報告

「非財務情報(知的資産経営)の評価チェックリスト」

中小会社活性化委員会 委員長 高 田  篤

1. 背景
 中小企業への円滑な資金供給における最大の課題は、従来型の担保のみによらず、事業の将来性や経営者の資質に着目した融資の拡大です。そのためには、財務諸表の数字に表れない企業の成長性などの非財務情報(知的資産情報)を評価する目利き力の向上が不可欠となってきています。
 そうした中、昨年10月、非財務情報(知的資産情報)を企業評価に活用する参考指針として、経済産業省から「知的資産経営の開示ガイドライン」が発表されました。同ガイドラインの活用により、中小企業の経営情報の定量化が可能となり、新たな資金調達スキームの構築につながることが期待されています。
2. 融資局面における金融機関と中小企業のズレ
 そこで、中小会社活性化委員会では、大阪商工会議所と共同して、「中小企業の資金調達研究会」を発足させ、現在までに金融機関向け及び中小企業向けにセミナーを実施し、それぞれに対して資金調達に関するアンケートを行いました。【資料1参照】
【資料1】融資判断において重視する項目
(件数) (1)金融機関が重視する融資項目 (2)中小企業が重視する融資項目
金融機関の回答 中小企業の回答 金融機関の回答 中小企業の回答
(1)担保提供力 22.8%(13) B45.3%(67) 3.5%(2) 5.4%(8)
(2)会社所有資産の含み益の状況 14.0%(8) C25.0%(37) 5.3%(3) 4.1%(6)
(3)信用保証協会の保証 24.6%(14) A46.0%(68) 0.0%(0) 6.8%(10)
(4)個人保証 3.5%(2) 21.0%(31) 7.0%(4) 4.7%(7)
(5)決算上の利益(経常利益) B47.4%(27) @68.2%(101) 8.8%(5) C23.7%(35)
(6)決算上の利益(当期純利益) D26.3%(15) 35.1%(52) 8.8%(5) 11.5%(17)
(7)純資産額の状況 D26.3%(15) 14.9%(22) 7.0%(4) 6.1%(9)
(8)既存借入額の多寡 22.8%(13) 21.6%(32) 12.3%(7) 4.1%(6)
(9)キャッシュフローの状況 @80.7%(46) D22.3%(33) C33.3%(19) 12.2%(18)
(10)経営者の資質 A52.6%(30) 16.2%(24) 29.8%(17) A37.2%(55)
(11)経営者のリーダーシップ 5.3%(3) 0.7%(1) A54.4%(31) 14.2%(21)
(12)製品開発力 -(-) 2.0%(3) D24.6%(14) 11.5%(17)
(13)特定市場への特化、専門 5.3%(3) 2.7%(4) 7.0%(4) B25.0%(37)
(14)顧客満足化力 -(-) -(-) @57.9%(33) D22.3%(33)
(15)将来の成長可能性 C31.6%(18) 8.8%(13)  10.5%(6) @45.3%(67)
(16)価格競争力 1.8%(1) 0.7%(1) A54.4%(31) 4.1%(6)
(17)技術力、特許権等の保有 7.0%(4)  0.7%(1) 1.8%(1) 9.5%(14)
(18)社内チームワークと組織力 -(-) -(-) 1.8%(1) 4.1%(6)
(19)リスク管理力 1.8%(1) -(-) 5.3%(3) 3.4%(5)
(20)内部管理体制の充実度 1.8%(1) 1.4%(2) 3.5%(2) 4.1%(6)
(21)環境への配慮、対応状況 -(-) -(-) 5.3%(3) 7.4%(11)
(22)その他  -(-) 0.7%(1) -(-) 2.7%(4)
(23)無回答 -(-) 3.4%(5) -(-) 8.1%(12)
 アンケート結果からは、金融機関が融資局面において重視する項目と中小企業が重視してほしい項目は、必ずしも一致しておらず、また、逆に金融機関側が重視している項目を中小企業側が必ずしも理解できていない状況が読み取れます。
3. 非財務情報の重要性
 企業情報のうち、財務情報が示し出す情報は非常に重要であり、企業価値を図り知る上で欠くことのできない情報であることは言うまでもありません。但し、例えば上場企業の時価純資産額と株価との相関関係を見ても明らかなように財務情報のみでは、それを明確に説明することはできません。つまり、企業評価の局面においては、非財務情報(知的資産情報)の収集及び分析・評価が重要であり、短期的若しくは中長期的には財務情報に反映されることになるため、財務情報を補足する意味では不可欠なものと言えるでしょう。
 現在、地域金融機関においては、「リレーションシップバンキング」(以下、「リレバン」と略す。)の強化が図られております。リレバンとは、金融機関が顧客との間で緊密な関係を長く維持しながら、顧客情報を蓄積し、その情報を基に融資などの金融サービスを提供しようとするものです。
 つまり、金融機関は、中小企業の財務情報のみではなく、その裏にある非財務情報(知的資産情報)、例えば、中小企業の持つ技術力や営業力、社長の資質、先見性、リーダーシップ、さらには従業員の質やガバナンス状況などについての情報を蓄積し、それを的確に評価して取引を継続させていくことが求められております。
 一方、中小企業側においては、上記のような様々な強みを持ちながらも、うまく金融機関に説明できない状況があります。
 冒頭に記載しましたように、経済産業省から「知的資産経営の開示ガイドライン」が発表されました。このガイドラインに基づいた「知的資産経営報告書」の作成・開示を中小企業がより積極的に行うことが望まれるところです。しかしながら、同報告書作成には、多大な労力を要するものと考えられ、中小企業への幅広い普及には、難しい点があります。
 そこで、口下手な中小企業とリレバンに取り組む地域金融機関とのコミュニケーションツールとして、日本公認会計士協会近畿会(中小会社活性化委員会)と大阪商工会議所は、共同で「非財務情報(知的資産経営)の評価チェックリスト」を作成いたしました。【資料2(抜粋)参照】
4. 「非財務情報(知的資産経営)の評価チェックリスト」について
「非財務情報(知的資産経営)の評価チェックリスト」は、経済産業省のガイドラインに示された7分野37の評価項目を参考に、
  ・「経営スタンス/リーダーシップ」、
  ・「選択と集中」(事業の優位性、差別化)、
  ・「対外交渉力/リレーションシップ」、
  ・「知識の創造/イノベーション/スピード」、
  ・「チームワーク/組織知/リスク管理/ガバナンス」
 の5分野46項目を設定。各項目は、2〜3問の選択肢から回答する形式で、回答結果は、【総合評価】及び【CF評価】として点数化され、レーダーチャートも表示されます。
 したがって、項目ごとに表示された点数や内容、レーダーチャートによりまして、評価対象となる中小企業の強みと弱みが一目でわかるようになっています。
5. クライアントとのコミュニケーション・ツールとして
 中小会社活性化委員会としましては、地域金融機関がこのチェックリストを利用し、中小企業とのコミュニケーションをより深く図って頂くことを希望するとともに、中小企業自身が、自社の強み・弱みを再確認する入り口の手段としても利用頂きたいと願っております。そして、更には会員の皆様が、クライアント(顧問先)の強み・弱みを把握・評価するツールとしても利用頂けます。実際、本チェックリストの完成前にモニターとして利用頂いた中小企業様からは、自社の強い点、弱点がよくわかり、頭の整理ができて良かったという感想を頂いております。クライアントが抱える課題提示にもお役立て頂けるものと思います。
【資料2】非財務情報(知的資産経営)の評価チェックリスト(抜粋)
上記チェックリストは、近畿会のホームページ(下記URL:)よりダウンロードできます。
https://www.jicpa-knk.ne.jp/download/download07.html