取材

株式公開支援業務の最近事情

〜独立監査人として〜

楠元 宏氏

 自由論題の部(C)「株式公開支援業務の最近事情〜独立監査人として〜」では、東海会副会長の松岡正明氏のご挨拶に始まり、同じく東海会の楠元宏氏により発表がなされました。
 以下に発表内容を記載致します。
1. 株式公開支援業務の流れ
(1)短期調査(ショートレビュー)

@

企業経営の健全性の評価⇒経営管理体制
  関係会社の存在意義を検証すると共に、関連当事者取引のうち解消すべきものがないかを検証する。

A

企業内容等の開示の適正性の評価⇒会計処理、経理体制
   採用している会計処理基準を評価し、問題となる会計処理を抽出する。上場を目指す企業では、税法に基づく会計処理を採用しているケースが多いため、会計上あるべき処理を提示することが必要となる。
 また、迅速且つ精度の高い月次決算や原価計算、適時開示に耐え得る経理体制かどうかを評価し、問題点を抽出する。
   

(2)

会計指導業務
   指導業務を行う際には、行き過ぎた指導により独立性を害さないように留意すべきである。例えば、原価計算制度の構築を監査法人がすべて行うなどは監査契約締結後の監査実施上自己監査となり監査人の独立性を害するおそれがある。
   
(3) 監査契約締結
   
(4) 監査報告書の発行(各証券取引所の上場規則に基づく)
 

(上場承認後)

(5) 監査報告書の発行(金融商品取引法に基づく)
   
(6) コンフォートレター業務
   保証業務ではない点に留意する。実施した手続とその結果を記載のみとなる。
   

2. 最近の新規公開の状況調査

  ◆調査対象期間:上場日が2006年1月1日から2007年11月30日まで
◆調査対象除外:東証1部上場、銀行、証券、外国法人
  (以下の表は研究大会資料に記載されていたものを抜粋)
(1) 監査報告書
 

   
   限定付適正意見は上場審査の形式基準上認められる場合でも、実質的には問題となるケースが多い。一方、継続企業の前提に関する追記情報の記載がなされていても、問題とならない場合が多い。上場審査上現在の業績よりも将来の成長性が重視されるためである。
   
   
  (2)会計方針の変更                    
 

   
※1  研究大会資料上は「評価基準」と記載されていたが、楠元氏が発表の中で訂正
※2  研究大会資料上は6(5)と記載されていたが、楠元氏が発表の中で訂正
※3 研究大会資料上は54(34)と記載されていたが、楠元氏が発表の中で訂正
(上記の表には会計基準等の改正に伴う会計方針の採用・変更等は含まれていない。)
   
@ 消費税等の会計処理の変更は税込方式から税抜方式へ変更する場合が多い。
A 棚卸資産の評価方法の変更は継続記録を前提とする評価方法への変更が多い。(最終仕入原価法から移動平均法など)
B 役員退職慰労引当金を引当計上していなければ、莫大な役員の退職慰労金を上場後の将来の株主が負担することとなる。内規を整備し適切に計上することが求められる。
C 直前期での会計方針の変更は好ましくない。直前々期に重要な論点は解消しておくべきである。
   
3.内部統制評価制度

(1)

上場審査における取扱い
   J-SOXは上場申請時には適用されない。したがって、会社が正式に対応しなければならないのは上場後最初の有価証券報告書となる。
 ここで、財務報告に係る内部統制に重大な欠陥があり、監査意見として不適正意見の場合に上場廃止となるかが問題となるが、各市場において明確なルールが設定されていない。
 今後の規制の動向に留意する必要がある。
   

(2)

事業等リスクの記載状況
 

   
4.おわりに
   直前々期の指導により上場審査上重大な問題を解決して直前期を向かえるのが理想的である。
 そのためには監査契約締結後、公認会計士は大いに指導機能を発揮する必要があるが、一方で監査業務において独立性を阻害することのない指導・助言を行う必要がある。
 特に管理体制が未整備の会社ほど公認会計士が指導・助言を行う局面が多くなることから、どの程度管理体制構築に寄与すべきかについては十分な配慮が必要となる。

(文責:隅田 直樹)