特集

第31回 日本公認会計士協会研究大会

 
 平成22年7月23日(金)、ホテルグランヴィア京都にて「旋律の調和がひとつの世界を作る −国際財務報告基準の適用と日本の公認会計士の役割−」をテーマに第31回日本公認会計士協会研究大会が開催されました。
 午前の部、午後の部とも4つの会場に分かれ各発表者による大変熱心な研究発表や討論が繰り広げられました。
 以下、その概要をご報告いたします。
 
【研究発表 10:30〜14:50】
 研究大会のメインテーマ、サブテーマを受けて企画された研究発表のテーマは、以下のとおりでした。
● 午前の部 10:30〜12:10
  テーマ
京都の事業承継成功の秘訣〜創業180年お老舗「若林佛具製作所」と戦後ベンチャーの雄「堀場製作所」の会長・社長を囲んで〜
電子的確認状の監査上の留意点に関する考察
IFRS適用に備えた、IFRSの解釈・実務対応に関わる公認会計士の役割
事業体課税について〜事業体(合同会社、匿名組合、任意組合、信託他)を活用する場合の実務上の課題についての検討〜
● 午後の部 13:10〜14:50
  テーマ
京都企業のIFRSへの取組み
多様化した事業再生の手法 −実務の現場より−
フリーディスカッション
A. 真の会計プロフェッションを育てるために 〜公認会計士となるために〜
B. 日本公認会計士協会が直面する諸課題 〜会員の利益と自主規制のあり方について〜
C. 中堅監査事務所のIFRSへのチャレンジ 〜現状と課題〜
業績格差のグルーバル・マクロ分析
第38回 日本公認会計士協会学術賞受賞作品(業績格差と無形資産)より
フリーディスカッションにつきましては、「C.」を報告させて頂きます。
 
『京都の事業承継成功の秘訣』

〜創業180年の老舗「若林佛具製作所」と戦後ベンチャーの雄「堀場製作所」の会長・社長を囲んで〜

パネリスト 株式会社若林佛具製作所 取締役会長  若林卯兵衛氏
  株式会社堀場製作所 代表取締役会長兼社長  堀場厚氏
  公認会計士  杉田徳行氏
  公認会計士  伊藤久人氏
コーディネーター 同志社大学大学院 総合政策科学研究科 教授 中田喜文氏
 
◆若林佛具製作所
 若林佛具製作所は、家庭用及び寺院用の仏壇、仏具の製造、販売、内装工事施工等を、京都だけでなく全国的に展開されている創業180年の歴史をもつ京都の老舗企業である。若林会長は大学卒業と同時に入社されたが、3人兄弟のすべてが同社に入社し、いまでも非常に仲がいいとのことである。
 「京都の老舗が続いているのはなぜか」という問いに、京都という街が親子を育ててくれる、また親子代々の付き合いである、続いているのは京都そして職人のおかげであるという気持ちをわすれないことが根底にあるとのことである。また食住近接であり、大家族主義であること、京都の街全体が大家族のようだともおっしゃられていた。
 税務面では、顧問税理士が早い段階から相続対策を考えてくれたおかげで、無理なくスムーズに相続ができ、その中でも兄弟間のバランスを重要視されたとのことである。また相続税負担のため事業が続けられなくなった会社を見てこられたこともあり、事業の継続に差し支えるような税制に異議を唱えられていた。
 
◆堀場製作所
 堀場製作所は、堀場会長兼社長のお父様が昭和20年に京都大学在学中に創業され、現在は世界各国で自動車、環境用等さまざまな分野の計測機器やシステムの製造、販売を行っている東証、大証1部上場企業である。今でもお父様とは適度な距離感、緊張感を保っており、いちばんの理解者であるとのことである。
 受け継いだことのいちばんは「spirit」。従業員を大切にする等のspiritも自然と受け継がれたようである。spiritを象徴しているであろう堀場製作所の社是「おもしろおかしく」も非常に印象的であった。
 また京都はオムロン、京セラ、村田製作所、ワコール等有名企業が名を連ねており、京都におけるこれらの企業との交流の中で、さまざまな情報や重要なノウハウを共有することができることが非常にめぐまれているとのことであった。
 
◆ 老舗とベンチャー企業の違いと共通点
 若林氏:スケールが違う。スケールの大きさで京都をリードする企業と伝統で京都をリードする企業がある。立場は違うが、両者とも京都での重要な役割を担っているといえる。
 堀場氏:共通点はQualityを重視している点であり、老舗では職人、ベンチャー企業では技術者がそれを守っている。また人材、Originalityを大切にする点も共通点として挙げられていた。

(報告:宮口亜希)

 

『電子的確認状の監査上の留意点に関する考察』

発表者
日本公認会計士協会IT委員会電子的監査証拠対応ワーキンググループ 
構成委員長 公認会計士 和貝享介氏
構 成 員 公認会計士 木村章展氏
  公認会計士 佐久間裕幸氏
公認会計士 佐野秀明氏
公認会計士 中村元彦氏
公認会計士 横尾大亮氏
 
1. 電子的回答の事例
 電子的回答とは、「電子的媒体により、又は電子的経路を通して確認状の確認回答者から入手する回答」を言う。電子的回答のメリットとして@人為的なミスの低減、A迅速化、効率化、回収期間の短縮、B回収率の向上等が挙げられた。回答を電 子的媒体により入手する場合の信頼性に影響するリスクとして、@回答が適切な情報 源から得られていないリスク、A回答者が回答権限をもっていないリスク、B情報伝 達のインテグリティが確保されないリスク、C回答者が回答内容を否認するリスクが あり、それぞれの信頼性を確保するための要件として@認証、A承認、Bインテグリティ、C否認防止がある。これらのリスクは、@暗号化、A電子署名、B秘密鍵方式等により信頼性の要件が実現される。

2. 監査上の留意点
 @回答者が電子的回答による旨を通知してきた場合は、電子的回答の仕組みを監査人が理解する必要がある。 A電子的回答の信頼性を確かめる手段として、電話、識別記号等ほか5つがあり、内容を監査調書に記載する。 B認証やインテグリティを確保するためには、当事者が移行を合意していることが必要である。C電子的回答の発行が、第三者サービスプロバイダに委託されている場合は、内部統制の信頼性に留意する必要がある。

3. 電子的回答の手続
 電子証明書には有効期限があるため、電子的媒体のまま調書として保存する場合は、電子署名を確認した旨を調書化する。紙媒体により保存する場合は、電子署名を確認した旨、データの入手のプロセスを記述した上で保存する。電子的媒体による保存の留意点として、長期間データを保存する場合、データが利用可能か定期的に確かめる必要がある。

4. 課題と提言
 @XBRL形式での回収により確認手続が効率化され、XBRL形式でのデータフォーマットにより、様式の統一化が可能となる。A業界で一元化された仕組みの構築により、一元化された仕組みで業務を遂行することができ、また社会的コストも低減する。BPKIとタイムスタンプのような情報技術の組み合わせにより、直接入手する回答と間接入手した回答とで、監査証拠の証明力に差異は生じないことが想定される。 

(報告:古野康和)

 

『IFRS適用に備えた、IFRSの解釈・実務対応に関わる公認会計士の役割』

 
発表者
公認会計士 ASBJ常勤委員 加藤厚氏
公認会計士 ASBJ主席研究員 小賀坂敦氏
住友商事株式会社、IFRIC委員、(社)日本経済団体連合会IFRS導入準備タスクフォース 
  鶯地隆継氏
公認会計士 日本公認会計士協会常務理事  柳澤義一氏
公認会計士 日本公認会計士協会常務理事 関根愛子氏
1. はじめに
 2010年3月期よりIFRSの任意適用が開始されたが、原則主義に基づくIFRSの解釈・実務上の課題は山積されている。日本独自の解釈指針を出すことはできない状況下で、今後のIFRSの解釈・実務対応のために、公認会計士としての役割とは如何なるものであるのか。パネリストそれぞれの立場からの課題と対応についてプレゼンテーション、パネルディスカッションが実施された。

2. 作成者、IFRS解釈指針委員会委員の立場から
  (住友商事株式会社 鶯地隆継氏)

 IFRSは基準そのものがクリアであるべきと考えらており、解釈指針の公表は限定的である。従って、IFRS適用には会社の判断が必要となり、現実には監査人の判断が重要となる。この判断がIFRSの裏ルールとならないよう、さらにその判断にバラツキがないよう、会計士には期待したい。

3. 監査人の立場から(JICPA副会長 関根愛子氏)
 IFRSは日本の制度に合わせた基準ではない。日本特有の解釈が必要な場合、他国での検討も参考にする必要がある。JICPAではIFRSに基づく連結財務諸表監査の支援として、IFRSデスクやウェブサイトの開設を行い、諸外国での適用事例の紹介、IFRS及びIASのテクニカル・サマリーの翻訳等を行っている。

4. 基準設定主体、IFRS実務対応グループの立場から
   (ASBJ主席研究員 古賀坂敦氏)

 ASBJ内にIFRS実務対応グループを設置し、IFRS任意適用会社のサポートを行っている。2010年4月にはIASBとASBJの第11回共同会議が実施され、IFRSの解釈・適用初年度に関する事項について意見交換、要望が行われた。

5. 中小監査事務所の立場から(JICPA常務理事 柳澤義一氏)
 中小監査事務所のIFRS導入に関する技術的不安に対しては、IFRSデスクとともに、中小監査事務所連絡協議会が対応している。一方で、中小監査事務所には会社の判断に対する監査人の意見をタイムリーに伝達できる優位性がある。

6. パネルディスカッション(コーディネータ ASBJ副委員長 加藤厚氏)
 減価償却については、税務との整合性、システム変更のコスト等から定率法を是としたい。IFRSも定率法を否定しているわけではない。大手監査法人が定額法でなければならないという解釈を作り出しているのではないか。定額法も、事例として多いから無難であるとの理由からの選択はできない。等の議論が活発に行われた。また、各パネラーが考える今回のキーワードは、「信頼」、「判断」、「趣旨」、「チャンス」であった。

(報告:田中久美子)

 

『事業体課税について』

〜事業体(合同会社、匿名組合、任意組合、信託等)を活用する場合の実務上の課題についての検討〜

発表者  
日本公認会計士協会租税調査会法人課税部会 
部会長  公認会計士  渡邊芳樹氏
部会員  公認会計士 新川大祐氏
       公認会計士 佐藤正樹氏
 
 税法において法的な規定がなされていない任意組合、匿名組合の課税上の問題点を、その法的位置づけと経済実態を踏まえながら詳細な解説がなされた。
1. 各事業体における法的位置づけ
 各事業体(株式会社、合同会社、特定目的会社、特定目的信託、合同運用信託、証券投資信託、任意組合、匿名組合等)の法的枠組みとそれに対応する課税パターンの解説がなされた。基本的に税法上は私法上の法人格があるものについては事業体に課税がなされ、法人格がないものについては事業体への法人課税はなく、組合員(出資者)に帰属させると解説され、会社法によって柔軟な法人が容認されている現状では、法人格によって課税関係を規定するのは困難な状況になっているとの見解であった。

2. 組合・匿名組合におけるパス・スルー課税(構成員課税)の実務上の問題点
 パス・スルー課税(構成員課税)については、法令が不備のため税務上の取扱いが不明確である。課税上の問題点となる事象について、組合持分を譲渡した場合や出資割合と損益分配割合が異なる場合における組合員の所得計算方法等が紹介された。

3.「信託」における課税関係の整理と実務上の課題
 組合と同じ機能をもつ信託においても、新しい形の信託が登場しており、その課税関係上の問題点が紹介された。受益者が2以上の場合で、それぞれの受益者の有する受益権の権利内容が異なる場合で、質的に分割されている場合、どう課税関係を分割するかが明確でない。例えば土地の信託で、借地権を受益権としているものと底地権を受益権としているものに分割している場合や、株式の信託で議決権を受益権としているものとそれ以外の配当や残余財産分配権を受益権としているものに分割している場合がある。

 課税上の問題点が発生する税法における空白地帯に焦点をあてた有意義な発表であった。

(報告:熊木実)

『京都企業のIFRSへの取組み』

パネリスト  宝ホールディングス株式会社 
取締役経理担当財務部長 松崎修一郎氏
  京セラコミュニケーションシステム株式会社 
常務取締役管理本部長 山田邦雄氏
  公認会計士 佃弘一郎氏、山田善隆氏
コーディネーター 京都大学大学院経済学研究科 教授 徳賀芳弘氏
1. はじめに
 京都企業のIFRS対応の現状に関して、京都府・滋賀県に本社を置く上場会社70社のうち46社を対象にしたアンケート結果が発表され、京都企業の代表として宝ホールディングス株式会社と京セラコミュニケーションシステム株式会社のIFRSへの取組みが発表された。その後、4人のパネラーによるディスカッションが行われた。

2. IFRS導入プロジェクトの課題(公認会計士 佃弘一郎氏)
 京都企業が抱える問題点として、適用予定時期の決定、自社にマッチしたプロジェクト体制の構築、IFRS準拠のグループ会計マニュアルの作成、IFRSインフラの構築が挙げられており、適用時期を意識したプロジェクト管理、経理以外の関連部署・関連会社との連携、システムへの影響の把握等が必要であると発表された。

3. 会計上の論点と企業経営との接点(公認会計士 山田善隆氏)
 会計上の論点としては、収益認識、減価償却、社内開発費、決算時期と会計方針の統一、財務諸表の注記等が挙げられていた。また、経営との接点としては、IFRS導入により予想される経営への影響として、子会社管理方針の見直し、IR方針の見直しが挙げられていた。

4. IFRS導入に向けての課題(宝ホールディングス株式会社 松崎修一郎氏)
 IFRSに対する問題点として、期末日の売上の消滅、売上高の激減、全世界の統一、IR問題、体制の見直し及び意識改革、単体と連結の基準不一致が考えられる。IFRS導入によって投資家が求める指標までが変化するかは大きな疑問であり、依然とした売上・営業利益重視、包括利益重視の程度等を今後検討する必要がある。

5. IFRSと管理会計(京セラコミュニケーションシステム株式会社 山田邦雄氏)
 IFRSは原則主義であり、企業には正しい実務を確立する姿勢が求められるが、その際に京セラ会計学が指針となる。京セラグループとして従来から行ってきた管理会計がIFRSの理念と同じであり、他者に比較しても導入コストは小さくて済むと考えている。

6. パネルディスカッション(コーディネータ 京都大学大学院教授 徳賀芳弘氏)
 会計システム変更・会計教育のコスト、インフラの変化に伴う試行錯誤のコスト、スタート地点の相違によるコストの差、IFRSの導入をポジティブな方向に転換する試み、京都企業の対応の特徴という観点からディスカッションが行われた。今回は、有意義なアンケートの結果と対照的な2つの企業の現状を知ることができる貴重な機会であったとまとめられた。

(報告:田中久美子)

『多様化した事業再生の手法−実務の現場より−』

発表者  
弁 護 士   須藤英章氏
日本公認会計士協会経営研究調査会再生支援専門部会
専門部会長   公認会計士 杉本茂氏
専門委員     公認会計士 須賀一也氏
  公認会計士 小和昭氏
公認会計士 野公人氏
公認会計士 栗本興治氏
1. はじめに
 1997年の山一証券および北海道拓殖銀行の破綻を契機に、事業再生に関する制度が法的整理、私的整理の両分野で整備されてきた。法的整理の分野では、会社更生法の改正および民事再生法が制定され、私的整理の分野では、事業再生ADR、中小企業再生支援協議会、企業再生支援機構(ETIC)などによる事業再生手法が整備されている。

2. 会社更生と民事再生

 会社更生と民事再生はいずれも法的整理であり、金融債務及び商取引債務の整理が目的となるが、担保権の取扱い、及び財産評定の役割について大きな違いがある。担保権は、会社更生では更生手続きによる弁済が行われるが、民事再生では別除権として、再生手続外での弁済が行われる。また、財産評定の役割は、会社更生では更生手続開始時の時価によって資産・負債が評価替えされ、会社の会計帳簿の基礎となるのに対し、民事再生では、清算価値保証原則の思考のもと、破産配当率を試算することで再生計画案の弁済率との比較を可能とするために行われる。

3. 会社更生と民事再生の税務上の取扱い
 会社更生手続、または民事再生手続により債務整理が行われた場合、債務免除益課税への対応が問題となる。法人税法上、会社更生及び民事再生について、企業再生税制が整備されており、資産の評価損益の計上および期限切れ繰越欠損金の利用に関する定めがあり、債務免除益課税への対応が図られている。

4. 私的整理について
 私的整理の分野では、事業再生ADR、中小企業再生支援協議会、企業再生支援機構(ETIC)が整備されており、金融機関への金融債務の減免により再生を図る手法である。これらの私的整理の手法は、上記の会社更生、民事再生の法的整理とは異なり、商取引債務は債務整理の対象としない。金融支援の方法としては、債務免除(事業譲渡、会社分割による第二会社方式を含む)、借入金の株式化(DES)、資本的劣後ローン(DDS)、金融機関による条件変更(リスケジュール)、金融債務の売却などがある。

5. 法律家は公認会計士に何を期待するか(弁護士 須藤英章氏)
 弁護士の須藤英章氏より事業再生に係る公認会計士に期待する事項として、@各種再生スキームに従った資産査定能力、A会社のビジネスモデルを理解する能力、B文章表現力が挙げられたうえ、最後に、C再生業務に耐えうる体力が最も必要になるという点が挙げられた。

(報告:常田英貴)

フリーディスカッションC
『中堅監査事務所のIFRSへのチャレンジ〜現状と課題〜』

発表者
中堅監査事務所有志によるワーキンググループ
コーディネータ−  日本公認会計士協会専務理事 木下俊男氏
 
1. はじめに
 大規模監査法人に比してリソースが十分ではないと思われる中堅監査事務所ではIFRSへの対応にどのように取り組んでいるのか、また課題は何かについて、日本公認会計士協会専務理事の木下俊男氏がコーディネーターとなって、三優監査法人 杉田純氏、太陽ASG有限責任監査法人 新井達哉氏、至誠監査法人 吉村智明氏、明和監査法人 西川一男氏に各法人の現状を紹介してもらい、オブザーバーである監査法人日本橋事務所 遠藤洋一氏、東陽監査法人 小林伸行氏、仰星監査法人 福田日武氏からの質問に各法人が回答する形式でディスカッションが進められた。

2. 現状の紹介
 どの法人も規模に差はあるもののIFRS対応のプロジェクトチームを立ち上げて社内外への情報提供・研修等を行っているが、専従者はほとんどおらず通常業務を実施しながらの対応となっている。
 海外提携先がある法人では、研修や情報提供を受けたり、人員の派遣も行われているが、提携先のない法人では独自の取り組みを行っており、他の中小監査法人と合同で研修会を実施したり、情報交換が行われていることも紹介された。
 クライアントの状況では、具体的に準備作業に着手している企業は極めて少ないことがわかった。また、中小企業が多いことから、必要なスキルを持った人材がおらず、人材確保や教育にコストがかかること、IFRSの影響調査も難しく、システム見直し等の計画立案が困難であること、さらに監査法人にとってもクライアントとの協議時間が増大し、両者にとって負担増になること等が共通の課題として挙げられた。
3. ディスカッション
 ディスカッションにより議論された問題点を要約すれば次のとおりである。
海外提携先のある法人を除き、中堅監査法人とそのクライアントは情報収集面で制約がある。
早めの準備が必要であり、対応が遅れるほどコストが余分にかかる。
クライアントへのサービス提供に独立性の問題が指摘されているが、内部統制のときと同様に、できる範囲のことはある。監査法人がサポートすることは重要である。
原文は英語のため、翻訳の重要性は高い。韓国では対比訳があるが、日本でも必要ではないか。
会計基準の変更というより、ビジネスプロセスの変更と捉えるべきであり、企業は会計処理の考え方を説明できなければならない。

(報告:北垣栄一)

『業績格差のグローバル・マクロ分析』

 〜第38回日本公認会計士協会学術賞受賞作品(業績格差と無形資産)より〜

発表者  一橋大学大学院商学研究科教授 中野誠氏

 
 第38回日本公認会計士協会学術賞を受賞された「業績格差と無形資産」の著書より、業績格差のグローバル・マクロ分析の紹介がなされた。日経新聞の私の履歴書に連載されている下村博士のおわんくらげを引き合いにして、面白い事象を解明するのが科学であり、日ごろから学生に対して、数学を駆使した作業を行っているがそれは難しい道具を使用しているだけで何も面白い現象を対象にした分析を行っていないと諫めている手前、その見本を見せるために行った研究であるとその動機を述べられた。また、先進国の一員である日本においては、オリジナルな研究でないと評価されないが、この研究におけるマクロ分析はオリジナリティーがあると自負されている。

研究の概要
 この研究の目的は、マクロでみた場合の利益率格差を計測し、その国際比較を行うことによって、マクロでの利益率格差を生成する諸要因を探るものである。その計測に使用した対象は1982年から2007年までの26年間のオーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、韓国、オランダ、スペイン、イギリス、米国の11カ国の上場企業の利益率である。計測の結果、・近年格差が拡大している・1997年前後で格差拡大が始まる・格差が顕著に拡大しているのはアングロサクソン諸国ということが判明した。そして利益率格差の決定要因としては、会計的要因(利益平準化を積極的に行っている国・年ほど利益率格差は小さい)のみでは説明が弱く、リスクマネー供給の多寡(リスクマネーの供給量が多い国・年ほど利益率格差は大きい)、小規模企業の影響(小規模企業が多い国・年ほど利益率格差は大きい)といった非会計的要因も重要である。
 こうした説明を、グラフやデータをもとに分かりやすく説明された。日本の利益率格差は最小で、上位の企業の利益率も低いかわりに下位企業の利益率も他国ほど悪くなく、ローリスクローリターンのボンドのようであることが一目瞭然となっている。日ごろの会計的視点とは異なった発想に触れて興味深く、会場からも多くの質問がなされた。著書では、さらにこの業績格差の重要な要因として、研究開発などの無形資産投資を結びつけて考察されている。

(報告:熊木実)

 
『茶の湯の真髄』
 〜精神の別世界に遊ぶ〜 

講師 千 宗守氏

1. はじめに
 千 利休の孫にあたる三代 元伯宗旦の次男の一翁宗守、三男の江岑宗左、四男の仙叟宗室がそれぞれ、官休庵、不審庵、今日庵として初祖利休以来の道統を継いでいる。官休庵は武者小路千家、不審庵は表千家、今日庵は裏千家の三千家と称され現在に及んでいる。千 宗守 氏は、この武者小路千家官休庵の第十四代の家元にあたる。
 今回、日本公認会計士協会研究大会を「京都」で開催するに当たり、京都文化の「おもてなしの心」を体現する会にしたいという主催者側の願いがあった。そこで、記念講演会では、これにふさわしい歴史ある京都の文化、そして歴史ある茶の湯を題材に「おもてなしの心」にちなんだお話をいただいた。

2.「茶の湯の真髄」〜精神の別世界に遊ぶ〜
@京都の季節の特徴、京都の文化
 利休の言葉に「夏はすずしく、冬はあたたかく」とある。季節に応じて、おもてなしの態様を敏感に変える様を表したものである。特に京都は、四季ではなく五季あるとも言われ、秋から冬にかけて、ゆっくりと季節が移ろいでいく、なんともいえない季節がある。
 この微妙な五季に対応して、心づくしを積み重ねていく。これが、京都の長い長い歴史の中で熟成され、京文化を作り上げていく。微細な季節の移ろいは、ひとのおもてなしの心も繊細にさせていく。精神(ソフト面)の充実が、京文化の魅力である。
 京都の建築は、木造主体であり、ハード面の建築物そのものは、時の経過とともに変転していく。しかし、そこに残る精神たるソフト面(おもてなしの心)は、脈々と受け継がれる不滅のものである。

A利休 茶の湯の真髄
 利休の茶は、一般に「侘び茶」と称される。一切の華美を排し、亭主の心からのおもてなしを、極限まで実行することを表している。
 ここで重要なのは、茶道の真髄は、作法ではないということ。作法は、これを厳格にすることで茶会の緊張感を高め、客と亭主との出会いに「一期一会」というほどの重みを持たせる手法の一つなのである。その他にも、視覚・錯覚を利用する手法がある。夏の「打ち水」や「簾」もそうである。実際に涼しくなるかは別問題で、もてなしの一つとして、涼しく感じさせる手法なのである。
 これらは、一種、精神の虚構かもしれない。茶の湯の真髄は、おもてなしを極限まで体現することである。そのためには人間の錯覚も積極的に利用し、精神の別世界をつくりだしているのである。
 人間の錯覚さえも積極的に活用してしまうという意味で言えば、おもてなしの心も極限まで行くと、魔性性があるともいえる。

(報告:西村強)