しました。
3. IFRSを巡る最新の動向
1)IFRSデスクの位置づけ
 樋口先生、吉田先生が所属されているIFRSデスクは、日本公認会計士協会がIFRS受入れに向けた対応等を踏まえ、当協会の会員を対象として、情報の収集や発信等を行う窓口として開設されています。
2)日本における動向
@任意適用から強制適用の判断へ
 平成21年6月30日、企業会計審議会が「我が国における国際会計基準の取り扱いについて(中間報告)」を公表しました。この中間報告によると、
 ・2010年3月期からの任意適用容認
 ・2012年ごろをめどに強制適用の可否を判断
 ・2015年または2016年(判断後少なくとも3年を確保)に適用を開始
 任意適用については、2009年12月の連結財務諸表規則改正により適用要件が定められ、また開示府令などの改正により開示方法が定められています。
A「IFRSに関する誤解」
 2010年4月14日に、金融庁が「国際会計基準(IFRS)に関する誤解」を公表しました。この文書は、IFRSに関して、一部に「誤解」を招く情報が流布されているのではないかとの指摘があるところを踏まえ、IFRSに対する理解が得られるよう説明することを目的としたものです。内容は「全般的事項」11項目と、「個別的事項」6項目などから構成されています。
B単体F/Sの取り扱い、非上場会社の会計基準について
 IFRSの単体F/S(財務諸表)への適用については、影響のある会社法や法人税法等との関係を整理する必要があります。このため、連結財務諸表のみ適用し、個別財務諸表には適用しないことが妥当であると考えられています(いわゆる「ダイナミック・アプローチ」)。
 また非上場会社の会計基準についても同様に、適用についてはニーズの違いなどから特別の配慮が必要となるため、「非上場会社の会計基準に関する懇談会」においては、非上場会社を金商法適用会社、会社法の大会社、それ以外の会社の3つに分類して適用を検討しています。
C税との関係
 我が国の法人税は確定決算主義を採用しているため、IFRSの導入により、会計と税務の乖離がさらに広がる可能性があります。このため、2010年6月15日に日本公認会計士協会から租税調査会研究報告として「会計基準のコンバージェンスと確定決算主義」が公表されました。この報告においては、会計基準のコンバージェンスと税制の関係から、損金経理用件の見直しを提言したり、他国の状況の説明が為されています。
D強制適用開始の際のスケジュールに注意
 はじめてIFRSによる連結財務諸表を提出する場合には、2期分の連結財務諸表と前期期首におけるIFRS適用開始貸借対照表の作成が義務づけられます。このため、IFRSの強制適用スケジュールには十分注意する必要があります。
Eその他
 その他、各証券取引所における対応や、2009年7月3日に発足したIFRS対応会議、JICPAの対応、任意適用会社(日本電波工業)の事例についての説明がありました。
3)IASB及び米国における動向
@米国の状況
 2010年2月にSECが声明を発表し、グローバルな会計基準の重要性や米国基準とIFRSのコンバージェンスを継続的に推進することを明らかにしました。また、2010年6月にはIASBとASBが共同声明を発表し、IFRSと米国基準間のプロジェクトに焦点をあてた、主要なコンバージェンスプログラムを優先させるという意思を明らかにしました。
A今後の基準改定の動向
 現在もIFRSは改訂が続いていますが、今後1、2年でIFRSはさらに大きく変わるとされています。研修においては、現在公表されている公開草案、及びIFRSの改訂の方向性について説明がありました。
4)その他
 2010年11月に、IFRSの日本語翻訳版が刊行されましたが、さまざまな制約から翻訳版だけを利用することには問題があります。また、頻繁に変わるIFRSに対してタイムリーに対応するには、原文に当たらざるを得ません。このため、対応についてはある程度英語の原文を読む力も必要になると考えられます。
 また、原則主義といわれる点への対応も重要となります。今後IFRSに対してASBJやJICPAが独自の解釈指針を出すことはできませんので、解釈が大きくばらつかないよう、監査法人内外やクライアントとの見解をすり合わせておくことが重要になります。
4. 概念フレームワークの説明
1)概念フレームワークとは
 概念フレームワークとは、会計基準やその解釈指針を作成する際の前提となる理論的基盤をいいます。IFRSの概念フレームワークはIFRSの基準書を構成しませんが、基準書の憲法とも言える位置づけでそれぞれの理論的整合性や一貫性を確保する役割を担っています。
2)企業会計原則との違い
 我が国の企業会計基準が帰納法的な発想(一般に公正妥当と認められた会計基準)によって設定されていること、またIFRSが演繹法的な発想に基づいていることについて説明がありました。帰納法的発想と演繹法的発想それぞれに長所・短所があることについても説明があり、会計基準の根源的な違いについて明らかにされました。
3)概念フレームワークの全体像
 概念フレームワークの3つの特徴として、以下の説明がありました。
 ・利害関係者の中で、投資家を最も重視する
 ・損益のフローよりも、資産、負債等のストック  を重視する
 ・法律的な形式よりも、経済的な実態を重視する
4)日本基準との違い
 IFRSの考え方は、B/Sの資産・負債をできるだけ現在の価値に近づけようとするものですが、これまでの我が国の会計基準は、実績キャッシュフローを重視してきました。また、これまでの我が国の会計基準は、作成者側の意向に重きを置き、欧米の基準の「良い所取り」をしたような印象が強くあります。
 IFRSの採用は、すなわち利害調整や経営管理目的に基づく我が国のこれまでの会計基準から、投資家の意思決定に役立つ情報を提供する「財務報告の基準」に舵を切ることを意味します。
5)概念フレームワークの詳細
 序説から、財務諸表の目的、前提となる基礎、財務諸表の質的特性、理解可能性、目的適合性、重要性、信頼性、比較可能性、真実かつ公正な概観、適正な表示などフレームワークの内容についてそれぞれ開設がありました。
 また現在概念フレームワークそのものも改訂作業中であることについて説明があり、改訂の概要についても説明がありました。