特  集

会社法における企業のガバナンスについて(下)

〜家近弁護士へのインタビュー〜

 
 前号の特集「会社法における企業のガバナンスについて(上)」の家近弁護士へのインタビュー記事の続きです。 前号の掲載内容は次のとおりです。@商法・会社法の改正とコーポレート・ガバナンス、Aコーポレート・ガバナンスと監査制度、B内部統制は誰のために整備すべきか、C内部統制監査における監査役の役割
 
会計監査人と監査役とのコミュニケーション
   
中務: 会計監査人は職務遂行に関する事項の通知を監査役にすることになっていますね。会計監査人の事務所の品質管理や会計監査人そのものの品質管理について報告を受けて、それが適正かどうかということを詳細に検討するものではないでしょうけれども、会計監査人の体制のうち何が良くて、何が足りないのかは分からないと思います。だから、どうしても形式的に書面をもらって、「まあ、こんなものか」で終わりそうに思うのですが。
   
家近: 私が経験する範囲で一番不満な部分は、まさにおっしゃるように、統一の文言で各会計監査人から報告書が来るわけです。そうすると、それは関与されている会計士の方々の個別の報告ではなくて、監査法人としての報告なのです。
   
中務: ひな型どおりのものが出てきますね。
   
家近: だから、その監査法人ではみんなこれだということでしょう(笑)。私はやはり会社法の趣旨から言うと、それも含まれているけれども、それだけではないだろうと思います。やはり現実に関与されている公認会計士の方の問題で、かつ、その中にはたくさんスタッフの方がおられて、むしろ実際の仕事はその方々がされているわけで、署名されている方は名前だけとまでは言いませんが、実際には時間数を拝見しても極端に少ないわけです。ですから、それをトータルで、要するにチームとして見た場合の会計監査人の内部統制に立ち入った報告を頂かないと、結局は判断できません。監査法人として出される部分を拝見したら、どれもこれも模範答案というか、きちんとした文章を書いておられますのでけちの付けどころがなくて、あれはやはり法律がうまく機能していないと思いますね。
   
中務: 出す側も形どおりの文書を出す、監査役サイドも紙をもらってオーケーとする、どちらも形式に終わっていないかという危惧ですね。一つ効果があるとしたら、出す側の会計監査人には文書を出すことによってやはり一定の牽制効果はあるとは思います。
   
家近: ですから、もちろん全く無意味ではないと思いますが、まだ非常に不十分です。     
 それから、法律でまずい規定だったと思うのは、品質管理体制等の報告書は会計監査人の監査報告と同時でいいというところです。実情としては、会計監査人の監査報告を頂いてから監査役会の監査報告を作成するまでに、ほとんど時間的に余裕がないわけです。私は、品質管理体制等の報告書は会計監査人の監査の方法と結果の相当性を監査意見として言う場合の根本的な支えになっていると思います。それを監査報告と同時にもらって、時間的に余裕のない段階で、それも踏まえて監査役会が監査意見を出すというのは、およそ不可能なことではないでしょうか。やはりもっと早い時点で頂くのがしかるべきやり方だと思います。監査契約のときにもらうとか、あるいは、わが監査法人はこういう体制で、こういう陣容の者が監査に当たりますとご説明いただいた上で監査計画の説明を受けて、それで監査を進めていくという中で初めて会計監査人に対する信頼、信用、あるいは適正が担保されるような感じがします。
   
中務: 会計監査人からの報告もしくは通知についてはもう少し時間的余裕が欲しい、つまり、質問なりできる余裕がないともらいっぱなしになるではないかということは、おっしゃるとおりですね。そうでないと形式に終わってしまう。
家近:そうですね。それから、特に監査報酬の同意権が法律上認められたでしょう。そうすると、やはり何かそういう資料がないと報酬の適正性の判断材料が全くないことになりますので、そこは何とか改善してほしいと思います。ただ、法律に監査報告書と同時にやればいいと書いてあるので、そこは逆に法律がおかしいと思いますね。
   
中務: 私がこの件について感じるのは、監査役さんが判断できる内容であれば意味があるのですが、およそ会計に携わっていない監査役さんは、これをもらったとしても判断できないと思うのです。できないことは法律に書かない方がいいのではないかと思っているのが一点と、もう一点は、それをやるためには、会計士が社外監査役にいれば、会計監査人の職務の内容が分かるので、品質管理の体制、報酬についても法律の期待するとおりの判断ができると思います。
   
家近: やはりわれわれはそういう面では素人ですから、おっしゃるように少々の説明ではよく理解できないし、判断できないですね。
   
会計監査人の地位と独立性
   
中務: 話は変わりますが、会計監査人の選任権の話がわれわれの中では話題になっていまして、もっと監査役会に力を持ってもらって、取締役から離れたところでできるだけ独立性を保つようにするのが望ましいのではないか、次の会社法の改正か何かに盛り込んでほしいという意見が会計士協会の中でも出ています。その件については何かご意見がございますか。
   
家近: 外部監査の在り方の問題だろうと思うので、会社から遠ければ遠いほどいいとは思いますね。そもそも報酬を会社が払うこと自体に基本的には問題があるし、ましてや会社にそのような選択権や選任権があるということは、本当に外部監査の在り方としていいのかどうかということは、よく考えないといけないと思います。そういう意味からいうと、少しでも遠ざけるように方策を次々考えていくことは、それなりに意味があるとは思います。
   
中務: 今のところ報酬については、株主から直接支払って頂くことは無理ですから、株主から会社経由で頂いているという発想です。やはり同意権ではなく、選任・提案権、報酬についての交渉も含めて監査役が持つようにすれば、かなり独立性を保った形でいくのではないかと思っています。ただ、監査役の中に会計士がいないと、なかなかその判断ができないと思うのですが。
   
家近: それと、会計監査人の任期についても、どう考えたらいいのか、難しい問題があると思います。ご承知のように、1年任期ですよね。そして、更新をしないということ、要するに不再任の決議については何の制限もありません。要は再任せずに、次の会計監査人に別の人を選ぶということは法的には無制限にできる仕組みになっていますが、それがいいのかどうか。例えば会計監査人が非常に厳しいのでもう少し緩やかな人にしようとか、自由競争が激しくなってきた場合に、例えば報酬が安い方を選ぼうということにもなりかねません。さりとて、長期に監査を固定するのがいいのかどうかという問題も、また別途あるのかもしれません。今の報酬の問題と、それから選任が、基本的には継続ということになっているのですが、去年あたりの混乱からして結構交代も起こり得るということになってくると、そこら辺の問題も将来的にはあるのではないかという気がします。
   
中務: 全くおっしゃるとおりで、1年ごとに代わるという事態が起きるとしたら、それは問題です。会計監査人の強制的な交代の制度も検討されたのですが、最終的には強制的には交代させない、監査法人の中で担当社員を代えるということになりました。それは、ある調査によると会計監査人が代わるとやはり会社の実情を知るまでに1〜2年かかって、その間に不正を見落としてしまうリスクがあり、また交代に伴ってのコストも当然かかるということで、デメリットの方が大きいと判断したのだと思います。長くやりすぎるのも確かに見過ごしてしまうという可能性が理屈上ありますし、逆にころころ代わるのも困るということで、これは確かに非常に難しい問題だと思います。
   
家近: 今回の会社法では、事業報告の記載事項として会計監査人の解任・不再任の理由を書けということになっていますが、どこの会社でも法律の条文を書いているだけで、何の具体性もありません。そこも法律の作り方の難しさがあって、言わんとすることは分かっているのですが、現実にそれができるかというとなかなか難しくて、建前と本音の違いというところの一つの現れでしょうね。
   
社外取締役及び社外監査役の役割
   
家近: それから、社外役員制度とコーポレート・ガバナンスがやはり一つの大きなテーマだと思います。これは私の勝手な意見かもしれませんが、コーポレート・ガバナンスの主役は誰かという命題がありまして、商法、会社法の流れをずっと見ていくと、法律はどうもコーポレート・ガバナンスの主役を社外役員に持っていきたがっているわけです。委員会型がその典型ですが、監査役型の場合も、平成5年の改正で社外監査役を入れなさいということになって、平成13年の改正で社外監査役が半数以上となり、それが平成18年から現実に施行されました。まずは社外監査役制度を充実してチェック機能を高めていくという考え方ですね。それをさらに推し進めたのが会社法で、社外監査役、社外取締役という概念を明確にしています。何よりも会社法では社外役員の開示をものすごく詳細にして、独立性を強調しています。結果的に、社外役員にガバナンス機能をものすごく期待しているわけです。
 世間もそうですね。例えば買収防衛策一つを考えても、社外役員が何人いるかによってペケにするか丸にするかというところまで来ています。つまり、結果的に今、社外役員にむしろ過大な期待がかかっていて、逆にいうととにかく何でも社外を入れておけばいいというように、免罪符みたいになっています。不祥事があって調査する場合には調査委員会を立ち上げますが、これに社外の人をどれだけ入れるか、あるいは社外取締役を選任していなくても、報酬や人事に関してだけ諮問委員会を作って、そこに諮ってオーソライズしたような一種のパフォーマンスを取るというように、もう全体がそういう風潮です。
 私がそこで恐れるのは、社外役員に期待してくれるのはありがたいけれども、そこまでガバナンスを社外役員に任せるのは、むしろ実態に反するのではないかということです。やはり、ガバナンスの主役は社内役員であるということを強調すべきです。ガバナンスは社内だけに任せては絶対にいけない、必ずチェックをするために社外役員が積極的に関与すべきです。言うなれば、料理の素材はやはり社内の役員が調達して作るべきで、しかし、社外役員の調味料が入らないと味付けができないということで、その使い分けをもう少しはっきり認識しなければいけないのではないかと思っています。
   
中務: 執行側のガバナンスあり方には、分かりにくいところがあると思います。それに対して誰かがパッと仕事を見にいってチェックするというモニターの方はイメージしやすいのですが。
   
家近: なかなか難しいのですが、ガバナンスとは、言葉を換えて言うと、会社の組織や経営の在り方をどうするかということです。そうすると、どういう組織を作って、どのような規則を設けて、誰がどのようにチェックして、誰がどのように成果を上げて評価するかというおぜん立ては、全部やはり会社が自らすべきです。それをモニタリングというように第三者的な立場でチェックするところだけが強調されるのは本末転倒というか、まずは誰が作り上げて、それを誰がチェックするのかということを意識しなければいけないのではないでしょうか。
   
中務: 例えば執行側が倫理規定や行動規範などを作り、それを浸透させるのがガバナンスだということですね。少しずつそういう風潮にはなってきていると思いますが、時々悪いことをする人も出てくるから(笑)。
   
家近: 車の運転に例えれば、スピード違反は見つからなければいいというのがガバナンスだという感覚だったら、やはりとんでもないことです。飲酒運転も見つからなければいいということではなくて、飲酒運転そのものが悪いのだという認識をまず持ってもらわないと、検問はたまにしかないわけですから(笑)。
   
中務: その意味では、会社としての大きな行動規範や理念があって、それを実際の社員の職務に当てはめるような細かい規定もあり、それをきちんと教育して浸透させていくということが重要なわけですね。
 最後に、会計監査人としての公認会計士に期待することはありますでしょうか。
 
会計監査人の監査と二重責任の原則
   
家近: 今、会社の経営は会計士の方を抜きにして語るわけにはいかないので、そういう面では完全に会社組織の重要な一つの柱として存在していることは事実であり、否定することはむしろナンセンスだと思います。ただ、先ほどのガバナンスの考えと同じで、会計士さんに任せておけば何でもオーケーということではやはりいけないので、自らやることがまず必要で、会計士さんにはそれをチェックしてもらうのだという認識を持つことが必要だと思います。もう一つは、会計士さんにどう頼んで認めてもらうかということを会社側は考えるのですが、それもやはり本末転倒という感じがします。
   
中務: 結局、日本は利益予想を出すでしょう。それに経営者が縛られてくることが一つネックだと思うのです。それに固執してしまうと、自然体で決算できないという面があるらしいのです。だから、「会計士も早く言ってくれたらいいじゃないか」と言われるのですが、会計士も万能ではないので、後になって気付くこともあるし、3月になって気付くこともあります。それならまだ間に合いますが、4月になって気が付いたらどうなるのか。決算書訂正という話もあり得るのですが、やはりそれはあり得るということにしていただかないと、変えられないとなりますと2月までに監査意見を出してくださいというのと同等の意味ですから、それはちょっと不可能だと思います。
   
家近: 確かにタイミングの問題もありますし、評価の仕方が変わってくるということもあり得るので、私もそのこと自体を問題だとは考えていません。要は会社との相互理解というか、監査に対しての認識の問題で、今の場合は会社側があまりにも会計士さんに頼りすぎていて、会計士さんさえクリアできたらそれでいいという認識があるように思います。そうすると、あなたは一体何のために会社を経営しているのかと。
   
中務: 自分の判断を持っていないわけですね。
   
家近: そうです。おんぶにだっこではありませんが、すべてそういう感覚なのです。ガバナンスの問題も、自分の会社のガバナンスを誰が本当にやらなければいけないのかという認識がなく、人に言われたからとか、この人がこう言っているからというように、人の顔色を見てやったらいいといった意識がやはり共通していると思います。
   
中務: それは日本人みんなそうで、外圧が来たらやらなければいけないとか、法律に書いてあるからやらなければいけないということで、渋々やるという行動パターンですね。
   
家近: やはりきちんと認識しないと、本当の意味のガバナンスなどは無理だと思います。
   
中務: 本日は示唆に富んだ貴重なお話を本当にありがとうございました。
   

(注)家近正直氏のご略歴は第577号をご覧ください。