寄稿

翔る!ニッポンの公認会計士〜中国編〜

田中久美子

 
 たとえ英語が話せなくても、ものすごく飛行機が怖くても、日本企業の活躍の場が国内にとどまらず、グローバル、ボーダレスのビジネス展開が当たり前となっている以上、ニッポンの公認会計士として海外出張する機会が増えてくるのは当然の成り行きではないでしょうか。日本では雄弁に会計理論を滔々と論じられても、言葉の通じない海外でもどかしい思いをしたことのある公認会計士は決して少なくないと思います。また、文化や環境が異なり、日本では考えられないことに遭遇し、驚愕することもあると思います。
 そういった、世界をまたにかけて仕事をする公認会計士ならではの失敗談、体験談を紹介し、同じ経験をされた方とその懐かしい思いを共有するとともに、これから初めて出張される方に少しでも参考にしていただけば幸いです。
 その第1回目は、目覚ましい経済発展を遂げる中国を紹介いたします。
 
1. 移動手段
 空港に着いて、クライアント先までの移動手段としてよく使われるのが、クライアントが手配したワゴン車です。空港出口まで日本人駐在員が出迎えてくれる場合もありますし、そうでなくても会社名と名前の書かれた紙を持って運転手が立っていますので、非常に安心です。
 タクシーの場合は少し大変かもしれません。中国のタクシー運転手には、日本語はもちろんのこと英語もほとんど通じません。そんなときは、同じ漢字を使う民族同士筆談するのが一番です。ただし、日本と中国の漢字は若干違うところがあるので注意が必要です。さらに注意すべきはタクシー料金です。メーターを倒さずに走りだしたら、まずは車を停めさせ、金額を交渉すべきかもしれません。あらかじめ合意していれば、遠回りされることもなく安心です。それでも、特に夜は偽札でお釣りを渡されることがありますので細心の注意が必要です。
 
2. 言葉
 現地では当然のことながら日本語が通じません。現地の日本人管理者とだけ話をするのであれば問題ありませんが、現地の中国人経理担当者と話をする場合、通訳を交えてのミーティングとなることもあります。この通訳がピンきりで、日本語はある程度できても、専門的な知識がないためにちょっとしたことで話が通じないことはよくあります。「この費用は中国では損金経理が必要なのか?」と聞きたくても、まずその通訳に損金経理とは何ぞやということを延々と説明し、ようやく通訳が経理担当に説明したとしても、返ってくるのは「問題ない!」という頓珍漢な回答であることも決して少なくありません。
 会話は無理でも、漢字で書かれたものぐらいは読めるだろうと決算書をもらって、がっくりきた人は結構いると思います。貸借対照表を見ても棚卸資産、減価償却という漢字は一切見当たらず、それぞれ存貨、折旧と書かれています。しかも中国特有の簡体字で書かれているので、中国語がわからなければお手上げであります。
 
3. 食事
 せっかく中国に来たのですから、おいしい中華料理を食べたいという人は多いと思います。しかし、中華料理と言っても多種多様で、山椒辛い四川料理、北京ダックに代表されるちょっと濃い味の北京料理、あっさり海鮮系の広東料理、そのほか本当に色々な種類の料理があって、何が食べたいかはっきり言わないと思うものにありつけません。
 おいしい中華料理には、中国のおいしいお酒をいただきたいものです。日本人に人気があるのは紹興酒。3年物、5年物、10年物と年数が増えるにつれて高価になります。通常は温めてもらいますが、冷で飲むのもおいしいです。ただし、ロックにする場合には氷の衛生が気になるので、よほど信頼のおける店でない場合はやめておいたほうが無難だと思います。温めたものに干し梅を入れるのも結構おいしいです。
 中国酒のもう一つの代表格は白酒です。日本の白酒は雛祭りに出てくる白く濁った甘いお酒ですが、中国の白酒はアルコール度数がかなり高い透明のお酒です。なかにはアルコール度数80度という代物もあります。中国人と一緒に食事をするときには、この白酒による乾杯には注意すべきでしょう。中国の乾杯は、杯を空けるという意味があり、この火がつきそうなアルコールを一気飲みしなければなりません。クライアントの勧めを断り切れず杯を空けているうちに、気がつけばホテルで倒れていたという失敗談は枚挙にいとまがないかもしれません。
 
4. 買い物
 中国での買い物は奥が深く、値段交渉をいかに行うかが重要です。特に観光地の場合、かなりの高値をふっかけてきます。落としどころはいい値の半額ぐらいでしょうか。そのためには、いい値の5分の1ぐらいから交渉を開始し、根気よく粘ることが大事です。時には、「じゃあもういらない!」と言って店を出て、店主が追いかけてくるのを待つぐらいの根性が必要です。
 値段交渉も大変ですが、商品の吟味も大切です。壊れていないか、汚れていないか、ちゃんと使える状態にあるかを入念にチェックするのは当然のことなので、お店の人も嫌な顔はしません。買う時にはちゃんと動いていた時計が日本に帰ると動かないなんてことはよくあることなので、ちょっと余分に買ってリスクヘッジすることも時には必要かもしれません。さらに、偽物には要注意です。くれぐれも日本の税関で捕まって、「日本の公認会計士、偽ブランド品持ち込む!」という新聞見出しにはならないように気をつけなければなりません。
 さらに厄介なのが、偽札です。お釣りに紛れていることもあれば、こちらが出した100元札をすり替えられることもあります。最初はどれが偽札かわからないかもしれませんが、基本的にぼろぼろになったお金は流通している証拠ですので安全です。ただ、それらしく見せるためにわざとぼろぼろにしているケースもありますので、判断は難しいところです。
 以上、今回は中国について紹介しましたが、このほかにも様々な国での武勇伝、有益情報があると思います。そういった情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら、ぜひ会報部までご一報ください。会計士ならではの海外情報を共有いたしましょう。