特別寄稿 ―第1回―

 

公認会計士のための知的財産の基礎知識

弁理士 小倉啓七

 
 今回から3回連続で表題に関して説明させて頂く弁理士の小倉と申します。企業における知的財産価値評価から知的財産による資金調達(証券化、担保融資)まで、知的財産の知識は大切となってきています。知的財産の中でも独占排他権である産業財産権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権)に関して、特に重要な特許権について説明致します。
1. 特許はお金がかかる!
 「特許はお金がかかる」よく耳に致しますが1件の特許権を取得するのにどれくらいお金がかかるのでしょうか。
 ケースによって異なるのですが、1件特許を権利満了まで持ち続けたとして平均で約150万円です。その内訳はと言うと、出願時に(申請書類作成を弁理士に依頼したとして)約30万円、審査請求時に約20万円、中間のやり取りに約20万円、特許料(登録料)に約80万円です。
 この見積ケースは、1件の特許に請求項(クレーム)が10個あると想定しています(発明の多面的保護、上位概念から下位概念の保護の観点から、請求項は多く作成する傾向にあります)。請求項とは、独占排他権として要求する技術内容を箇条書きで記したものをいい、1つの出願に何個でも記載できます。
 
2. 特許は出願してもそのままでは権利化されない!
 特許は出願してもそのままでは権利化されません。必ず審査請求を行う必要があります。審査請求を行う時期は、出願と同時でも出願後でもかまいませんが、出願日から3年以内に行う必要があります。18年度の審査順番待ち時間は28ヶ月ですので、仮に3年ぎりぎりに審査請求したとすると特許になるのは出願から6年後ぐらいです。特許の権利期間は出願日から20年となっていますので、この場合、特許になったとしても14年しか権利期間がないことになります。
 また、審査の結果、特許できないとして拒絶理由通知が送られてくることがあります。というより殆ど送られてきます。この場合に補正書や意見書を提出して反論し特許化への努力を致します。
 なお、早期に特許化する方法もあります。出願と同時に審査請求を行い、かつ、早期審査請求を行えば、1年ぐらいで特許化可能です。この場合はほぼ20年間、特許権が存続することになります。
 
3. 10年以後の登録料は割高!
 登録料に関して、10年未満は割安なのですが10年以上になると高額になります。請求項が10個の場合で、1〜3年が5千円/年、4〜6年が14千円/年、7〜9年が43千円/年、10年以上が145千円/年となります。10年以上になると毎年15万円近く登録料を払わなければならないのです。
 上述の1件の特許のコストが平均で約150万円(内訳、出願時:30万、審査請求時:20万、中間:20万、登録料:80万)は、請求項が10個で、特許化まで出願から6年かかり、特許として期間満了まで14年の想定です。中小企業で300件程度の特許を保有しているとして4.5億円のコスト、大企業で1万件程度の特許を保有しているとして150億円のコストとなり、やはり特許にはお金がかかるといって過言ではないわけです。
 
4. 便利なPCT出願(国際出願)
 特許権は各国毎に独立に存在します。従って、グローバル企業は、日本国内のみならず、外国にも特許権を取得する必要があります。複数の外国に権利取得する場合、PCT(Patent Cooperation Treaty)出願を利用すると便利です。1つのPCT出願で世界約130ヶ国に出願することができます。また日本語で行うと特許庁審査官が請求項毎に特許性の見解書を作成してもらえるメリットもあります。一定期間内に権利化を希望する国に手続きを継続させるわけです。
 PCT出願するのに約60万程度かかりますが、それに見合うメリットが得られます。問題は、その後に発生する費用です。一定期間内に権利化を希望する国に手続きを継続させるために、翻訳しなければなりませんし、その国の代理人費用、その国が特許取得に要求する費用を負担しなければなりません。これが1ヶ国100〜200万円となりますので、米国、ドイツ、中国、韓国、・・・と、5〜6ヶ国の外国に権利確保しようとすると、勢い1件あたり1000万円程度の費用となってしまうのです。
 
5. 特許はゲームか?
 こんなにも費用がかかるにも関わらず、日本では毎年約
40万件の特許出願があります。真に技術の独占を求める出願のみならず、競争相手を牽制できる、宣伝効果がある等の理由で出願するものもあります。一方、企業はビジネスをする上で他社の特許権に抵触しないように調査を行います。もし抵触の可能性があれば、それを回避しようとするか、それを潰しにいくでしょう。出願中なら権利化阻止に繋がる情報提供でいいのですが、特許権になっていれば権利無効化の法的手続きが必要となります。これには大変な時間と費用がかかります。4〜5件関連する出願が存在すれば権利無効化の手段を諦めるという場合が多いです。このことからも、数件の特許出願を行い、特許網を構築(パテントフォーリオ化)しておくことは重要なのです。企業が数多く特許を保有していることは、その技術を堅強に保護し、企業価値を高めることに繋がると言えるのでしょう。

以上