報告

第232回 企業財務研究会報告

監査会計委員会

平成20年1月17日(木)午前10時より、近畿財務局会議室において第232回企業財務研究会が開催された。
出席者
近畿財務局 岡本理財部長      他8名
近 畿 会  中務会長        他8名
京 滋 会  長谷川会長       他6名
兵 庫 会  中津会長        他4名

 テーマ「訂正報告書の事例分析」

発表者:白井 弘 監査会計委員会委員長 
    伊東昌一、古野康和 監査会計副委員長
     山添清昭、西村 強 監査会計委員

1.はじめに
  今回は近畿会が発表当番であり、テーマには「訂正報告書の事例分析」が選定された。この背景には、平成16年11月16日付けで「ディスクロージャー制度の信頼性確保に向けた対応について」が金融庁より公表されたが、その後においても記載事項の一部が記載漏れとなっているなどの不適切な事例が多数認められている。そこで平成17年3月期に係る有価証券報告書を提出した全国3,335社を対象として、財務局等において開示状況の重点審査を実施された。
  しかしながら、平成19年7月以降9月末までに提出された訂正報告書件数は実に1,997件にのぼり、提出件数の57%が「コーポレート・ガバナンスの状況」に係るものであった。また、平成19年3月期の有価証券報告書は、平成18年5月1日より施行された「新会社法」による影響が非常に大きいものがあり、金融庁より内閣府令が複数回公布され、財務諸表等規則や三号様式など大幅改正されている。
  このような実情を踏まえ、今回のテーマについて「訂正報告書の事例分析」を選定した。なお今回の事例分析の視点は、以下のとおりとした。
どのような項目に係る訂正報告書が多いのかの実態把握
 訂正報告書を提出した原因への理解
有価証券報告書提出会社への予防的対策の周知方法の検討
 
2.過年度の訂正報告書の提出状況
  日本公認会計士協会の有価証券報告書検索システム(eSPERサーチ)を利用して、2005年1月以降の有価証券報告書等の提出件数を調べた結果は、以下のとおりである。
 

 
 
3.事例分析の対象期間と対象項目の選定
  2007年7月〜9月までに提出された訂正報告書の項目別の件数の多い項目を事例分析の対象項目として選定した。
  選定項目は次項のとおりであるが、「配当政策」の訂正事例においては、「コーポレート・ガバナンスの状況」も同時に訂正している例が多く見受けられたため、配当政策の訂正事例分析に加えて、「配当政策の項目について訂正報告書が提出されておりかつコーポレート・ガバナンスの状況についても訂正している事例」にも焦点を当てた追加的な分析も試みた。
  なお、監査報告書の事例分析の結果、7月〜9月までに提出された訂正報告書の多くは、過年度における不適切な経理処理が判明したことに伴う、監査報告書の訂正報告書の提出であった。今回は、不正経理の処理に伴う訂正報告書の事例については、詳細な分析は実施していない。
 
4.訂正報告書の記載項目別の分析結果
(1)「株式等の状況・株式の総数等」の主な訂正内容
発行する全部の株式の内容について会社法107条1項各号に規定する事項を定めている場合の具体的な内容の記載漏れ(譲渡制限株式の会社の承認)
会社法108条1項各号に掲げる事項について異なる定めをした内容の異なる二以上の種類の株式を発行するときの株式の種類具体的な内容の記載漏れ(優先株式)
ある種類株式の内容として、会社法322条1項の規定による種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めている場合のその旨の記載漏れ
   
(2)「配当政策」の主な訂正内容
剰余金の配当の決定機関、記載漏れ(中間配当は取締役会、期末配当は株主総会)
剰余金の配当に関する事項の決定についての定款の定め、記載漏れ(中間配当を行うことが出来る旨)
毎事業年度における配当の回数についての基本的な方針、の記載漏れ(例:中間配当及び期末配当の年2回を基本的な方針としております。)
配当の基本的な方針(例:無配とさせていただくとの追加記載、例:当事業年度に係る配当は次のとおりであります。***)
   
(3)「役員の状況」の主な訂正内容
役員の略歴誤り(入社年月、就任年月、(現任)の記載漏れ)
役員の任期誤り(年数誤り)
   
(4)「コーポレート・ガバナンス」の主な訂正内容
定款で取締役の定数についての定めをした場合のその旨の記載漏れ
取締役の選解任の決議要件につき、会社法と異なる別段の定めをした場合には、その内容を記載、記載漏れ
株主総会決議事項を取締役会で決議できるとした場合、その事項及び理由、記載漏れ
株主総会の特別決議要件を変更した場合には、その旨その理由を記載、記載漏れ
責任限定契約を締結した場合、当該契約の内容の概要を記載(取締役及び監査役の損害賠償責任免 除)、記載漏れ
   
(5)「提出会社の株式事務の概要」の主な訂正内容
定款の定めにより単元未満株式について権利行使 が限定されている旨の記載漏れ
剰余金配当基準日について記載誤り
   
(6)「監査報告書」の主な訂正内容
@ 監査報告書の差し替え
監査報告書の文言修正
監査報告書の追記情報の追加記載(過年度の不正経理の判明と関連)
監査報告書の提出日訂正
   
A EDINETの提出分の誤り
追記情報の記載漏れ(後発事象に係るケースが多い)
指定社員名の相違又は氏名誤り
監査法人名の記載漏れ又は相違
   
B 不適切な経理処理による訂正報告
  過年度の不正経理判明時点以降の有価証券報告 書及び半期報告書については、全て訂正報告書を 提出していることより、提出件数は多い。
 

5.分析結果に対するまとめ

  今回の訂正報告書を分析した結果、主たる訂正内容 及び発生原因、並びに防止対策については、以下のようにまとめられる。
(1) 「役員の状況」に関する訂正内容は、主に役員の略歴や任期誤りに関するものであった。記載内容については、本人確認や株主総会での役員改選等の変更箇所についての確認が十分に行われなかったことが原因と推測される。
 今後の防止策として「役員の状況」については、有価証券報告書提出の最終段階で、「役員の状況」の記載項目の本人確認や株主総会での役員改選事項等について、最終確認手続きの改善が望まれる。特に「役員の状況」については、記載時点が有価証券報告書の提出日現在であることを特に留意しておくことが必要であると考える。
(2) 「株式の総数等」、「配当政策」、「コーポレート・ガバナンスの状況」、「提出会社の株式事務の概要」に関する訂正内容の多くは、平成19年3月期の有価証券報告書から新たに記載が求められるようになった事項に関するものであった。特に改正点に対応した記載事例が、財務会計基準機構や印刷会社の作成の手引きにも具体的で無かったため、提出会社が独自に開示府令や(記載上の注意)などの趣旨を斟酌しながら、記載の工夫を求められる項目について、記載が不十分であり、脱落していたものが多々見受けられた。これは、新たに記載すべき事項に関する具体的記載内容(どのような内容を記載すべきか)について十分に確認されなかったことが原因と推測される。
 今後の防止策としては、改正点に対応した研修の充実、改正点・留意点に対応した具体的な記載例を多数公表されることや(記載上の注意)に示されている項目のわかりやすい解説など、作成側としての事前の習熟が重要であると考えます。
(3) 「監査報告書」に関する訂正内容の多くは、「監査報告書の差し替え」又は「EDINETの提出分誤り」に関するものであった。
@ 監査報告書の差し替え
監査報告書の提出日訂正については、結果的に株 主総会日について情報入手ができていなかったも のと推定されるが、基本的な手続きが出来ていな かったケースであり、監査報告書提出に係る監査法人内の内部統制手続の改善が望まれる。
意見表明対象のキャッシュ・フロー計算書の文言が明記されていなかったケースについても標準文例を使用していればミスは回避できたのではないかと思われる。
A EDINETの提出時の操作ミス等
圧倒的にクライエントにて、送信する際に最終の確認を怠ったものと推察されるが、監査法人も必ず、EDINETの最終版とのチェックを実施していればミスは判明できたと考えられる。
監査法人名の記載漏れ又は相違や、指定社員の氏 名相違、肩書き漏れについても、クライエントとのコミュニケーション不足が原因の一因であると 考えられる。
 以上の発表の後、近畿財務局の出席者の方から調査状況及び今後の対応についての説明があった。
 次回は、京滋会の発表当番であり、平成20年4月4日(金)開催と決定された。

(文責:近畿会監査会計委員会 古野康和)