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中国について |
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今月は、CAPA大阪大会の主要参加国であり、協会の会長にパネルディスカッションに参加して頂く予定でもある中国について、会計士業界に関連する制度的バックグラウンドや現在の主要関心事等についてご紹介したいと思います。 なお、内容につきましては、中国注冊会計師協会・上海市注冊会計師協会におけるヒアリング及び同協会のHP、その他、直近2年間程度に公開されている一般情報からまとめております。可能な限り公表年度を入れておりますが、数値等の一部については、最新のものでない可能性もありますので、ご了承下さい。 |
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●経済面での大まかなバックグラウンド | ||||
中国共産党は1978年に改革・開放路線を歩み始めました。その後、中国はめざましい経済成長を遂げ、世界経済にも大きな影響を与える存在になってきているのは周知のところです。中国のビジネスが拡大・国際化するに伴い、国内の法規制・経済環境も大きな変化をせまられました。 このような動きは、2001年のWTO加盟後、特に加速されています。加盟後5年間で、国内総生産(GDP)は10兆9,655億元から18兆85億元に、貿易総額は5,097億ドルから1兆4,211億ドルに、めざましい発展を遂げ、規制面でも“2,000件以上の貿易関連の法律・法規が整理”(孫WTO大使)されました。 |
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●会計師/監査の制度 | ||||
1.中国注冊会計師協会及び会計師について | ||||
中国の改革開放経済路線(1978年)及び市場改革と関連して、1980年代初め、社会主義資本市場に不可欠なものとして注冊会計師制度が作られました。中国注冊会計師協会は1988年に設立され、その後、国務院(国の行政機関)の指導により1995年に中国監査人協会と合併しています。 現在、約130,000人(2005年)の会員がおり、そのうち約半数が職業会計師、残りは会計業務に従事しない会員だそうです。 |
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2.会計師の資格・試験制度 | ||||
現在の会計師の試験は、注冊会計師協会により運営され、年に一度、秋頃に実施されます。 試験は全国統一で、5つの科目(会計、監査、財務原価管理、経済法、税法)を5年以内にパスするという科目合格制。その後2年以上の実務経験を経て正式な会計師となります。合格率は科目合格者も入れて11%程度と非常に難関な試験という位置付けだそうです。 一方で、1991年以前は、各地方の財務部門が主導で、選考・認定制度により会計師資格を取得できました。現在でも、認定制度により資格を取得した方が、中央の財政部(金融庁のようなところ)からの推薦により、地域の会計師協会の会長や秘書長(実務上のトップ)といった重要な役職を占めているようです。 |
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3.会計事務所の現状 | ||||
改革開放後、80年代より会計事務所が設立されはじめましたが、かつての計画経済・国有企業のための会計・税務制度を背景に、その多くは政府部門の出資によるものであったということです。企業や政府とヒト・カネの繋がりが強く、不透明で独立性が欠如した状態であったと言えます。 その後、中国ビジネスの国際化に伴って、Big4の中国進出の本格化、業界水準の国際化が求められ、98年には財政部の監督・指導で全国規模の整理が実施されました。 WTO加盟後は中国での投資の自由化が進み、優れたサービスを提供する会計事務所へのニーズが一段と高まっています。海外で上場する中国企業や合弁企業だけでなく、中国の上場企業も外国系監査事務所を選ぶ傾向があるということです。このような背景のもと、Big4による国内会計事務所の吸収、また、国内会計事務所同士の合併等、再編が活発に行われています。 参考までに、Big4が年間18〜9億元の業務収入をあげているのに対し、国内会計事務所はトップでも2億元弱(2006年)といったように、業務収入に大きな開きがあります。また、中国のBig4進出は合弁形態をとっており、日本のように国内監査法人がBig4と提携関係を結ぶ形態と異なるため、上層部の大半を中国人以外が占めています。この点からも、会計師の人材育成、事務所の現地化が中国における重要な課題となっています。 |
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4.クライアント | ||||
外国投資企業の場合、すべての現地法人が法定監査の対象となります。また、増資の際の験資証明、現物出資する際の資産評価等、非常に身近なところで会計師の業務が必要となります。 中国企業では、上場企業が1,600社(2006年)であり、100社以上が香港、シンガポール、ニューヨーク、ロンドンの証券取引所で上場しています。 一方で、未熟な市場・法規制の整備の中、上場企業に求められるガバナンスが確立する前に上場したために、組織ぐるみの粉飾決算、関連当事者取引、インサイダー取引等の不正事件も相次ぎました。2005年の「中国航空油料集団事件」1 は有名です。 |
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●会計制度 | ||||
中国の会計基準は1993年から施行された基本準則と16の具体準則で構成されていました。その後、2001年に国際会計基準を取り入れた企業会計制度(会計基準の実務指針)や企業財務会計報告条例が施行され、従来の準則の機能が大幅に失われました。そして2006年2月15日に、中国財政部は一連の「企業会計準則」(新会計準則)を公布しました。新会計準則は、全面的に改定された基本準則と16の具体準則、ならびに新たな22の具体準則を含んでいます。この新会計準則は、2007年1月1日から施行されています。 また、国際財務報告基準との調和を鑑み、2005年11月に中国財政部(中国会計準則委員会)と国際会計基準審議会は、中国の会計基準を国際会計基準と統合する共同声明を発表しています。 これらの会計制度改革は、国際的な会計基準との調和・収斂を重視する一方で、中国特有の環境に配慮した違いも重んじているところが特徴的です。 基準の改定作業は、国際会計基準(国際財務報告基準)を参照しながら行われたため、比較的スムーズに行われたと言えますが、運用面では、人材の不足、理解不足、未成熟な倫理観、行政部門の対応のばらつきなどの問題が生じているようです。 |
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●税制 | ||||
中国の企業所得税率は33%ですが、外資系企業には各種優遇税制が適用されているため、実効税率は16%程度と、中国企業と外資系企業での格差が大きくありました。WTO加盟後の税制改正の一環として、中国企業と外資系企業の税法を統一し、地域優遇から産業優遇主体の税制に移行していくといったように、外資優遇税制の見直しが進行しています。外資系企業は、従来の低税率の恩恵が失われることになります。 このような背景の中で、中国国家税務総局は移転価格税制の更なる強化を図っています。2004年には事前確認制度に関する手続きが明確化され、また、移転価格同時文書化義務 2(移転価格ドキュメンテーション・ルール)も導入される見通しです。 |
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この他、急速に拡大・国際化していく経済環境の中で、CSR、M&Aや知的財産保護等の様々な課題と取り組みがありますが、書面の関係上、割愛させて頂きます。 なお、近畿会の国際委員会・中国部会では、上海市注冊会計師協会との交流の一環として、来る5月15日にIPOやJ-SOXのテーマで共同セミナーを開催する予定です。中国にご興味のある会員の方には是非中国部会に参加して頂ければと考えておりますので、近畿会までご連絡下さい。 |
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(文責: 正司 素子) |
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