特集

公認会計士からみたアカウンティングスクール
専任教員として

古田 清和

 
1. 経緯
  2006年の4月から、縁あって甲南大学会計大学院(正式名称は甲南大学専門職大学院ビジネス研究科会計専攻)の教壇に実務家教員の専任教員として立っています。私の場合、アカウンティングスクールの教壇に立たれている多くの公認会計士の方と異なるのは、現在は監査業務を行なわず、3月で監査法人を退職して転職してきている点だと思います。専任教員ですから、教育という本来の仕事に加えて、学内の業務も分担して行なっており、50歳で転職して新しい環境に身を置いて新鮮な毎日です。
 私の場合は、5年ほど前から、企業研修で使用したレジメなどをアレンジして法人として出版したり、年一冊を目標にコツコツと単行本を出したりと、法人退職までに単著4冊共著3冊の実績があり、また管理会計学会で報告する機会を得ることができるなど、法人の協力もあり、十分とはいえないまでも、研究業績を積み上げることができていました。もともと講義したり、研修の講師をやったりすることが嫌いではなかった(その分準備するのは大変でしたが、今では当時のノウハウがかなり役立っています。)ので、この機会に思い切って転職してみようという気持ちになったといえます。今後、実務家の教員はますます必要性が高まっていくものと思われます。ただ研究実績を積み上げるのは、会計士として忙しい業務に従事する中では困難が伴うものと思います。特に若手の公認会計士で興味をもたれている方は、近畿CPAニュースヘの寄稿・投稿や研究大会での報告などで対応して行って欲しいと思います。
 
2. 大学院での生活
 甲南大学の会計大学院は、阪急電鉄岡本駅またはJR摂津本山駅から徒歩約8分の神戸市東灘区の山手にあります。昼間コースのみの開講であり定員は1学年30名の少人数で、学生一人一人の顔を見て教えることができます。また会計大学院棟が準備され教員の研究室・講義演習教室・院生の自習室・図書館・事務室が一棟の中に納まり、学習環境についてとても恵まれていると思います。また個人の研究室も構えることができて落ち着いた環境で教育・研究に従事することができています。監査法人時代と大きく変わったのは、生活が夜型から朝型へ変化したことだと思います。監査を終え、法人に戻り仕事をしてスタッフからの夜のメールに対応の返事を出して眠るという長年の習慣が、早朝に起き授業の開始2時間前には研究室にいて、早朝から勉強している学生の質問に答えている状況になっています。思い起こしてみれば、公認会計士の受験時代、早朝から簿記の計算をやっていたのを覚えていますし、院生にも朝の計算を推奨していることもあって自ら実践しているともいえます。大学院棟は朝の6時から夜の11時まで利用することができ、院生の諸君も熱心で、この学習環境を活用しています。
 
3. 授業内容
 私の担当している講座は「会計学実践講義1〜4」「管理会計演習」「財務分析」ですので、いままでの監査法人時代に経験してきた実務的な内容を中心に進めています。監査小六法を潰していく教科書的な知識も必要ですが、より実務的な内容のほうが院生の関心を引くようです。そのため資料の入手や準備にインターネット・ツールは大変有用なものになっています。会計プロフェッションを要請する使命がある会計大学院ですが、公認会計士の資格取得を目標としている院生も多いことから、インプット・トレーニングだけではなく、ミニテスト等でアウトプット・トレーニングを行い、さらにディスカッション能力を高めていく必要があることを感じています。在籍する院生の出身は多様で、4月時点の実力差もかなり開いていました。公認会計士試験に対応しながら、個々人のレベルを向上させるには、個別的に対応していく必要がどうしても出てきます。幸い少人数のため質問や相談に院生が研究室に来ても、対応は一人一人の性格や能力をみて異なったものになるように心がけています。時にはマスコミの記事の解説や、院生個人の人生相談に発展することもあります。
 
4. 今後
 実務家教員ですので、今後も公認会計士の資格を維持していきたいと思っていますが、その前に立ちふさがっているのがCPEの壁です。年間40単位は、監査法人を離れてしまうと厳しいものがあります。とくに院の講座は曜日時間で固定されていますので、研修の開催日時がバッティングしてしまう場合が前期にはかなりありました。学会のシーズンである夏休みですが、この期間を利用してまめに研修会に参加している状態です。
 前期講座が終了し9月からの後期の講座が開始されている段階ですが、5月6月の短答式試験、8月の論文試験と平成18年度から新会計士試験制度に移行し、問題を見ていると確かに従来の傾向と変化してきているのは感じ取れます。しかし、会計大学院の免除科目や設置趣旨を考えた場合に、法科大学院とは異なりますし、知名度の点においても劣っているといわざるを得ません。また受験予備校と、そもそも設置の趣旨が異なるわけですから会計大学院としての独自色を出していく必要があると思います。
 とはいっても、今後会計大学院の卒業生が会計業界特に公認会計士の世界で活躍していってくれることにより会計大学院が広く認知されていくように努力していく所存です。