■士補会 |
まずは、会計士になられた動機と今までの略歴をお話いただけますでしょうか? |
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■笹山 |
親がビジネスをやっていたこともあり、もともと経営者になってビジネスがしたいと考えておりました。そして高校時代、父に「今後はきちんと数字が見える人じゃないと経営者になれないよ」と言われ、ビジネスをやるにはどうしても数字が必要だと考えました。最初は会計士になりたいという特別な動機があったわけではありませんでした。その後、大学3年生のときにゼミナールの先生の勧めもあって税理士試験を受けたんです。そしたら、たまたま受けた科目を受かってしまったのですよ。そのような中で、ゼミナールの先生が「じゃあ、来年は会計士を受けてみてはどうだ」とおっしゃったのがきっかけで、大学4年のときに会計士を目指し、卒業の年に合格しました。
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■士補会 |
かなりお若くして合格されたのですね。その後、青山監査法人に入所されたのはどういう経緯なのでしょうか? |
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■笹山 |
大学の先生から裏に「ここへ行け」と書かれた名刺を渡され、紹介されたのがきっかけです。昔は、自分の行きたいところとかではなく、紹介された名刺をもらってそれで決まりです。
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■士補会 |
そうなんですね。では、次に入所されてからずっと国内で監査部門一筋だったのでしょうか、それとも、海外への駐在経験等はおありなのでしょうか?
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■笹山 |
入所してから6年間は国内での監査に従事しておりましたが、入所後4年経ちシニアスタッフになった時に、将来どういうことをやりたいかという自己申告書の調査があり、その申告書に海外希望と書きました。その後、当時の経済成長の波に乗って日本企業の海外進出が盛んになっていたこともあり、台北に行くことが決定し、4年間台北で合弁会社をつくることとアドバイザリー業務を行いました。台北時代の経験で非常に大きかったのは某企業の初めての海外進出のお手伝いをしたことです。工場設立からあらゆることに関わることができ、その縁があって、北米進出の際も工場設立のお手伝いをすることとなり、北米へ2年間行きました。ですから、引き継ぎも含め、6年半海外におりました。
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■士補会 |
その後は国内にお戻りになられたということですが、国内ではどういった業務をされていたのでしょうか? |
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■笹山 |
監査をやりながら、IPO業務に携わりました。IPOは1社につきだいたい2、3年はかかるのですが、今までに10社ぐらいに関与してきました。面白かったので、もう一生懸命やりましたね。
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■士補会 |
そうなんですね。では次に、事務所長に就任され、貴法人の組織体制などどのようにお考えでしょうか? |
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■笹山 |
事務所長といってもそもそも私どもは管理区分に、大阪事務所は置いておらず、組織図のなかに大阪事務所というのは存在しません。たまたま大阪エリアにお客様がいるからそこの活動拠点が大阪というだけなのです。世界中どこの監査法人でもそうなのですが、私どもの法人は部門別業界別に分かれています。例えば、製造サービス産業という業界の中は、大きく3つないし、4つに分かれていまして、自動車・エネルギー産業、科学・医薬産業と、あとは小売り産業というセクターに分かれています。他には、金融・サービス産業なら金融機関の業態別に銀行、証券、保険、資産運用の4つのセクターを配置しています。こうすることにより、各セクター単位で専門監査チームが編成され、クライアントのビジネスや事業環境をよく理解し、かつ国際水準の最先端の知識を有するスタッフによる適切なアドバイスと高品質な監査を提供することができます。
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■士補会 |
なるほど。笹山さんは、貴法人設立の主要メンバーとお伺いしましたが、組織自体も大きく変り、トップのうちの一人になられて視点の変化はあったのでしょうか?
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■笹山 |
そうですね。視点の変化は大いに感じています。常に、何年か先を考えていかないといけないので、プレッシャーがまったく違います。 |
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■士補会 |
それでは、貴法人設立からの軸となる経営理念はどのようなものなのでしょうか? |
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■笹山 |
そうですね。組織のミッションとして、Integrity(誠実)、Intelligence(知性)とInnovation(革新)の3つの‘in’を行動目標に掲げています。その中でもIntegrityを最初に持ってきたのは、いろんな問題があったからどんなことがあっても、Integrityを外してはいけないと考えたのです。今は、常に改革を考えていかないといけないこともあり、Innovation(革新)もより大切になってきています。
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■士補会 |
設立当初に比べ最近の2年半は、急激に拠点が増えたり、人が増えたりと急速な法人の変化が起こっていると、伺っていますが、貴法人全体として、いい方向へ向かっていると思われますか?
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■笹山 |
はい。900人からスタートし、今は2,000人を超えました。同じようなミッションに共鳴していただいて、やる気がある人が他法人からもたくさん来られて一緒に働いています。
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■士補会 |
それほど魅力があるということなのですね。そういった貴法人の強みや魅力は何だと思われますか? |
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■笹山 |
一つはやはり、人を大切にして、皆さんのキャリアプランにしたがってやりたいことができるというところにあると思います。ただ、仕事の内容に関しては厳しいですね。たぶん他の大手監査法人の同じ年次の方などの倍ぐらいは仕事をしてくれていると思っています。監査とかアドバイザリー業務というのは、経験がすべてですから倍のスピードで上がっていってくれると思っています。でも、間違わないでください。スピードは単に掛ける2ではなく2乗倍であって、3、4年経って会計士になった時にはすごく差が開いていると考えています。
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■士補会 |
では逆に、貴法人の弱みを教えていただけますか? |
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■笹山 |
仕事熱心でいいのですが、熱心すぎる部分もあるので健康管理も含めて遊びもしてほしいなと思っています。 |
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■士補会 |
ワーク・ライフ・バランスということですね。それについては、現在具体的な取り組みはございますか? |
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■笹山 |
そうですね。具体的にはノー残業デーをつくり、スタッフからシニアマネージャーまでコーチする人間を1対1で付けて、ワーク・ライフ・バランスやキャリアプランをうまくコントロールできるようにしています。1人1人いろんなキャリアプランがあるだろうし、それを実現させるためにも何かあればまずコーチの方に相談します。その上で、例えば異動希望などがあれば、上の方とお話をしていただくことになりますが、その際にはコーチの方を通していただくことで自分のキャリアプランを実現しやすい環境作りをしています。基本的には仕事の話ですが、その他にも気軽にコーチの方とお話していただけるようにしています。 |
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■士補会 |
貴法人では最近、新卒の方で会計士試験を受験されていない方も採用されている等、新しい試みをなされていますが、今後はどのような人材を求めておられるのでしょうか?
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■笹山 |
私どもが欲しいのは、例えば今後は、環境ビジネスの分かる金融工学や情報システムといった専門家を求めています。大変申しわけないのですが、会計士が優秀だとは思っておらず、その道の専門家になり得るポテンシャルを持った人であるならばいいと思っています。
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■士補会 |
今度は全体の話になるのですが、数年前は就職難、一方一昨年からは、業界全体で科目合格者すら採用し、来年度からはまた就職氷河期がくるのではないかということを聞きます。業界全体として、リクルートが場当たり的な印象があるのですが、どのようにお考えですか?
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■笹山 |
業界全体の話としてはどんどん会計士試験の合格者を輩出しようというのが、国の政策として挙がったわけですから公認会計士が働く場を、監査法人に求めるのか、一般経済社会における企業に求めるのか、全然構わないと思っています。一般経済社会に貢献するにあたって、財務諸表を作る側の人と、財務諸表をチェックする側の人と、またはそれを監視する立場に立つ人と、そういう様々なところに会計士が広がっていっていいと思うのです。 |
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■士補会 |
なるほど。もっとすそ野を広げるという意味で、監査法人だけで吸収すべきではないというのが国の方針だと思うのですが、一般企業で合格1年目の人というのは採用されるものなのでしょうか? |
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■笹山 |
特別に扱うように採用しますという企業がどれだけあるのかということで言えば、それは数少ないだろうと思います。英検1級を持っていますというのと、会計士試験を合格しましたというのとで、何が違うのかと私は思います。これは似たり寄ったりで、どんぐりの背比べです。会計士試験に合格しているので特別扱いしてくださいと、給料も差を付けて下さいとなると、会社の方はそんな人事政策は取れないという形になると思います。会計士試験に合格したことが、ビジネスで役立てばいいという程度に私は考えています。
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■士補会 |
では、貴法人の来年度以降の人事政策はどのようにお考えなのでしょうか? |
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■笹山 |
私どもの法人としては、毎年、ある一定の人数は当然入っていただこうと考えております。ただ、その中でこの監査業界に留まらず、一般経済社会における企業に行けばそれぞれの才覚をうまく発揮できる方も多々いると思うのです。だから、ある程度の年数が経てば、きちっと各々のキャリアプランに合わせてコーチングしていこうと思っています。
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■士補会 |
今後の監査業界は、どのような方向へ向かっていくとお考えでしょうか?または、近年、会計士の活躍のフィールドは拡大していると思いますが、これからの会計士に必要な能力、資質についていかがお考えか教えていただけますか?
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■笹山 |
監査業界そのものがどうなりますかというと、内部統制の構築が終わって、今後さらに監査業務が拡大していくというのは、難しいかなと思っています。今後、会計士はどんどん増えてくるし、コンサルティングへのビジネスフィールドが広がってくると思います。だけれど、競争の世界に入るから、本当に必要な人は残るけれども、本当に必要でない人は残らないでしょうね。では、コンサルティングのフィールドを広げようとしたら、どうしたらいいかを考えると、グローバルに打って出るしかないのではないかと思います。韓国の会計士なんかはすごいですよ。昨日、おととい、韓国から飛んできて、日本のJ−SOXのアドバイザリーをやりますと言うのです。皆さんには太刀打ちできないかもしれません。
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■士補会 |
韓国の方がJ−SOXをやるのですよね? |
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■笹山 |
そうです。語学能力が問題になるのではとお考えになるかもしれませんが、彼らは日本語ができるので、何も心配はいりませんし、十分にアドバイスできる能力も持っています。だから、彼らはまるで出張に来るような感覚としか考えておらず、どこかにそういう仕事があったら言ってくださいとすごく積極的なのです。
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■士補会 |
語学は、あくまでも一つのツールであって、コンサルティングができる人かどうかということなんですね。さて最近、合格者のレベルが落ちてきていると聞いたことがあります。具体的には、どういう点で改善が必要だとお考えでしょうか?新人、若手の教育について、どのように取り組んでおられるのでしょうか?
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■笹山 |
たくさんの人が合格すれば、いろんな人がおられると思うのです。論文試験に合格した段階では、一生懸命勉強をしていろんな知識をインプットし、単に知っているという知識の世界の話であって、知恵の世界ではない。合格時点でのインプットの量の違いだけであってインプットが少なかったからといって、レベルが低いとは全然思っていません。監査をやるのは初めてですから、知識がたくさんあろうがなかろうが、同じだと思います。ですから、僕はやはりポテンシャリティ、いわゆるその人の潜在的な意欲であったり、監査とかアドバイザリーの業務をやる姿勢であったり、やるための基本的な本質の勉強をやる意欲があるかどうかだけだと思いますよ。たまたまその時、知識のインプットがあまりなかったというだけでビジネスにまったく影響しないし、心配しなくても大丈夫です。
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■士補会 |
では、貴法人の新人教育の取り組みをお聞かせください。 |
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■笹山 |
私どもは、全国を統合した教育を行っていきたいと考えています。入所してすぐ東京で1カ月間研修を行い、その後3カ月間は東京の現場へ出て、トレーニングを受けます。学生さんは大阪に残していますけれど、それは特殊事情であって、基本的には全員東京へ行きます。 |
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■士補会 |
そこで貴法人やPwCの監査技術を習得させるということですか? |
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■笹山 |
そうです。いろんな意味合いがあるのですけれど、最初のスタート基点をきちっとし、一緒にスタートラインに立つのです。最初の基本は重要ですから、同じような考え方を身に付けていただきたいと思うのです。その後もずっと、研修は同じで、基本的には東京で受けていただきます。とは言っても、ある講演、講義や研修を、大阪でやる場合もあります。この場合東京・名古屋の人も、たまたま大阪に行っているのであれば大阪で受けても構いません。問題は、そこの授業の中身をちゃんと習得したかどうかです。他にも人材の交流ということも考えています。入ってすぐの研修の際に、一緒のマンションに住んでもらって、勤務地が後で大阪になったとしても、いつでも東京・名古屋の仲間と連絡が取れるような状態になってほしいのです。 |
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■士補会 |
そこについての質問です。新人教育でずっと生え抜きで育ってこられた方は、そういう貴法人のカルチャーが培われているのですんなり受け入れられると思うのですが、途中から入る方のケアやそういう方を貴法人のカルチャーに取り込む努力というのは、どのようになされているのですか?
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■笹山 |
途中にも述べた3つの‘in’に同意、共鳴していただければ、受け入られると思います。本当に何も考えることはないのですよ。みんなで一緒に仕事をする上で、良いことはどんどんInnovation(革新)していき、Integrity(誠実)を持ち、知識は必ずシェアしましょうと考えています。
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■士補会 |
非常に一貫した体制で、感銘を受けました。最後に若手が対象の企画ですので、若手に向けてのメッセージをお願いします。 |
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■笹山 |
今後、我々の業界は仕事の問題だけでなく、監査法人なり、アドバイザリー業務の経営面なりで大変難しい局面に入ります。ですから今、若手はできるだけ本質となる経営のこと、あるいは監査のこと、またはそれ以外のいろいろなアドバイザリーの専門のことを、きちんとその本質に立ち返って勉強してほしいのです。そうでないと、生き残れない可能性がある。皆さんが生き残るためには何をすべきかというと、きちんと専門的な能力を身に付けることです。
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■士補会 |
本日はお忙しいところ、ありがとうございました。 |
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笹山 勝則氏(ささやま かつのり) |
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略 歴 |
昭和29年3月19日生(55歳) |
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昭和51年3月 関西学院大学商学部卒業 |
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昭和57年 公認会計士登録 |
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現在 あらた監査法人 |
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執行役兼大阪事務所長 |
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大阪市北区梅田二丁目4番9号 |
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ブリーゼタワー24階 |
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