報告

ご存知ですか?今の実務補習所〜最近の実務補習所事情

近畿実務補習所運営委員会委員長・就業多様化対応委員会副委員長 増田明彦

 
はじめに
 現在の公認会計士試験合格者の就職難につきましては、皆さまもご存じのことと思います。そうした中、一般企業に対して就職活動をしている公認会計士試験合格者が増加しております。昨今、一般企業に対して就職活動をしている公認会計士試験合格者からの声として「採用担当者より実務補習についての配慮ができないので、公認会計士試験合格者の採用はできないといわれた」という事例が複数でてまいりました。実務補習の制度は昔からはかなり変わっており、現状では、一般企業就職者について採用者側から特別の配慮をしていただかなくとも実務補習を修了できる制度となっております。にもかかわらず上述のような発言がきかれるのは、一般企業等の採用ご担当者や就職活動をしている公認会計士試験合格者自身も「実務補習を受けるためには、企業側はかなり配慮をしなければならない」という先入観をもってしまっているからと思われます。そもそも、会員でも(実務補習所を経験された方でも)今の実務補習所についてはほとんどご存知なく、「一般企業にいくなら補習所は無理でしょう」と思っておられる方が多いのが現状だと思います。そこで、会員の皆様に今の実務補習について、よりよくお知らせすることにより「会社にそんなに配慮してもらわなくても実務補習は大丈夫」ということをまわりに言っていただけるようになればと本稿を書かせていただきました。まず下記の項目をざっとご覧いただき、ご存知のことがいくつあるか数えてみてください。今の実務補習生でも知らないことがあると思います。もし、半分以上ご存知であれば、現状においてはかなりの実務補習所通ということになると思います。
 
(1) 実務補習が修了しないと今の公認会計士試験合格者は資格がとれない。
(2) (2)実務補習所の所属は、日本公認会計士協会ではなく、一般財団法人会計教育研修機構である。
(3) (3)実務補習は現状、実務補習所でしかうけることができない。
(4) 実務補習所は近畿以外に3か所(東京、東海、九州)あり、それ以外にも全国8か所に支所がある。
(5) 実務補習所間で転所ができる。
(6) 実務補習所に関する重要事項は、各実務補習所運営委員会の正副委員長を主要メンバーとする実務補習協議会で審議される。
(7) 3年前から、実務補習協議会で審議される事項について、原則的には4実務補習所委員長事務局会議で事前に協議されるようになった。
(8) 4実務補習所委員長事務局会議が開催されていなかった時には、実務補習協議会前に担当常務理事、4実務補習所の運営委員会の委員長が直接協議する場というものがなかった。
(9) 実務補習期間は3年間である。
(10) 実務補習期間3年間のうち21ヶ月半は実務補習所に通っての授業がない。
(11) 実務補習所のある時期でも平日授業は週1回まで(平成22年度から)であり、土曜授業も毎週あるわけではない
(12) (12) 授業ではeラーニングが取り入れられている。
(13) 通常クラスの平日授業開始時間は午後6時であるが、午後7時開始クラスもある。
(14) 3年間で必要単位が取得できなくても継続生として不足単位を充足することにより、修了考査を受けることができる。
(15) 業務補助等の実務経験が2年以上ある場合には、実務補習期間を1年間に短縮することができる。
(16) 1年までの休所制度がある。
(17) 実務補習所を退所しても、2年以内に再入所すれば、退所時に取得していた単位は引き継がれる
(18) 実務補習所には公認会計士試験に合格した年から入所しなければならない、というわけではない。
(19) 現在、実務補習所で360単位(1単位=1時間)以上の講義があるが、実務補習生は270単位以上(ディスカッション等15単位を含む)を履修すればよい。いわゆる実務補習生が必ず受講する必要のある「必修科目」はない(平成22年度からは導入予定)。
(20) 実務補習の必要単位を取得しても、修了考査に合格しなければ実務補習を修了することができない。
(21) 「修了考査」は金融庁が実施しているのではなく、日本公認会計士協会が実施している。
(22)  「修了考査」は筆記試験のみで、口述試験はない。
(23) 現在、近畿実務補習所の補習生の1割以上は一般企業就職者である。
(24) 現在、実務補習所は第1学年3クラス、第2学年4クラス、第3学年4クラスで運用されている。
(25) 授業をおこなう「クラス」以外に「班」というものがある。
(26) 「班」の構成は、(11)の午後6時開始クラスと午後7時開始クラスのメンバーが一緒になるように配慮している。
(27) 「班」を単位として実施されるディスカッション等のグループ研修は土曜日に実施される。
(28)  「班」にはそれぞれ「幹事」が決められている。
(29) 実務補習所の入所料、補習料は3年間で183千円である。
(30) 実務補習料の支払いが困難な未就職者を対象に貸付金制度がある。
 
(1)について
 以前は公認会計士二次試験を合格すると「会計士補」という資格が与えられていましたが、現在はそういった資格はなく、公認会計士試験合格者は実務補習の修了と業務補助等の実務経験を2年終了して初めて公認会計士登録ができるようになります。
 
(2)について
 公認会計士、公認会計士試験合格者、会計実務に携わる者をはじめ、広く会計及び監査に関心を有する者の教育研修に関するニーズを的確に把握し、教材の開発及び教育研修の実施により、これらの者の会計及び監査に関する専門的知識、専門的技能並びに職業倫理の向上を実現し、もって会計及び監査の判断を的確に行える人材の育成に寄与することを目的として一般財団法人会計教育研修機構が平成21年7月に設立されました。一般財団法人会計教育研修機構は平成21年11月2日に金融庁長官より「実務補習機関」として認定を受け、日本公認会計士協会から実務補習所の移管を受けました。
 
(3)について
 公認会計士法第16条で、「実務補習は、公認会計士試験に合格した者に対して、公認会計士となるのに必要な技能を修習させるため、公認会計士の組織する団体その他の内閣総理大臣の認定する機関(以下この条において「実務補習団体等」という。)において行う。」と定められていますが、現在、「実務補習団体等」は、実務補習所しかありませんので、実務補習は実務補習所でうけるしかありません。なお、昔あった「指導公認会計士」の制度はなくなりました。
 
(4)〜(8)について
実務補習所としては、近畿実務補習所、東京実務補習所、東海実務補習所、九州実務補習所の4つがあり、それに加えて、札幌、仙台、新潟、長野、金沢、静岡、広島及び高松に東京実務補習所の支所があります。届出をすれば、各実務補習所間の転所をすることができます。
 実務補習所に関する重要事項は、各実務補習所運営委員会の正副委員長を主要メンバーとする実務補習協議会で審議され、4実務補習所が乖離した運営とならないようにしています。以前は、実務補習所協議会で審議される事項について、東京実務補習所以外の運営委員会との事前調整はほとんどなく、近畿実務補習所にとって実務補習所協議会に出席して初めて聞く話しというものが非常に多くありました。3年前より、実務補習担当常務理事、本部事務局、4実務補習所運営委員会の委員長と担当事務局をメンバーとする4実務補習所委員長事務局会議が開催され、実務補習協議会で審議される事項は、事前にそこで協議を行うようになりました。これにより、各実務補習運営委員会の意見が反映できるようになりましたし、4実務補習所間の情報交換、意思統一もスムースにできるようになりました。
 
(9)について
 現在、実務補習期間は3年間です。平成22年度の入所生の実務補習期間は平成22年11月から平成25年10月までとなります。
 
(10)〜(14)について
 実務補習の期間は通常3年間ですが、講義等のある時期とない時期があり、開講時期は下記のとおりとなっております。なお、過去に比して開講授業数は増加しておりますが、eラーニングの導入等により、研修場所まで移動しての集合研修については減少傾向にあります。平日については、午後6時開始のクラスのほかに、午後7時開始のクラスもあり、一般企業でも通常業務に支障のでるほどのスケジュールではないと思われます。また、たとえ業務優先で実務補習修了に必要な単位を3年間で修得できなかったとしても、継続生として不足単位を充足して修了考査に合格することにより実務補習を修了することができます。すなわち、必ずしも3年間ですべての単位を修得できなくても資格をとれなくなることはありません。
 
(近畿実務補習所のスケジュール)
1年目  
12月〜3月   平日週1回、土曜日月1回、実地演習1回(1泊2日)
5月下旬〜9月  平日週1回、土曜日月2回、実地演習1回(1泊2日)
   
2年目  
2月〜3月    平日週1回、土曜日月1回
6月〜7月   平日週1回、土曜日月2〜3回
   
3年目  
2月〜3月 平日週1回、土曜日月1回
 
  実務補習のない期間(eラーニングを除く)
1年目  11月、4月〜5月上旬、10月
2年目  11月〜1月、4月〜5月、8月〜10月
3年目  11月〜1月、4月〜10月
 
 上記からもわかりますように、実務補習期間3年間のうち21ヶ月半は実務補習所に通わない期間があります。また、実務補習所のある時期でも平日授業は週1回まで(平成22年度から)であり、土曜授業も毎週あるわけではないことがわかっていただけると思います。
 
(15)について
 業務補助等の実務経験が2年以上ある場合には、修業年限短縮生の制度があるので、必要な手続きをとれば、補習所の必要単位をすべて1年で履修することが可能であり、最短、1年後に修了考査を受験することができます。
 
(16)〜(18)について
 海外勤務や出産、育児、疾病その他の理由のために一定期間、実務補習所にくることができないケースが考えられます。そういう場合のために、1年以内の休所制度が設けられています。海外勤務が2年にわたるような場合には、一旦実務補習所を退所した上で、再入所していただくことになりますが、この場合でも、退所後2年以内であれば、退所前に取得した単位は有効ですので、あらためて単位を取得し直してもらう必要はありません。また、実務補習所は公認会計士試験に合格した年から入らなければならない、というわけではありませんので、公認会計士試験合格時に実務補習所に通えないような事情がある場合、入所を次年度以降に遅らせるということもできます。
 
(19)について
 現在、実務補習所で360単位(1単位=1時間)以上の講義を実施していますが、実務補習生は270単位以上(ディスカッション等15単位以上を含む)を履修すればよいことになっています。いわゆる実務補習生が必ず受講する必要のある「必修科目」はありません。ただし、最近、実務補習所の開講授業数を増加させていることに伴い、補習生に必ず受けてもらいたい「職業倫理」のような講義を補習生が受講しないケースが増えると考えられることから、平成22年度からは「必修科目」を導入することが決まっています。
 
(20)〜(22)について
 実務補習の修了要件は「出席単位の取得」、「考査単位の取得」、「課題研究単位の取得」及び「修了考査に合格すること」の4つです。したがって、「出席単位」、「考査単位」、「課題研究単位」で必要単位を取得したとしても、「修了考査」に合格しなければ実務補習を修了することができません。当該「修了考査」は金融庁が実施しているのではなく、日本公認会計士協会が実施しています。
 
(23)について
 平成22年6月初旬にアンケートをとったところ、近畿実務補習所の補習生332人中34人が一般企業に就職しているという事実がわかりました。実に1割以上が企業内会計士になっており、これは今後もっと増加していくと考えられます。
 
(24)〜(28)について
 現在、近畿実務補習所に通っている補習生の数は、1年次332人、2年次470人、3年次475人の総数1,277人(全国ベースでは7,081人)です。直近の1年次についていえば、全体を3つの「クラス」にわけ、通常の講義を実施しています。そのうち1クラスは平日授業の場合の開始時間を通常より1時間遅い午後7時としています。また、「クラス」とは別に、1グループ20人前後の「班」に分け、ディスカッション等のグループ研修を実施しています。
 実務補習所のよいところのひとつとして、補習生の属している組織の枠をこえて、様々な背景の人達と「同期」という意識で繋がりができるということがあります。この実務補習所の同期意識を高めることが、日本公認会計士協会、公認会計士業界への帰属意識を高め、ひいては「職業専門家としての価値観・倫理・心構え」に対する意識を強化すると考えています。ところが、「クラス」の人数は1クラス100人前後、「お互いの顔がわからない」状態です。ともすれば、個々人の意識は大人数に埋没しがちで、そのままでは同期意識を持つのは困難といわざるをえません。そこで、20人程度の小グループで頻繁にグループ研修を行うことにより、より濃密な同期意識を醸成することを目的に、「クラス」とは別の「班」というものを設けています。様々な背景の補習生が触れ合えるよう、班のメンバーは、平日午後6時開始クラス(監査法人系の補習生が多い)と平日午後7時開始クラス(企業内会計士等監査法人系以外の補習生が多い)のメンバーが一緒になるよう配慮したり、「班」単位で実施するグループ研修を「企業内会計士」でも参加しやすい土曜日に実施するようにしたりしています。また、同期意識をより高めるために、「班」ごとに「幹事」を決めています。
 
(29)〜(30)について
 現在の実務補習所の入所料は15千円、3年間の補習料は168千円で、平成12年から全く変わっていません。実務補習所の経費は当該入所料・補習料では賄えておらず、一般財団法人会計教育研修機構への移管前と同じく、後進育成の観点から日本公認会計士協会が支援しています。なお、未就職者支援策として、実務補習料の支払いが困難な未就職者を対象に貸付金制度ができております。
 
おわりに
 以上、現在の実務補習について説明してまいりましたが、昔と比較すると結構変わってきていることがおわかりいただけたと思います。現在、金融庁で「公認会計士制度に関する懇談会」が開催されていることからも、今後、大きく公認会計士試験制度が変わる可能性が大きく、実務補習の制度もそれに合わせて、より効果的なものへと変えていく必要があると思われます。実務補習運営委員会では今後も、よりよい実務補習の実現に向け努力していく所存ですので、会員の皆様におかれましても実務補習に対して興味を持っていただき、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。