報告

国際委員会主催 「IFRSセミナー(5回シリーズ)」

国際委員会 委員長 谷口誓一

 
 国際会計基準・国際財務報告基準(以下総称して、IFRS)の近畿会会員向けセミナーの開催を当委員会の本年度の重点活動としております。会員の皆様のIFRSに対するご理解を更に深めて頂くことを目的としているため、1回限りのセミナーではなく、下表のように、5回シリーズでの開催を予定しております。これは過去に例のないことですが、中務会長、蔵口担当副会長のご理解を頂き、5回シリーズのセミナーが実現することになりました。なお、各論となる第2回セミナー以降につきましては、法人組織内において、IFRS関連の専門部署を設けていると思われる各監査法人に担当して頂くことになりました(各回の順番は「あいうえお順」に決めさせて頂いております)。
 
(5回シリーズのIFRSセミナー概要)
 

 当IFRSセミナーについては、会員の皆様の反響も良いこともあって、会報部の依頼により近畿CPAニュースへ寄稿させて頂くことになりました。今回は、第1回総論についてご報告させて頂きます。
  第1回総論につきましては、上表にありますように平成21年9月17日(木)近畿会研修室で開催されました。研修時間は13時30分〜16時30分で、162名の会員の皆様に出席して頂きました。 第1回総論の講師を担当して頂いたのは、田邊朋子先生と吉田健太郎先生です。田邊先生は新日本有限責任監査法人(東京)に勤務されており、同法人のIFRSデスクに所属されています。また、吉田先生は日本公認会計士協会IFRSデスクに所属されています。両先生ともにIFRSを専門にされている先生であり、日本公認会計士協会(本部)国際委員会を担当されている池上常務理事にご紹介頂きました。
  第1回総論では、「IFRSを巡る国際的動向とIFRSの基礎知識」というテーマでお話して頂き、前編を田邊先生、後編を吉田先生にそれぞれ担当して頂きました。 前編を担当して頂きました田邊先生には、@IFRSを巡る国際的な動向、AIFRS採用に向けた日本の動向、B日本版ロードマップの内容、CIFRSの基礎知識、DIFRSに関する正しい理解の必要性、についてお話して頂きました。
 @IFRSを巡る国際的な動向では、「なぜ、国際財務報告基準(IFRS)なのか?」についての解説とともに、日本の会計実務に影響力のある米国が「共通化から全面採用」への方針転換を受けて、日本も同様の方針転換をした旨のお話をされていました。
  また、グローバル市場におけるIFRSの導入状況では、2004年の導入状況と2007年の導入状況を比較しつつ、2005年のEUでの全面移行により、US GAAP採用国数に匹敵するぐらいに増加したこと、及び数年後には150カ国に達することが確実である旨を説明されていました。
 AIFRS採用に向けた日本の動向及びB日本版ロードマップの内容では、金融庁の企業会計審議会が2009年6月に公表した「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」についてのお話をされました。当中間報告では、準備期間として「3年」が示されていますが、これは、2005年のEUでの全面採用の経験より、平均的な準備期間が3年であったことによるとの説明がなされました。また、「任意適用制度に関する提案の概要」についての解説では、任意適用の対象となる企業として「IFRSに基づく社内の会計処理方法のマニュアル等を定め、有価証券報告書等で開示している企業」となっているが、当該内容についての開示省令等のガイダンスがまだ出ていないとのお話をされ、今後の行政及び実務の動向に注目している旨の説明をされました。なお、日本の強制適用の決定は2012年を予定しているが、2012年の決定を待ってからでは準備が間に合わない恐れがある旨を力説されるとともに、IFRSの改定が進んでいる現状では、IFRSはまさにMoving Targetであり、困難ではあるが、改定に留意しつつIFRSを導入してゆかなければならない旨の説明をされていました。
  CIFRSの基礎知識では、同基準の設定組織である国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board)の組織の説明、公表されているIFRS/IASの説明等がなされました。
  前編の最後として、DIFRSに関する正しい理解が必要性である旨ついて説明がなされました。その中でIFRSにまつわる3つの「噂」(IFRSは時価会計を指向、IFRSは原則主義の基準であるため具体的規定に欠ける、IFRSは難しい)についてのお話をされ、その「噂」に対処するためには「正しい認識を持ち、必要な対応を行う」ことの大切さを説明されていました。
  後編を担当して頂きました吉田先生には、「IFRSニーズの高まり」についての内容や、「EU、新興国、米国でのIFRS採用への諸事情」について、最初に説明されました。
 また、IFRSの主要な特徴として@原則主義、A経済的実態の判断の重視、B時価評価を好む傾向、C比較可能性の重視、D経営者の恣意性の介入を嫌うこと、Eシンプルな本体、豊富な注記、の6つを挙げていました。
  例えば、@原則主義についての解説では、世界100国以上で採用されることを考えれば、細則主義の考えはそぐわない旨、また、原則主義では解釈に幅を持たせているため、「大人の判断」を開示企業に求める代わりに、注記による説明責任を負わせ、その責任も負わせる旨の説明をされていました。また、A経済的実態の判断の重視については、IFRSでは画一的な「数値基準」がないため、あくまでも経済的実態を見た上での事実認定を行う必要がある旨の説明がなされました。さらに、B時価評価を好む傾向にあることについての説明では、有形固定資産や無形資産については「原価モデル」に加えて、時価評価する「再評価モデル」を認めているが、実務上は煩雑さを嫌って、「再評価モデル」をほとんど採用していないという実情についての説明がなされました。
 後編の最後に「超えなければならない壁」と「世間でよく聞く3つの噂」についての説明がされました。
 「超えなければならない壁」について、いろいろとお話されましたが、その中で特に私が注目したところとして、「覚える会計」から「自分で考える会計」というお話がありました。私の親しくして頂いているクライアント担当者の方から最近よく聞く話で「最近の会計士さんは基準ではこうなっているとの一点張りで、基準の趣旨についてのお話はありませんね」という話があります。最近は基準が沢山出てきて、止む終えない部分もあるかと思いますが、IFRSを勉強してゆく過程で、「自分で考える会計」に早く慣れて行かなければと思っています。
 「世間でよく聞く3つの噂」では、前編の田邊先生とはまた違った噂についてのお話をされました。その噂とは、「詳細な数値基準等がない原則主義は、日本では機能しないはずだ」、「原則主義は、結局、何でもありになると思う」、「日本企業は自ら行った判断を財務諸表できちんと詳細に説明できるとは思わない」の3つです。
 この3つの噂につき、吉田先生は「そんなことはないよ」というお話をされていましたが、会員の皆様はどのようにお考えでしょうか?
 以上、簡単ではございますが、国際委員会主催のIFRSセミナーの概要と第1回総論の内容につき記載させて頂きました。
  なお、第2回IFRSセミナーについては、あずさ監査法人の渡邉さん(第2回IFRSセミナーの講師を担当)に記載して頂く予定です。