6,000人アンケート結果報告

日本公認会計士協会近畿会 監査現場再生特別委員会委員長 佐伯 剛氏

  この様な機会に、近畿会が主体となって実施した「6,000人アンケート」の結果報告を行わせて頂くことに感謝申し上げます。本日はポイントのみを一部私見もまじえながら報告させて頂きます。
 
はじめに
  まずはじめに強調しておきたいのは、「監査現場再生特別委員会」の名称で近畿会において活動を開始致しましたが、その構成メンバーは大手監査法人、中堅監査法人、大手監査法人のOB、オブザーバーとして内藤教授等にも入って頂いて作業を行いました。
特別委員会では、最終的には提言書を作成しようと思っておりますので、一つのアプローチ方法として論点をディスカッションペーパーとして整理しました。その過程において、大阪の大手監査法人等の事務所長へのインタビュー、日本公認会計士協会会長及び専務理事へのインタビュー、金融庁企業開示課の方との面談及び日本監査役協会会長との面談を行いました。また、当該ディスカッションペーパーについて日本公認会計士協会の正副会長のご意見も頂きながら、論点整理を行いました。当該論点の裏付けを行うために、今回のアンケートを実施させて頂きました。
  もう一つ申し上げたいのは、提言書を今年の3月に予定しております。その提言書は一地域会として提出したいと思います。一地域会に拘っている理由があります。それは、医師会と弁護士会は我々と似た立場において参考となる活動を行っています。一つは、医師会が昨年、福島県で医療過誤(産婦人科)で医者が逮捕される事件の判決がありました。その判決は無罪となりました。この背景には、日本医師会等々の100を超える団体から、メディアや厚生労働省等への陳述書等の活動を行ったことにより無罪を勝ち取ったと私は理解しております。もう一つは、日弁連において、地方の弁護士会から大量合格問題に対して意見が上がり、最終的には日弁連として意見書を提出したことがありました。この様に、我々の行動として、地方から発言をしながら議論を高めていく、地方からの声を集めて見える形にしたいと思っております。
 
アンケート結果の分析アプローチ
  今回のアンケート結果につきましては、3つの切り口で分析を行いました。一つ目は単純集計による分析です。各個別質問に対し、「非常に重要」と言う回答が50%以上寄せられた項目を中心に分析を行っております。二つ目は、単純集計の分析結果を補足・補強する意味で、「職位別」と「所属事務所の規模別」の2つの切り口でクロス分析を実施しました。3つ目は、自由記載欄に寄せられたコメントで、共通して使用される用語属性をまとめ、その使用頻度を分析し全回答者の意識を整理することとしました。

回答者の特徴
  アンケート結果の回答の特徴ですが、大手監査法人に所属されている方からの回答が圧倒的に多くありました。また職位的には、社員・代表社員の回答率が高く、したがって、大手監査法人のパートナーの意識が色濃く反映されているといえると思います。
 
主な分析結果
監査時間の不足
  監査現場を一番疲弊させているのは「監査時間の不足」にあると思われるため、あらかじめ5つの問題点を出して議論しました。回答からすると、「決算発表早期化に伴う業務集中」と「審査・承認手続の重層化」の2つが飛び抜けて回答率が高かったということです。“一時的な時間不足”については、近時の大量合格による人員数の確保により今後は解消されるとする意見と、その反面、合格者の質の低下と、低い監査報酬が人員投入を大きく制約しているとの意見が多く寄せられました。また、決算発表早期化に伴う“常態化した時間不足”の指摘も多く、そのコメント内容は(チ)会社側の問題(決算対応能力の不足等)、(ェ)監査法人側の問題(監査の非効率等)、(」)制度自体の問題(特に「決算短信」の影響)の3つに整理できます。次に、「審査・承認手続の重層化」については、監査現場で監査を直接実施する監査チームの意見を会議形式で審査・承認するのに多大の資料作成や説明時間を要し、その過程で多くの作業ストレスが蓄積されていることが読み取れます。
 
事務所品質管理の重複
  大手監査法人においては、法人内部での検査、海外メンバーファームによる検査、協会の品質管理レビュー及びCPAAOBによる検査が行われています。常に毎年、検査が行われているのが実情であり、これらの検査が、監査現場に相当のプレッシャーを与えているのが現状です。
 
CPAAOBの検査
  寄せられたコメントからは、CPAAOB検査導入時の戸惑いが強く、それが結果として監査マニュアルへの過剰な反応として監査現場に影響を与えたことが読み取れます。CPAAOB検査が導入されその後の時間の経過もあり、種々多くの改善が進んでいると期待されますが、レビュー・検査の重複を如何に改善していくかを監査法人・JICPA・CPAAOBの三者間で定期的に改善してく仕組みが望まれます。
 
インセンティブのねじれ
   監査契約の当事者である社員層が「非常に重要」とする回答が22.4%と低く、「どちらとも言えない」(30.0%)、「どちらかと言えば重要でない」(12.9%)、「まったく重要でない」(4.3%)と否定的意見がおおよそ2人に1人の割合と高くなっています。経営者及び監査役と接する機会の多い職位層に否定的意見の割合が相対的に高くなっているため、この結果の背景をさらに吟味する必要があると思います。
 
公認会計士の処分
   監査現場を疲弊させているもう一つの要因として、公認会計士に対する処分が重たいという議論があります。会計士協会による処分について、「審査の早期化」及び「審査の透明性」についてアンケートを行いました。会員はJICPAの会員自らに対する処分審査スピート及び透明性に関して、社員層で「非常に重要」とする回答率が高く、社員の関心の高さが伺えます。
  次に金融庁による処分について、「二つの処分」、「処分内容の確認」及び「JICPAの関与」の3つについてアンケートを行いました。金融庁の公認会計士処分がJICPA処分に先行して実施されることについて、社員層で「非常に重要」(60.9%)とする意識が極めて高く、金融庁処分をJICPAが内容確認することについて、社員層で「非常に重要」(59.7%)、金融庁処分に関するJICPAの関与について、社員層で「非常に重要」(60.7%)と、いずれも意識が高いことが伺うことができます。
 
会計不正の捜査
  会計不正に係る強制捜査や公認会計士の逮捕事件への関心が高く、「風評リスク」(54.6%)、「監査の限界」(64.1%)の2つの個別質問ともに「非常に重要」とする割合が高くなっています。また、公認会計士及び監査法人の社会的信頼が、新聞報道等で著しく影響を受けることから、近年増加しつつある会計不正の刑事事件化に対する関心が強いだけに、捜査当局に対する会計・監査に係る高度専門的な知識のチェック・助言機能を果たす役割をJICPAに求めるとともに、JICPAから社会への発言を求めるコメントが自由記載として数多く寄せられました。
 
会計・監査への司法判断
  「会計不正の捜査」と同様に、平成20年度に会計不正に関する判決が示されたこともあり、会員の会計・監査の専門領域に関する司法判断への関心は高く、「JICPAの役割」を「非常に重要」とする回答が52.8%ありました。また、「会計・監査への司法判断」全般に関する自由記載のコメントとして、法律専門家と会計・監査専門家による調査・検討する機関の設置を必要とする意見が多く寄せられました。

(報告:神谷直巳)