最近、地球環境や企業の社会的責任(CSR:Corporate Social
Responsibility)に関するステークホルダーの関心の高まりを背景に、環境、社会及び企業統治などに関する非財務情報を環境報告書などで、企業が自主的に公表しつつある。公表される情報の信頼性を向上させるため、公認会計士等による「第三者審査」などの保証業務が我が国でも1998年以降提供されてきた。本報告では,環境報告の情報の信頼性の確保のための保証業務の課題を検討するために、最近の環境報告の第三者関与の状況を分析した。
環境報告の目的は、企業の事業活動の環境負荷及び環境配慮等の取組状況に関する説明責任を果たし、ステークホルダーへ有用な情報を提供し、そして環境コミュニケーションを促進することにある。企業活動のグローバル化を背景に、企業は地球環境保全の取り組みや説明責任が求められ、資本市場でも社会的責任投資(SRI:Socially
Responsible
Investment)の広がりなど、環境、社会ないし企業統治に関する企業情報の信頼性が重要視されつつある。しかし、環境報告の情報の信頼性を確保するための作成ガイドライン(例えば、環境省「環境報告ガイドライン(2007年版)」など)が公表されているものの、その準拠性を確保する強制力のある制度的枠組みや環境報告に関する保証基準が未だ確立しているとは言えず、信頼性の向上を取り巻く重要な課題が残されている。
今回の調査の結果、先行研究とは分析プロセスが異なるものの、第三者意見やステークホルダー・ダイアログの適用の増加傾向が見られる一方、第三者審査では若干の増加傾向が読み取れた(図表1)。

業種別に比較すると何らかの第三者関与(第三者審査、第三者意見、あるいはステークホルダー・ダイアログ)が選択されている程度にばらつきが見られた(図表2)。
第三者関与の具体的事例を見ると、公認会計士等の保証業務として相当な第三者審査の記載も見られたが、個々の保証報告書の詳細な内容は多様であった。一方で保証業務に含まれない新しいタイプの第三者関与も見られた。例えば、甲監査法人系企業の「独立第三者の審査報告書」では、保証の適合規準は会社規準が、保証基準はサスティナビリティ審査基準などが明示され、限定的保 証レベルでの結論が見られた。加えてGRIガイドラインの適合性審査の実施の記述がされていた。一方、新しいタイプの第三者関与として、乙監査法人系企業による「事前調査」は保証業務の前段階とされる業務報告の形式で、発見事実に基づく客観的で限定的な報告で責任範囲が限定される記述が見られた。同様に、公認会計士等による「CSR経営評価意見書」は、経営活動や取組みの評価、意見及び提案と、情報の信頼性の検証結果の表明の折衷形式で、記述様式や用語も一般的で平易な表現が見られた。以上、最近の事例分析により、公認会計士等の行う保証業務等は未だそれほど件数は多くないものの、保証業務等の適切な実施の記述より、情報の信頼性を高める貢献や報告企業のニーズに対応した業務提供の様子が伺えた。
環境報告の第三者審査(保証)に関しては、環境報告の情報の基本的な開示内容や開示方法、その準拠性の確保や、財務報告での保証との関係、また我が国の保証基準の開発など重要な課題も指摘されている。先ごろIFACが公表した「持続可能性の枠組み(Sustainability
Framework)」で持続可能性報告の保証に関しても明示しており、公認会計士等が行う保証業務が重要な専門業務であるとの社会の明瞭な認識に結び付くよう、残された課題の解決を期待したい。
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