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プレイバック会計本 | |
「監査小六法」 ~目次にみる時代の変遷~ |
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はじめに | |
プレイバック会計本・・・・。勇み足でお引き受けしたものの、受験時代は専門学校テキスト一筋、典型的専門学校依存型受験生であった私は、いざ何を書こうかと考えたとき、固まってしまいました。
有名な先生方の名著も単なる内容紹介に終わってしまっては面白くないし・・・と考えあぐねていた時に思いついたのが、今も昔も監査人なら誰もが必ずお世話になっている、あの、『監査小六法』(平成21年度版は『会計監査六法』)でした。
監査小六法初版の前書きに「本書は、監査関係従事者が日常携帯使用するのに便利なものとして編集したため、やむを得ず割愛した資料も多い。」とあります。 私は平成8年2次試験合格ですが、事務所に入所したころはよく先輩方に、「昔は薄かった」という話をされました。それでも私が入所したころはまだ、バッグに入れて現場に持っていけるサイズではありました。みなさんは、疑問に思ったことはないですか?監査小六法は、いつからバックに入らなくなったのでしょうか?携帯できなくなってしまったのでしょうか? 各世代の監査小六法の目次をレビューしながら、時代の背景と共に考えてみたいと思います。 |
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T.初版から今日まで成長の過程 | |
昭和55年に発行された初版はA5サイズで677頁・価格は2,700円というコンパクトなものでした。その後順調にページ数は成長を続けました。平成13年に一旦頁数が減っているように見えるのは、ここでB5サイズになり、少し薄くなったためです。同様の現象は平成21年にも見られます(図1:監査小六法の頁数と価格の推移 参照)。 あまりに頁数が増えたために、平成17年頃から頁数の増加率が価格の増加率を上回り、1ページあたりのお得度が増しているようで、昭和58年(1983年)は3円27銭/頁(単純計算)ですが、平成21年に至っては1円79銭/頁となっています。(図2:監査小六法の頁あたり単価の推移 参照) | |
次に掲げる章からは、初版から最新版までの約30年の歴史を便宜上、 出版初期:昭和55年から平成3年まで 安定期:平成4年から平成8年まで 成長期:平成9年から平成14年まで 肥大期:平成15年から平成20年まで 4つに分けて考察していきたいと思います。 |
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U.各時期における特徴 | |
(1)出版初期 (昭和55年から平成3年まで) | |
監査小六法初版は昭和55年1月発行。昭和55年といえば、鈴木善行内閣成立・王貞治巨人軍引退、そして山口百恵引退、松田聖子・田原俊彦デビューの年です。掲載されている会計基準は中間会計基準・連結会計基準・外貨取引等会計基準、企業会計の基準が非常にシンプルであったことがわかります。監査基準も監査基準・監査実施準則・監査報告準則と中間財務諸表監査基準だけでした。 出版初期においては、改訂は毎年行なわれるのではなく、数年に一度の改訂版が発行されていました。タイトルも、今では『平成○○年度版』ですが、当時は『監査小六法○訂版』というようなもので、この形式は平成3年の第六訂版まで続きました。つまり、昭和55年から平成3年までの12年間ほどの間、小六法は6回しか改定されていないことになります。 この間、改正された基準がどうメンテナンスされていたのか、現場を体験していないため詳しくは分かりませんが、いちいち改定版が発行されるのではなく新基準や改正された基準の部分のページのみが差し替え用として配布されていたと聞いています。 この頃の本の構成は、最初に「会計諸則編」があり、次に「委員会報告編」があるという二部構成でした。 さらに初版の「会計諸則編」は、《監査》、《会計》、《商法》、《証券取引法》、《大蔵省事務連絡》で構成されており、改訂版からこの構成に《企財審査ニュース》が追加されました。 従来、日本の会計基準は、基準自体の設定を「パブリックセクター」が、実務上の指針等の設定を「プライベートセクター」が担うとされているが、図3からは、この時期の日本公認会計士協会のプライベートセクターとしての機能が十分ではない様子が伺えます。 |
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【図3:大蔵省事務連絡及び企財審査ニュースの収録件数の推移】 | |
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※五訂版より企財審査ニュースの一覧表を収録 | |
また、「委員会報告編」については、初版では《監査第一委員会報告》、《監査第二委員会報告》および《会計制度委員会報告》という構成でしたが、改訂版より、《一般原則関係》、《監査報告書関係》、《商法監査関係》、《連結財務諸表関係》・・・と種類別に分類されて収録されるようになりました。この分類は、実に平成17年度版まで続きます。 この出版初期の最後には、バブルの絶頂と崩壊(平成2年)があります。この後、日本は失われた十年の時代に突入します、それと期を同じくして監査小六法は安定期に入ります、会計ビックバン前の静けさかもしれません。 | |
(2)安定出版期(平成4年版から平成10年まで) | |
監査小六法は、平成4年版より、改訂が毎年行われることになりました。細かいことを言うと本当は平成3年からなのですが、平成3年は六訂版なので、平成4年版からを毎年発行と考えたいと思います。平成4年といえば、初めて有効求人倍率が1.0を切った時期(平成4年12月)で、平成17年5月1.0に戻るまで13年もの月日を要しました。現在の不況と就職難に似たものを感じさせます。 |
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(3)成長期(平成11年から平成14年まで) | |
会計ビックバンは、平成10年(西暦1998年)から段階的に追加・変更された会計基準の総体ですが、その基準は、平成11年版から監査小六法に収録されています。平成11年版で増加したページ数は実に398頁でした。その主なものは、中間連結財務諸表、連結キャッシュフロー計算書、退職給付会計、税効果会計、研究開発費となります。世紀末の一発屋として「コンピューター西暦二〇〇〇年問題に係る監査人としての対応について」も収録されています。このときは、冷蔵庫やテレビやエアコンが止まると言われましたが、静かなお正月を迎えることができました。 続いて平成12年版で増加したページ数は292頁。その主なものは、金融商品会計です。 この時期の監査小六法は順調な成長を続け、次第に片手では持てない厚みになりました。それを改善する画期的な方法として大きさが変更(A5判からB5判)され、実に14年ぶりにページ数が少なくなりました。削除されたページ数は534頁でした。 その結果、携帯性という当初の意義は放棄され、字引としての意味合いを強くしています。この段階で小六法と呼ぶのをやめにしなかったことは、利用者である会計士の中でも評価が分かれるところです。平成13年度版には、委員会報告編に《金融機関関係》が別建てされ、関連する実務指針や監査上の取り扱いが数多く収録されました。また、新興市場における四半期財務諸表に対する意見表明業務についての研究報告が収録されました。 この年は、かの小泉純一郎氏が内閣総理大臣になった年であり、米国では911テロ事件がありました。 平成14年は、厚生年金基金の代行部分返上が流行り、小六法にも収録されました。 この年は、米国の大手会計事務所アンダーセンが解散した年です。これを契機として米国では企業改革法、日本でも日本版J-SOXが導入され、小六法はさらに厚みを増していく雰囲気がします。世の中では、小泉首相による北朝鮮電撃訪問に始まる北朝鮮拉致問題が大きくクローズアップされました。 |
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(4)肥大期(平成15年から平成21年まで) | |
平成15年版の特徴は「企業会計基準委員会」編の新設、監査基準改訂、減損会計、継続企業の前提開示が収録されました。この年の増加ページ数が194頁に留まっているのは、同年4月に発行された金融監査小六法の影響かもしれません。2年前に新設された≪金融機関関係≫が収録されなくなりました。この年の漢字は「虎」、阪神が優勝した年ですね。 平成16年版、平成17年版では、大きな追加はなく、主なものとしては企業結合会計が新たに収録されました。 この時期、ひそかに監査実務指針ハンドブックが出版されました。出版当時は、次々に改正される基準を取り込むために、発行時期の異なるハンドブックを出版したのだと考えていたのですが、この後のページ数の肥大を考えると、ページ数を圧縮するための布石であったのかもしれません。 翌年の平成18年版では、会社法が収録されました。増加したページ数はなんと415頁でした。 平成19年版では、大きな追加修正はないはずなのですが、586頁もページ数が増えています。これは史上最大の増分なのですが、原因はページ数当たりの文字数の変化と考えられます。この版より文字が大きくなったため、1ページ当たりの文字数が少なくなり、おのずとページ数が増える結果となったようです。ちなみに横書きになったのもこの版からです。この年はJSOXコンサルバブル真っ盛りの年でした。 平成20年版では、四半期報告書のレビューが収録されています。また、国際財務報告基準とのコンバージェンスに伴い、工事契約に関する会計基準が収録されています。 そして、この年から目次の後に委員会報告索引が付くようになりました。監査小六法と監査実務指針ハンドブックの二本立てになったことと、それでもなお収録しきれない委員会報告等があることから、収録の有無及び収録の場所が分かるようになっています。 この時期の監査小六法は網羅性の高い会計監査事典の様相を呈しています。その役割から考えるとB5判3,321頁というのも仕方がないのかもしれません。 |
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V.平成21年度版と将来の展望 | |
平成21年度版はとうとう監査小六法ではなくなってしまいました。即ち、B5判からA4判に大きくしてしまったために、ついに小六法を名乗ることをあきらめたのだと考えられます。また、出版社を中央経済社から清文社に変えたということも見逃せません。出版社変更によるコスト削減効果も手伝って、初版以来初めて価格が下がりました。 今後、国際会計基準の動向等により、会計監査六法はさらに厚くなっていくのでしょうか? 時代のニーズに合ったコンパクトな新しい監査小六法を作成する必要があるかもしれません。 ちなみに今年平成21年は戦後60余年にわたる自民党政治が崩れた年です。 | |
【図4:監査小六法の分析データ】 | |
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