取材

タックスヘイブン対策税制の最近の動向

白井 弘氏

 
1. はじめに
 最近における国際租税関係の判例、裁判例等の動向について(1)移転価格税制(独立企業間価格の算定方法)(2)軽課税国課税(タックスヘイブン対策税制の適用等)(3)その他の事案が見受けられる。
 今回は(2)軽課税国課税(タックスヘイブン対策税制の適用等)について、現在、課税当局との間で裁判になっている案件がいくつかあり、裁判の争点が何であるかについて、原告と課税当局(被告)の主張について、書籍又はインターネット等で公表されている資料にのみ基づいて取りまとめた結果を中心に発表した。
2. タックスヘイブン対策税制の概要

(1)

タックスヘイブン対策税制の概要
   タックスヘイブン税制は、低税率国(25%以下)あるいは所得に対する課税のない国(所謂タックスヘイブン国)に設立された外国子会社の留保所得を、親会社である日本法人の所得に合算課税するという制度である。

(2)

適用除外要件
   特定外国子会社に該当しても、以下の要件を全て満たせば合算課税の適用除外となる。

(3)

来料加工の定義について
@税関総署令113号における定義
    税関総署令113号「中国税関に加工貿易貨物に対する監督管理方法」第1章総則第3条の定義規定において、「来料加工とは、輸入原材料が国外の企業により提供され、企業は輸入代金を支払う必要がなく、国外企業の要求により加工あるいは組立を行い、加工賃のみを収受し、製造品を国外企業へ引き渡す経営活動を指す」と定義されている。
Aジェトロ香港センター編「中国・華南進出マニュアル」ので説明
   ジェトロ香港センター編「中国・華南進出マニュアル」によると、来料加工とは、外国企業が中国企業に原材料を無償提供し、中国企業において加工した製品を全量引き取った上で、加工賃のみを支払う取引である。…珠江デルタ地帯に工場が多く集積している。
3. 適用除外条件をめぐる納税者(原告)と国税局(被告)の訴訟について
課税当局の課税根拠
 香港に子会社を有する日本法人が、香港子会社と中国華南地区における中国法人との間で行なわれる広東型来料加工契約に基づく取引により得られた利益について、これを香港子会社が留保している場合、国税当局は、香港子会社の行なう事業を製造業と認定した上で、香港子会社は、製造工場を香港に有せず、香港とは税制の異なる地域である中国に存する工場において製造業を行なっていることから、適用除外要件(所在地国要件)を満たさないと判断し、香港子会社に係る課税対象留保金額を親会社である日本法人の所得に合算課税した。
適用除外条件をめぐる双方の論点整理

(1)

事業の判定 製造業か製造問屋
 タックスヘイブン対策税制の適用除外要件の一つである「非関連者要件又は所在地国要件」は、特定外国子会社等が行う主たる事業に応じていずれかの要件を適用すること

(2)

タックスヘイブン税制と租税回避の意図とされている。
@タックスヘイブン対策税制と租税回避に係る論点
中国に進出し、広東型来料加工形態を採用している日本企業は、租税回避の意図を持って中国に進出したのだろうか?
A直接投資と間接投資との課税関係の比較
中国へ直接投資を行ない、中国子会社を設立した場合には、製造そのものを中国で行なっていることより、所在地国要件を満たすため、中国における投資優遇税制によりたとえ法人税率が25%以下であっても合算課税の適用は受けないと考える。このような直接投資の場合と香港子会社経由の場合とで合算課税の適用が異なることは、課税の公平性か欠くことにならないか?
 (以上 出所 橋本秀法氏「来料加工とタックスヘイブン税制」より)
(3) 結論
 以上、原告側の主張の根拠論文及び課税当局側の根拠論文のみで考えた場合、双方の主張にはそれぞれの点においてその主張の妥当性、正当性があり、その主張の根拠付けには、日本の法人税法のみならず、委託加工契約や補充協議書の契約としての法律的な判断、香港と中国との関係に関する中国中央政府の見解、租税回避の意図に関する事実認定等の問題をすべて詳細に検討して行かなければ事実の認定ができない。また、双方の主張の正当性は双方のいずれの立場にあるかによってその判断は異なってくるであろう。
 第三者的な立場で、いずれが正当なのか判断するには、困難性が伴うと考える。
4. 監査上の留意点
(1) 追徴税額の会計処理-監査・保証実務委員会報告第63号の解釈
 監査委員会報告第63号「諸税金に関する会計処理及び表示と監査上の取扱い」の改正について平成19年3月8日付けで公表された。
 今回の改正は、昨今移転価格税制をはじめとした多額の更正処分が相次いでいるものの、更正税額の会計処理が必ずしも統一されているとはいえない実態を踏まえ、監査上の取扱いについて所要の改正を行ったとその前文に記載されている。
 この趣旨は、更正決定に基づく追徴税額は、費用処理することが原則であり、還付可能性については、確実である場合にのみ計上できると解釈できる。
 (2) 特定外国子会社の留保金に関する繰延税金負債の認識
 次に連結財務諸表における外国子会社の留保利益に関する税効果をどのように認識するかという論点がある。

(文責:白井 弘)