特集

日本公認会計士協会研究大会

会報部副部長 三浦宏和

 

 平成20年7月16日(水)、名古屋市の名古屋マリオットアソシアホテルにおいて、「夢!魅力ある公認会計士 ―私たちはパブリック・インタレストに貢献します―」をテーマに、第29回日本公認会計士協会研究大会が開催されました。午前の部・午後の部とも4つの会場に分かれて、官・民・学各界の発表者による大変熱心な研究発表や討論が繰り広げられました。 以下、その概要をご報告いたします。

【研究発表 10:30〜14:50 】
研究大会のメインテーマ、サブテーマを受けて企画された研究発表のテーマは、以下のとおりでした。

 

 
 取材では、午前の部の第3会場と午後の部の第1会場に足を運ばせていただきました。
 午前の部では、『会計基準の国際的なコンバージェンスへの取組みについて』をテーマに、企業会計基準委員会委員長の西川郁生氏、常勤委員の新井武広氏、研究委員の小林正和氏、研究委員の中根正文氏が、「ASBJを取り巻く環境の変化」「東京合意を踏まえたプロジェクト計画」「個別プロジェクト(棚卸資産の評価、投資不動産の時価等、企業結合、退職給付、過年度遡及修正、収益認識、財務諸表の表示 等)の検討状況」についてテンポよく発表されました。また、出席者からは、毎年のように基準が変更される点に関するASBJの認識を問う質問がなされ、西川委員長が「本来はルールが安定的なのが望ましいが、当面はIFRSとのコンバージェンスを加速していかざるを得ない。但し、その際に、市場関係者の合意を得ることや、変更内容を受け入れやすくするような工夫を大切にしている。仮に同一基準について複数回変更せざるを得ない場合は方向感を重視し、二転三転しないようにしている。」等の説明がありました。 午後の部では、『現場の声(東海会会員等へのアンケート結果)から学ぶ監査の現状と将来 〜職業としての魅力と社会貢献の両立のために〜』をテーマに、東海会監査業務委員長の山田順氏、トヨタ自動車株式会社常勤監査役の中津川昌樹氏、株式会社名古屋証券取引所自主規制グループグループ長の鈴木武久氏による報告及びパネルディスカッションが行われました。最初に山田氏が、「監査の社会貢献と職業的魅力についての現状と課題、それらの向上のために必要なことの追求」を目的として東海会が実施したアンケートの分析結果について説明された後、「必要な監査時間・報酬の確保による監査の信頼性向上が最大の課題である。」「現在は激動期だが、これを上手く乗り越えることができれば社会貢献と魅力ある職業の両立が可能になる。」と総括されました。その後、中津川氏が監査役の立場から、また鈴木氏が証券取引所の立場から、それぞれアンケート結果に対する見解や公認会計士の魅力向上のために必要なことに関する見解を示されました。特に中津川氏は、トヨタ自動車株式会社常勤監査役としての幅広い見識と豊富なご経験を基に、「会計監査人と監査役とは相互の信頼関係を基に緊張感ある協力関係を構築する必要がある。」「監査役は会社が会計監査業務を尊重する風土を作る責務がある。」「会計監査人が監査リスクを過大評価し、際限のない保守主義や過度の形式主義に走るのは望ましくない。」「リスクアプローチも大切だが、発見した問題を深堀りするなど、地道な監査をしっかりと積み上げていくことも重要である。」「会計監査人はその職業倫理がリスペクトされ、信頼されて仕事ができる素晴らしい職業であり、もっと誇りを持つ必要がある。」といった、非常に示唆に富むとともに、厳しくも温かいコメントを述べられたのが印象的でした。
 
 【記念講演会 15:20〜17:00】
 研究発表終了後、トヨタ自動車株式会社取締役相談役の奥田碩氏をお招きして『日本経済の課題と地球環境問題』をテーマにした記念講演をしていただきました。日本経済の課題に対して取り組むべき方向性として、「技術競争激化への対応」「資源と環境の問題」「人口動態の問題」を挙げられ、「西暦2055年には人口が9,000万人まで減少することが予想されるので、日本の経済活力維持のために外国人の受け入れを積極的に進める必要がある。」等のご見解を示されました。また、地球環境問題への対応として、「官民一体となった研究開発投資」「省エネ製品普及のための国民・政府・産業界のコスト分担」「国民の意識改革」が必要であるとのご見解を示されました。
 
 研究大会閉会後は、各種アトラクションや記念パーティーが開催され、リラックスした雰囲気の中で会員間の活発な意見交換や会員相互の親睦が図られました。 最後になりましたが、今回の研究大会を舞台裏で支えていただいた日本公認会計士協会の皆様、当番会としての大任を果たされました東海会の皆様には心よりお礼申し上げます。