特別寄稿 ―最終回―

公認会計士のための知的財産の基礎知識

弁理士 小倉 啓七

 私は、TLO(Technology Licensing Organization;技術移転機関)の技術評価を業務の1つにしております。月に2〜3件は技術評価いたします。評価する技術は、大学の先生が発案した技術であり、大学の帰属判定(大学出願とするか先生の個人出願とするかの判定)、若しくは、TLOが大学から譲渡をうけてTLOで出願するか否かの判断に用います。
1.技術評価(出願前評価)
 技術評価は、特許性評価と市場性評価の2つの項目で行います。特許性評価は、その技術分野の先行する技術をサーチします。特許電子図書館(IPDL; Industrial Property Digital Library)と呼ばれる先行文献検索ツールを用いて、先行する特許文献(出願公開となっているもの、特許になっているもの、登録実用新案のもの、外国出願で公表されているもの)を探します。この検索ツールで、分類コードやキーワード検索を巧みに使って、何100万件以上もある中から、関連する先行文献を見つけます。この検索ツールの使い方の良し悪しが、特許性評価の精度を左右いたします。さらに、検索で候補にあがった文献の中身(要約部分や図面、請求の範囲、明細書全体)を見て、評価する技術と関連するかを判断していきます。
 次に、市場性評価ですが、これは当該技術が製品として世の中にでていく可能性があるか、共同研究先の候補企業がいるか、製品となったとしてその市場規模などを推定していきます。ここでの技術評価は、その技術を特許出願するかしないか、誰が出願人となるのかを判断するために行います。
 仮に企業内において技術評価をするとした場合、評価基準は社内製品に使用されているか否かが重要な判断要素になってまいります。
 
2.技術評価(出願審査請求時)
 第1回目に触れましたが、特許の場合、出願しただけでは権利になりません。出願から3年以内に出願審査請求手続きを行う必要があります(期限内に審査請求をしなければ、出願取下げとなります)。現在は、出願審査請求費用が20万円程度かかるので、この審査請求をするか否かの判断のために、技術評価を行います。この技術評価は、主として上記の市場性評価となります。
 
3.知財価値評価
 ここからが本題です。近年、知財の活用に関連して知財価値評価が注目されています。第2回でも触れましたが、商標権などを担保とする知財権担保融資や、信託などの評価です。評価目的毎に評価手法が異なるのですが、まだまだ評価手法は確立しておらず、各評価者のスキル、ノウハウに依存いたします。一例として、弁理士が行っている知財価値評価(価額評価)について以下説明いたします。
 知財価値評価(価額評価)を行うには、3つのステップで評価いたします。
1)先ず「法的評価」で、評価対象の権利の原簿(特許庁が管理)を調査いたします。権利の残存期間や権利の所有者の確認、権利になるまでにした答弁(出願から権利になるまでになされた出願人と特許庁のやりとりであり、具体的には拒絶理由通知書や手続補正書、意見書といった書類)をチェックいたします。特許権や意匠権や商標権は、特許庁で審査を経て登録されますが、実用新案権(物に係る小発明)は無審査で登録されます。実用新案権の場合は権利の有効性を判断できる技術評価書(6段階の評価)が特許庁から発行されているかも重要なチェック項目となります。
2)次に「技術的評価」ですが、これは評価対象によって異なってきます。特許権や実用新案権の場合は、その請求の範囲(クレーム)を精査して、その権利のポイント、権利の広さ加減、コア技術か周辺技術か等をチェックいたします。先行調査を行い権利の有効性の判断(鑑定)も行います。意匠権についてはデザインの流行性、商標権についてはそのネーミングの良し悪しや知名度をチェックいたします。チェックした結果は、点数化していきます。
3)そして、「経済的評価」を最後に行い、知財の価額を決定いたします。ご存知の通り、経済的評価のアプローチとして、代表的にコスト、マーケット、インカムの3つがあります。第1回目に特許権取得にどれだけの費用がかかるのか、第2回に商標権取得にどれぐらいの費用がかかるのかを述べました。コストアプローチであれば、単純に権利の数と調整のための係数をかけることで簡単に算出できます。しかし、実際の評価の現状では、インカムアプローチを採用するケースが多いです。やはり、事業を保護するのが知財権の本質ですので、その事業の市場からの将来収益予測で評価を行うのが適しているのでしょうか。ともかく、現在依頼されてくる評価業務に関しては、全てインカムアプローチで評価しています。大企業なら1つ1つの知財評価(ミクロ的評価)は困難を極めるのですが、ベンチャー、中小企業の知財は、多くても100〜200個程度ですので、ミクロ的評価が可能です。商品やサービスの収益を保護する機能を持つ知財権、この知財権の的確な経済的評価を行うには、財務諸表や損益計算書から当該商品やサービスの収益を評価する作業が必要になります。
 今後、知財担保融資、信託、証券化、管財処理など知財価値評価が行われる場面が増えてまいります。スムーズな連携作業が行えるように、士業間のネットワークを築いていく必要がありそうです。
 
 
4.最後に
 現在、クリエーションコア東大阪の南館2F(2213NAIST東大阪)で適宜相談を受けております。また、適宜、セミナー(年に10回程度)を各地(大阪、神戸)で行っております。今後国内知財や海外知財関連(企業時代に上海に3年駐在した経験を生かし、精力的にアジアの知財に取り組んでおります。)で御質問ありましたら、メール(ogura@omkip.com)等で御連絡いただければ幸いです。3回にわたり、「公認会計士のための知的財産の基礎知識」の執筆してまいりました。最後に、広報事務局の方、助言を頂きました安井先生に謝辞を申し上げます。

以上