本の紹介
 
「検証「国策逮捕」 経済検察はなぜ、いかに堀江・村上を葬ったのか」 
(東京新聞特別取材班 株式会社光文社発行 1,700円)
 
 ライブドア事件、村上ファンド事件を追いかけてきた新聞社の取材チームが、これまでの情報を整理する形で事件の経緯、捜査当局の対応を検証したのが本書の内容です。

 ライブドアによるプロ野球参入騒動及びニッポン放送株取得合戦、衆院選挙、堀江、村上両被告の逮捕等々、すっかり過去の出来事のように感じていましたが、本書を読んでこれらの一連の動きが2004年以降、つまりこの2年間に起こったことに気づいて少し驚きました。

 検察当局がこれらの事件を捜査する過程において、結果的に特定の企業が破綻するきっかけを作る、あるいは特定の企業グループの経営統合を促進することになりました。政府による規制緩和と事後チェック型への監督スタイルの変更等、様々な背景があってのこととは言え、両容疑者を狙い撃ちで捜査し逮捕したという印象を強く持たせることになりました。また本書によれば、今後の裁判において両被告の有罪の立証が検察側にとって必ずしも容易ではない面があるとのことであり、今後の展開を見るうえで興味深いものがあります。

 捜査当局が発表する情報を報道機関が有難く頂戴してそのまま流すことについて私は日頃から疑問を抱いています。特にこれらの事件においては「時代の寵児」あるいは「物言う株主」として二人を持て囃しておきながら、彼らが逮捕されると一転して検察当局がリークする情報を無批判に報道するマスコミ各社の節操のない姿勢には疑問を感じざるを得ません。本書に見られるとおり、これらの事件の検証を試みる会社があるという点に報道機関の良心が垣間見られると考えるべきかも知れませんが。
 粉飾があったとされる取引の内容等、我々の業務に参考になる部分がありましたが、それ以上に、従来にない検察当局の捜査方針、今後の裁判の行方、マスコミの報道姿勢等について考えさせられる一冊でした。

(会報部 松本 要)