特集

 

モンゴル公認会計士協会を訪問して

近畿会副会長    蔵口 康裕

  中務 裕之

 
訪問のきっかけと目的
    2006年7月16日から17日にかけて近畿会の佐伯剛会長、蔵口康裕副会長、中務裕之副会長の3名が、ウランバートルにあるモンゴル公認会計士協会(MonICPA)を訪問しました。昨年から3年計画で国際協力機構(JICA)による「モンゴル国会計・監査機能向上プロジェクト」が始まりました。その一環で、2005年10月にMonICPAドンドク会長を団長として10名の方々が近畿会で研修を受けられた際に、ドンドク会長からモンゴルへの招待の申し出を受けたことに応えて、日本の監査、会計事情を伝えること、並びに来年10月に大阪で行われるCAPA大阪大会のPRを行うことを目的として、佐伯会長は団長として協会本部常務理事の立場で、蔵口と中務は近畿会の立場で訪問をしたものです。
 我々の訪問と合わせて、JICAによる品質管理レビュー専門家の派遣プログラムとして、2006年6月まで協会本部の主席レビューアーだった高野千代治さんと事務局調査三課の太田養一さんの2名が、7月17日から21日にかけて、品質管理レビュー基準の指導、現地監査事務所の視察、及び今年の9月に日本で実施する2006年度研修の打合わせを行いました。
 滞在中、会議や食事、移動などの際に行った情報交換の主な内容は以下のとおりです。
 
モンゴルという国について
  モンゴルの国土は日本の約4倍で、人口は280万人、そのうち首都のウランバートルは100万人です。長い間ソ連の協力のもと社会主義による計画経済が続いていましたが、ソ連崩壊による市場経済への移行により1993年から自由社会との関係が始まりました。平均的な給料は月1万円から2万円程度と聞きましたが、失業率はかなり高く、仕事を見つけるのが大変とのことでした。いい仕事を見つけるには親や友人のコネが必要だという声も聞きました。気候は典型的な大陸性気候で、夏は35℃くらいまで上がりますが、最低気温は10℃くらいで朝はセーター、昼はTシャツという感じです。冬にはマイナス35℃くらいまで下がります。
 日本人に対しては、朝青龍、白鵬などモンゴル出身の力士が活躍しているなどのこともあり、比較的良い感情を持っているようです。(なんと大相撲は同時中継されており、モンゴル人力士は34人もいます。日本人一般よりはるかに大相撲のことを知っている感じがしました。)今年はチンギス・ハンがモンゴルを建国して800周年の記念すべき年で、毎年7月11日〜13日に行われるナーダムという祭りも盛大に行われましたが、モンゴル相撲では今年は朝青龍のお兄さんが優勝したそうです。
 
モンゴルの会計士事情
   1993年に会計法が制定されましたが、それまではロシアの会計制度を取り入れていました。1996年にMonICPAが設立され、今年で10年になります。また1997年には監査法が制定されました。その後2000年にCAPAに加盟し、2003年にはIFACに準加盟しています。
 公認会計士の数はモンゴル全体で1,500名、うちウランバートルには800名の会員がいます。監査事務所は50社くらいあるそうです。また、会員のうち女性の比率は60%とかなり高くなっています。
MonICPAのドンドク会長は設立当初から公認会計士制度の普及に尽力しておられ、先ごろ経済関係の最高位の勲章を授与されたそうです。MonICPAには全国で22の支部があり、ウランバートル支部が同じ建物に同居しています。全国大会は、任期に合わせて4年に一度開催されます。モンゴルの監査事務所は有限責任会社として組成されており、最大級の事務所で職員34名(パートナー4名、職員30名)、外資系監査事務所としては、Ernst & Youngの東マレーシア事務所の出張所があります。監査業務の仕事が少ないこともあり、公認会計士はウランバートルでは約半数が、地方ではほとんどが州政府の役人をしています。州政府ではゼネラルマネジャーになるには公認会計士の資格が必要であるということが法律に記載されているそうです。
 一方、会計基準は国際会計基準を導入しており、MonICPAでは普及に努力中です。また大手企業の監査では入札により監査事務所を決定する必要があり、監査事務所は3年ごとに強制的に交代することになっているそうです。会計監査が開始されて間もないため監査事務所は小規模で、監査事務所より大手企業の会計担当役員の方が給与が高いため、優秀な公認会計士がたびたび大手企業に引き抜かれるということが問題点として上がっているようです。会計士協会の年会費はわずか10ドル程度ですが、それでも役人である会員は払わない人が多いようです。協会は研修事業によって財政を支えているようでした。
 ドンドク会長が現在課題として挙げているのは、人材育成、会計監査等についての研修の会員への普及、国際的な監査基準の導入、環境会計への対応等だそうです。モンゴルでは古代遺跡が多いので、古代の会計制度についても調査しているとのことでした。
 近畿会の佐伯会長からは、CAPA大阪大会のテーマが「アジア経済発展に向けた公認会計士の役割」で、このテーマに沿って準備を行っていること、更に最近の会計監査に関わる不祥事に関連する金融庁やJICPAの動向、内部統制の問題等についての説明など率直な意見交換を行いました。
 

雑 感

いくつか個人的な感想を書きますと、
経済的には中国人と韓国人が積極的に進出しています。羊毛や革の原料を仕入れるのですが、安く買いたたいていると快く思っていない人もいるようでした。
ロシア語を話す人は多いそうですが、英語を話す人は少ないとのことでした。ロシアはインフラを整備し残してくれたからロシアには感謝しているようでした。
 山に木がほとんど生えておらず、一面が草原でした。政府が土地を売却しようとしても土地はいくらでもあるので買う人がいないとか。
ナーダム祭りで競馬がありますが、場内を周回するのではなく、草原を25km 突っ走るそうです。それも田舎ではなくウランバートルから数km離れたところが草原になっています。関西で言えば尼崎から三宮までずっと草原で、そこを走るということになります。
 接したモンゴルの会計士さんは大変人なつっこく親切な方々ばかりでした。
 1時間も車で走れば遊牧民のゲル(テント)があるのですが、そこではゆったりと時間が流れているようでした。
 一方、MonICPAの職員は夜9時10時まで仕事をすることもよくあるそうで、結構働いているようでした。(ちなみに夏の日没は午後10時頃)
 
 最後に、国によって経済の仕組みや監査の事情はかなり違うということを実感した訪問でした。またドンドク会長からは来年のCAPA大阪大会にできれば20名程度参加したいという表明をいただきました。会員の皆さんもCAPA大阪大会で多くの国の会計士の人々と交流していただき、新しい発見や感動を得て頂きたいと思います。