取材

のれんの会計処理と開示

 

井 晶治氏

 自由論題の部「のれんの会計処理と開示(E)」では、京滋会の深井和己副会長のご挨拶に始まり、同じく京滋会の高井晶冶会員により発表がなされました。
 主な論点を下記に簡潔に記載致します。
 現在、国際会計基準(IFRS)と米国会計基準、日本基準の共通化が進められている中で、企業会計基準委員会(ASBJ)は、「持分プーリング法」を2008年中に基準を変更して廃止する方向である。「のれん」という勘定科目は非常に「あいまい」な性質を有しており、またルールが「複雑」であることから、実務上、解決すべき課題が残っている。
 
1.現行の会計ルール

(1)

背景
   現在、合併など企業結合の会計処理では、「パーチェス法」と「持分プーリング法」が認められているところであるが、開示事例から判断する限り、実務上、「持分プーリング法」を用いている例はほとんどなく、廃止しても問題がない状況である。
 「持分プーリング法」が廃止されると、企業結合の会計処理には「パーチェス法」が適用され、「のれん」が発生する。

(2)

「のれん」の定義
   「のれん」とは、被取得企業又は取得した事業の取得原価が、取得した資産及び引受けた負債に配分された純額を超過する額と定義される。

(3)

構成要素
   国際的には、「のれん」は、下記3要素によって構成されると言われている。
@被結合企業の事業の超過収益力
A結合当事会社の事業統合によるシナジー効果
B結合会社の既存事業の超過収益力
 上記のうち、@及びAについては議論の余地はなく、非常に理解しやすいが、Bはいわゆる「自己創設のれん」であり計上されるべきではない。

(4)

会計処理と比較
  会計処理については、
A.払込資本からの控除
B.留保利益からの控除
C.年度利益からの控除
  C1.即時償却
  C2.規則的に償却
  C3.現存処理
が考えられるが、現在、日本基準では、超過収益力は各年度(最長20年)の利益に対応させて償却すべきものであり、その価値の減少は即時でないという立場をとっている。しかし、国際会計基準、米国会計基準はともに「のれん」は非償却とし、減損処理の検討対象としている。日本も近い将来、「非償却+減損」となるが、日本の減損のアプローチは国際会計基準や米国会計基準とは異なるため、調整や変更が必要となろう。
(5) 「取得」の会計処理の考察

@

取得原価の算定と配分
   取得原価の算定については、支払対価が@現金の場合とA現金以外の場合(交付株式の時価)がある。また、取得原価の配分の対象については、現行、無形資産や研究開発費等への配分が定められているが、研究開発費への配分は、一時償却への抜け道になり得るし、逆に研究開発費処理すべきものを「のれん」として資産計上されてしまう可能性があり、実務上、判断の難しいところである。ただし、この配分には1年以内という配分作業時間の猶予が認められている。
 また、税効果会計との関係でいえば、のれんとしての差額(例えば1,000)を計上時に「のれん」600、「繰延税金資産」400として計上すべき点に留意が必要である。

A

開示(注記)
   1)企業結合の概要
 2)F/Sに含まれる被取得企業等の業績期間
 3)企業結合の取得原価の概要
 4)のれんの概要
 5)取得した純資産の内訳等(流動資産、固定資   産…という大きなくくり)
 6)条件付取得対価の概要
 7)研究開発費等への配分(費用処理)
 8)無形資産に対する配分
 9)配分が完了していない旨
 10)連結F/Sを作成していないケース
 11)当該企業結合が当期首に完了したと仮定した   との連結P/Lへの影響額
 と定められているが、上場企業の開示例は少なく、

研究開発費等への配分(1件)、無形資産への配分(2件)、取得原価の配分の暫定的な会計処理(1件) という現状である。

B

償却期間・償却方法
償却期間:最長20年が認められているが、103社中   60社が「5年」、18社が「10年」、11社が「20年」 ということから、「5年」が最も多い状況である。
償却方法:すべて定額法を採用している。
   
2.おわりに
   現在の「のれん」に関する会計処理については、平成18年4月からの導入ということもあり、まだまだ実務に定着していないように思われる。今後、会計基準の国際的共通化に際しては、
 ・ 減損処理ルールの明確化・単純化
 ・ 時価算定方法の画一化・単純化
 ・ 実務と会計・開示ルールの融合
が課題となるだろう。

(文責:田 篤)