取材

会社法と企業再生

野波 俊光氏

 「会社法と企業再生(F)」は、北陸会松木浩一副会長のご挨拶に始まり、同じく北陸会の野波俊光会員によって発表がなされました。以下、発表内容のコアの部分について報告させて頂きます。
 企業再生を行う際には、企業の債務を圧縮する必要がある場合が多く見られるが、その手法として一般的に利用されている手法として@債権放棄、Aデッド・エクイティ・スワップ(以下、DESと言う)、BDDS(以下、DDSと言う)がある。
1) 債権放棄

 金融機関が会社の債務の返済を免除する方法である。
 会社にとっては、債権放棄により有利子負債が圧縮され金利負担が軽減される一方、経営者の交代、自宅の売却等まで実行する必要性が高まる。また、債権者にとって債権放棄は債権回収の可能性を全くなくす方法であり、かつ、地域のモラルハザードをおこす可能性があることを考慮すると他の再生スキームがあるのであれば、避ける方が望ましい。
  
なお、当然のことながら、債務免除益が計上されることになるので、タックスプランを十分に検討する必要がある。

 
2DES

 債権を現物出資し、再生会社の普通株式を取得するものである。債務が資本に変換されることになるが、この場合の会計処理及び税務上の処理については、券面学説及び評価学説があり、以前は券面学説が採用されており、会計上も税務上も利益を計上する必要はなかった。
 しかし、平成18年度の税制改正により、評価学説が採用されることになり、額面額と時価額の差額を利益として認識することとなった。再生をしなければならない状況にある会社は、資金力が乏しくこの課税負担に耐えられる会社は少ないと考えられる。繰越欠損金が十分にある場合や、資産の評価損を税務上計上できるケースであれば、タックスプラン次第では、債務滅失益を相殺できるケースも考えられるが、相殺できない場合が多いものと考えられる。このため、企業再生上DESを利用することが困難になっている。
 また、銀行法により金融機関は、原則として事業会社の5%以上の株式を保有することは出来ないため、非上場企業の再生方法としてDESを利用することは、出口戦略上困難になっている(再生企業が将来買戻しを出来ればいいのであるが、その契約を通常のDESでは出来ないので、通常のDESでは難しい)。

 
3DDS

 一般的にDDSは、債権を劣後化することによって実質的に債務者の財政状態あるいは、信用状態を改善し、再生可能性を高めるとともに既存融資の回収可能性を高めるものであると言われている。従って、会社にとっては金利負担が減少しない分、債権放棄ほど有利なものではないが、DDSの額が資本とみなされれば、財政状態あるいは信用状態が改善されるというメリットがある。
 しかし、金融検査マニュアルでは、債務者区分等の判断においてDDSにより劣後化された債務を資本とみなすことができるのは、債務者区分が要管理先を含む要注意先債務者に限定されている。したがって、債務超過に陥っているような会社においては、実質的にDDSを実施できないというケースも生じてしまうことになる。
 このような状況のもとでDESDDSを利用できない場合の企業再生手法として最近、種類株式を利用した方法が採用され始めている。
 金融機関側から見ると、債権を現物出資し、種類株式(償還条件付株式)の発行を受ける方法である。
 将来、分配可能額が発生した時期から、分配可能額の中から実質的に債務の償還を行う方法である。
 基本的な仕組みはDESと同様なのであるが、発行する株式を種類株式とすることで、金融機関側にとっては、回収の可能性もあるし、5%ルールも回避でき、場合によっては税務上の問題(債務消滅益を認識しなければならないということ)もクリアされる場合がある。
 今後このような手法が普及するかもしれない。

(文責:百々 季仁)