C 有価証券報告書「経理の状況」の訂正と監査

近畿会会報部副部長・監査会計委員会副委員長 上田 耕治氏

 
 2009(平成21)年2月21日(土曜日)に名古屋国際会議場で開催された中日本五会研究大会の自由論題報告において標記の報告をさせて頂きました。私は監査会計委員会に所属していることもあり各種の研究に接する機会を得ていますが、本報告は、それらに関連して勉強してみたいと思っていたテーマについて、事例の集計分析や検討内容を発表したものです。貴重な報告の機会を頂きご準備頂いた主催者各位に感謝申し上げますとともに本誌特集に際しその一部をご紹介致します。

 分析の対象として、2007(平成19)年7月1日から2008(平成20)年6月30日までに提出された第三号様式の有価証券報告書の訂正報告書791件(全件)の「経理の状況」の訂正事例を用いている。本報告では、この事例につき、「経理の状況」の訂正事例を集計分析してその傾向を抽出したほか、監査報告書の添付の状況、監査報告書不添付の事例について訂正内容の紹介、訂正理由の開示状況、アメリカの訂正事例などを参考にして、訂正有価証券報告書についての監査報告書の添付判断に関する私見も提示した。
  分析対象とした訂正事例の傾向は別表のとおりである。連結貸借対照表関係(貸借対照表本表の数値誤植の訂正のほか、担保資産・保証債務の金額訂正が多い。)、セグメント情報、関連当事者および主な資産及び負債の内容に関する訂正が多くなっている。また、監査報告書の訂正も少なくない。 

  金融商品取引法の企業内容開示制度は、有価証券発行者(有価証券報告書提出者)による自発的な情報開示であるので、「経理の状況」の訂正には原則として監査報告書を添付すべきであると考えられる。この点について、監査人側としては、監査報告が保証している信頼性の付与の中身や監査上の重要性のような理論的な問題の整理が必要となるが、それ以外にも、監査報告書を再使用しているアメリカの実務、二重日付のアメリカの監査基準の定め、コンセントレターの利用など、現実的な方策として実務上検討すべきものはあるように思われる。
  「経理の状況」の訂正に関連する議論としては、会計上の取扱いにつき、企業会計基準委員会「会計上の変更及び過去の誤謬に関する検討状況の整理」(2008年6月)が先行しているが、特に、訂正有価証券報告書における過年度遡及修正に関しては、会計監査の問題とは区別して開示規制上の取扱いの議論が必要である。