寄稿

齋藤力夫[著]「学校会計入門」改訂第4版

会報部 山添清昭

1.
 今回より実務に役立つ会計や監査の本を取り上げることとなった。今回は初回として、齋藤力夫先生の「学校会計入門」(中央経済社)を取り上げることとした。この本は、1987年に初版が出て以来、学校法人会計制度の改訂のたびに版を重ねて、23年経過しており、かなりのロングセラーを続けている。また、2009年11月25日に改訂第4版が発行されている。
 今回この本を取り上げた理由としては、1つは、平成22年3月期に久しぶりに学校法人の監査を担当することになり、20年ほど前に学校法人の監査を初めて担当したときに参考にした本が、版を重ね内容も更新されていることに気づいた点にある。最近のリース会計やソフトウェア会計などの改正にもきちんと対応されてあり期末監査に役立つものであった。
 また、学校法人という特殊な分野の本であるにもかかわらず、非常に読みやすくわかりやすい解説で、学校法人固有の仕訳の解説から、各計算書類の作り方まで詳細な記載がある。本書は、入門というタイトルが付されているものの、学校法人の会計については、網羅的な解説があり、内容的には非常に充実している。本書の頁数は、全体で、271頁である。
 
2.
本書発刊のねらいは、本書の「まえがき」に、「私立学校の会計は、企業会計と異なり教育研究活動の過程を示す資金収支計算書を中心として、消費収支計算書及び貸借対照表を示すこととされております。したがって、初めて私学会計に携わろうとする人にとっては、一般の簿記入門書だけでは理解しにくい構造となっています。従来、この種の入門的参考書が少なかったため、今回、初学者のための学校会計入門書を発行するに至りました。」との記述がある。このように、学校法人会計では、資金収支計算書と消費収支計算書の2つを充分に理解することが大切になると考える。
 
3.
本書の目次は、全部で7章あり、各章別の内容について、以下にまとめているので、参考にされたい。
 
第1章 学校会計はなぜ必要か
第1章では、学校法人会計基準ができるまでのいきさつや、平成17年以降の最近の基準の改正について記載がある。学校法人会計基準が制定されるまでの状況などの記載があり、過去の変遷をつかんでおくことに役立つ。
 
第2章 学校会計のあらまし
 学校会計のしくみ、学校法人の計算体系、学校会計の原則についての記載がある。また、学校法人の会計年度と計算書類の提出についてのルール、都道府県知事所轄学校法人の特例など示されている。学校法人会計基準では、@真実性の原則、A複式簿記の原則、B明瞭性の原則、C継続性の原則、D総額表示の原則の5つの原則があることが示されており、興味深い。また、学校会計の最低限知っておく必要のあるルールについて記載がされている。
 
第3章 学校会計の手ほどき
 学校会計の基礎と帳簿体系を示したうえで、資金収支の仕訳から記帳、資金収支計算と財産計算の仕方、資金収支と消費収支のつながり、仕訳から記帳までのまとめ、までがわかりやすく解説されている。学校会計の複式簿記の特徴と合わせて、学校法人特有の3つの決算書「資金収支計算書」「消費収支計算書」「貸借対照表」のそれぞれのつながりが分かりやすく解説されている。はじめて学校会計を学ぶ方は、この章を押さえておくことが重要になる。
 
第4章 資金収支計算のすすめ方
 資金収支計算についての仕組みを説明したのちに、資金収入項目と資金支出項目のそれぞれの解説がある。それぞれの各項目について、個別的問題点というタイトルで、実務上迷いそうな点について簡潔にコメントが記載されている。次の第5章と合わせて個別論点や留意点が示されており実務に役立つので、参考にされたい。また、資金収支計算書の作り方についても様式とともに示されている。
 
第5章 消費収支計算と貸借対照表計算のすすめ方
 消費収支固有の取引の処理である非資金的取引(現物寄付金の計上の仕方、減価償却の計上の仕方、販売用品・貯蔵品の処理、徴収不能引当金と徴収不能額の処理、退職給与引当金の設定など7項目)について、各項目別に処理の仕方が詳細に解説されている。また、消費収支計算書、貸借対照表、附属明細表のそれぞれの作り方、注記事項の記載の仕方についても様式とともに示されている。
 
第6章 基本金会計のしくみ
 学校会計のうちで、もっとも難解といわれている項目の1つである基本金について、そのしくみの説明がある。基本金の特色を要約して簡潔に示したうえで、基本金の組入れについて、第1号から第4号までの基本金別に具体的に解説がされている。また、基本金明細表の作り方についても記載上の留意点とともに示されている。
 
第7章 部門別会計のしくみ
 1つの学校法人のなかに、大学、高等学校、幼稚園などの複数の学校がある場合など、部門別内訳表の作成が求められる。部門別区分の方法などについての説明と部門別計上と配分の取扱いについても解説がされている。
 
4.
最後に、本書の特徴点をまとめると、最近の学校法人会計の改正を反映しているとともに、設例が多用され、仕訳まで具体的に示されており分かりやすいこと。様式やひな型が多用されていること。理解するにむずかしい基本金会計の仕組みが平易に分かりやすく解説されていることなどが挙げられる。学校法人監査の実務に役立つ内容であり、これから学校法人の監査を行う方、学校法人の会計処理を確認する方にお勧めします。