「トップインタビュー」 第5弾!!
近畿会では、関西の我々とかかわる業界との相互理解を深め、協力可能な施策について関係機関との連携を図るための方法のひとつとして、各関係機関のトップに佐伯会長がインタビューをするという形式で意見交換を実施しております。第5回は近畿財務局との座談会を実施しました。

(会報部長 林 紀美代)

 

特集

財務省近畿財務局長との対談

 
日 時 平成17年10月11日(火)
出席者 近畿財務局 森本  学(局長)
    田中 佳彦(理財第1課長)
  日本公認会計士協会近畿会 佐伯  剛(会長)
    林 紀美代(会報部長)
    高濱  滋(広報部長)
    辻本 憲二(事務局長)

佐伯会長:
本日はお忙しい中、森本局長には日本公認会計士協会近畿会との対談のために貴重なお時間をいただきまして感謝申し上げます。
 このトップインタビューのねらいは、対象とする団体のトップの方に会計士のイメージをつかんでいただくことと、片や会員に対して、対象とする団体はこういう組織なのですよということを周知していくこともあるのですが、いちばんのねらいは、お互いに今後どういうことができるかということを具体的にお話しして、それで了解が得られれば、我々のほうにいろいろな委員会がありますので、そこで活動を開始することにあります。
 
1. 近畿財務局の組織と業務内容
 
佐伯会長:
では、近畿財務局における金融庁の機能と財務省の機能について教えていただけたらと思います。
森本局長:
財務局は、まず財務省の仕事のうち、国税と税関を除いた地方で行う業務をやっています。具体的には、財政、経済調査、国有財産の管理等なのですが、そのほかに金融庁から委任を受けて、金融・証券の検査・監督、証券監視・企業財務に関する仕事等を行なっています。皆さんに関係が深い企業財務は理財第1課が担当になります。ちなみに、理財第2課は財務省関係のたばこ、通貨、国債等の業務を行っています。
 近畿財務局は近畿地方の2府4県をカバーしており、大阪の本局のほかに、残りの5府県に財務事務所があります。さらに舞鶴には国有財産の管理だけを行う出張所があります。10月1日現在、全体で674名の職員がおり、本局理財第1課は13人です。最近は、金融関係や企業財務関係の専門知識も重要になってきており、公認会計士の人も任期付きや中途採用で採用しています。これまで、6名採用して現在5名が在職していますが、任期付きの採用に関しては、霞ヶ関同様、高度な専門知識のある人を公認会計士協会を通じて推薦していただいています。
 
2. 公認会計士関西地区3会の業務との関係
 
佐伯会長:
次に、近畿財務局、公認会計士、監査法人、我々三つの近畿会、京滋会、兵庫会の業務の関係についてお話をお願いします。
森本局長:
財務局の仕事で企業財務に関連しては、有価証券報告書・届出書などの企業開示関係書類を審査して受理する業務が基本ですが、そのほか、監査法人関係でいろいろな定款変更等の届出の受理や、公認会計士試験の実施も行なっています。公認会計士試験は、平成18年から大きく制度が変わりますので、今その準備をしているところです。
 そのほか、これは直接の業務ではないのですが、近畿の協会と意見交換会や研究会をさせていただいています。研究会は「企業財務研究会」と「金融会計研究会」の二つです。
佐伯会長:「金融会計研究会」については、金融検査と会計監査は、ある程度ほど良いコミュニケーションを持つことが望ましいので、できるだけ会計士協会からも同研究会に参加してくださいと言っています。いい意味での緊張感を持ったミーティングです。
 一方の「企業財務研究会」は、研究発表のような形でざっくばらんに話をするもので、既に225回目になります。今は3か月に1回のペースで開催していますが、近畿以外の局で、こういうふうに監督官庁と会計士地域会勉強会を200回以上も続けているのはないようです。
森本局長:
このような意思疎通や意見交換は今後もやっていきたいですね。
 
3. 近畿管内の経済情勢
 
佐伯会長:
では、次に近畿管内の経済情勢についてコメントをお聞かせください。
森本局長:
近畿の経済というと、ひところは地盤沈下などと言われていたのですが、今年の春ぐらいからはかなり良くなってきています。景況判断についての財務省と内閣府の9月の調査では、3期(1期は四半期)ぶりに現状判断がプラスになっており、前期に比べて良くなっているという企業のほうが、悪くなっているという企業より多いということを示しています。経済全体で見ると、去年の後半からいわゆる踊り場になって、竹中大臣が8月の初めに踊り場脱却宣言をしたのですが、それが統計的にも裏付けられている感じとなっています。
 これは全国的にもそうですし、近畿もそうなのですが、設備投資と消費という、いわゆる内需が良いのです。従来、踊り場からの脱却というのは、まず輸出や生産が良くなって、その結果、内需が良くなるというイメージだったのですが、今回はやや逆で、内需が良くなって景気が踊り場から脱却したというような形になっているのが特徴です。
 ところが、ごく直近の統計を見ると、生産や輸出が7月ぐらいから良くなっており、特に近畿ではそれが顕著です。そういう意味では、従来の設備投資や消費に頼った回復から、エンジン役のところにやや火がついてきたのかなという状況であり、もし順調に生産や輸出が増えれば、この回復はもう少し続くという見通しになると思います。
佐伯会長:
輸出では、アメリカより中国やアジアのウエートが高くなっているという認識でよろしいですか。また、今後アジアや中国などに対して、どのような観点で対応を考えておられますか。
森本局長:
近畿は全国に比べて中国向けのウエートが高く、近畿の企業の人に話を聞きますと、やはり中国の経済が8〜9%伸びていて、それが順調に続くかということに皆さん非常に関心が高いようです。
 やはり近畿の経済はかなりアジアや中国の影響が大きいですし、私どもとしても関西経済のための何らかの取り組みをしたいと思っています。まだ具体的には決まっていませんが、近畿財務局としても財務金融関係でできることがあればやりたいと思っています。
佐伯会長:
私ども近畿会でも、2007年CAPA大阪大会を意識して、アジア会計士との交流を進めています。例えば、上海会計士協会から、日本の行政がどのように会計士制度というのをやっているか興味があるので、情報交換したいという話がきています。大阪弁護士会でも上海弁護士会との交流を本格的にやられるそうで、先日、大阪弁護士会の国際委員会の人たちのお話しを伺ってみますと、アジアの中でも中国、特に上海で知財関係の侵害、コピー商品のトラブルが多くて、以前は中国の弁護士を使っていたのだけれど、制度がどんどん変わるものだから、クライアントが日本の弁護士を連れて行って、向こうの弁護士をチェックしてアドバイスをもらう仕事が増えているということでした。
 多くの関西経済人とお話をしてもアジアビジネスが大きく、かつ早いスピードで動き始めており、会計・監査も、税務も、法律もホットな状況なので、中国に強い「関西」の存在感を示したいと思っております。
森本局長:
中国とのいろいろな交流という点では、かなりたくさんの人が出張で来られたり、カウンターパートの会議が、財務省や金融庁ではかなりあります。このため、東京にはそれなりの知識やノウハウの蓄積があるので、関西でニーズが高ければそれをこちらで生かすという道はあるのではないかと思います。
 
4. 関西経済活性化に向けての取り組み
 
佐伯会長:
では、近畿財務局の関西経済活性化のための取り組みについてお願いします。
森本局長:近畿財務局は、独自の施策として昨年度から年2回、「中堅・中小企業ヒアリング」というものをやっています。ヒアリングではそれぞれの業況なども聞くのですが、そのほかに、いろいろな地域経済にプラスになるような意見や要望をお聞きし、何が問題なのか、行政でできることは何かをまとめています。それらの解決のためには、財務局のみではできることも限られるため、ほかの国の出先機関や府にも参加していただき、共同の取り組みができないか協議する場を設けており、今はそれを生かした活動を検討しているところです。
 ヒアリング自体は今回で3回目を数えています。財務局は、今まで財政や金融などいろいろな仕事を通じて地域経済に貢献できないかということで取り組んできたわけですが、さらに直接いろいろな企業と接触して、経済活性化のための取り組みができないかということで行なっているしだいです。
 ヒアリングは、全管理職100人ほどで、一人数社で400〜450社ぐらいになるのですが、毎回異なった企業を選定しますので、電話でヒアリングをお願いしても、税務署と間違えられて断られたり大変なのです。統計ではないので母集団というのは分からないのですが、いろいろな手段で割と活発に取り組んでいる企業を選んでいます。各自で選ばなければならないので、いろいろな企業について勉強できて、それもよい経験です。
 ほかにも、大企業との関係では、経済界や経済団体の代表と行政の出先を集めて、関西経済全体のグランドデザインや、発展するための戦略といったものを議論する懇談会の官側の幹事を我々がやっています。経済団体側は関経連が中心になって、いろいろな人や機関にまたがる問題をテーマに据えてやっています。役所もそれぞれいろいろなことをやっていますし、けっこうノウハウもあります。ただ、自分の行政分野を行なうことにしか普通は使っていないので、ほかのところから見るとそれなりに役に立つ情報もけっこうあるのではないかと思います。それをお互いに交換して、経済団体の人も交えて議論しましょうという感じで、年に4回ほど、不定期に開催しています。
佐伯会長:
我々一般の市民の立場から言わせていただくと、関西に限らず行政の縦割りは非効率な面が多いと思います。例えばバイオビジネス支援などでも、大阪府も大阪市も近経局も文科省も、これまでいろいろな施策をやっているけれども、横断的でないというか、無駄がたくさんあって、選択・集中でもっとまとめたほうがいいのではないかと思います。
森本局長:
先に言った中小企業ヒアリングでは、似たような政策措置が国の役所ごとにあって、そのほか府や市にもある。そういうものをまとめて示してもらえないかというような要望がありました。
 近畿管内では、様々な役所が関西経済のためにいろいろ議論しましょうと言うと割と集まりますので、財務局としては、なるべく一緒にできることはしませんかということでみんなを集めたりする役割ができるのではないかと思っています。
5. 地域密着型金融(リレバン)への取り組み
佐伯会長:
では、リレバンについてお話しをお願いします。
森本局長:ご存じのように、リレバンについては、最初に15年度・16年度に取り組む「アクションプログラム」を公表し、これに基づいて中小・地域金融機関は地域密着型の金融を進めてきました。その結果、ある程度成果はあったもののまだ不十分な点もあるということで、17・18年度に取り組む「新アクションプログラム」を今年の春先に公表し、中小・地域金融機関は、8月末までに「地域密着型金融推進計画」を策定しこれを公表しているところです。
 「新アクションプログラム」は、基本的に前のものを引き継いでおり、「担保・保証に過度に依存しない融資の推進」や「有望な事業を見いだす人材の育成(いわゆる目利き能力)」などに引き続き取り組むよう要請しているところです。
 財務局としては、地域密着型金融推進計画の進捗状況を把握するためフォローアップを行なっています。また、金融機関の経営状況を半年に一度金融機関のトップから聞く、トップ・ヒアリングというものを年2回やっています。これはリレバンだけではないのですが、その中で推進計画の進捗状況もモニターしています。対象は地銀、第2地銀、信金、信組です。私も地銀、第2地銀、一部の信金、信組で金融機関トップからお話を聞いています。
 今後は、地域金融機関による中小企業の再生支援や中小企業金融の円滑化に向けた特色ある取り組みを広く地域に具体的に紹介する「地域密着型金融に関するシンポジウム」を11月28日(月)に開催する予定です。これは金融機関がいろいろ工夫した具体的な事例の発表やパネルディスカッションなどをするというものです。
 そのほか、「金融行政アドバイザリー」を活用した取り組みも予定しています。近畿財務局でも9月に実際に企業、消費者、企業会計に携わってみえる5人にアドバイザリーをお願いしました。今後は、そのアドバイザリーから金融行政に関して意見をお聞きし行政に生かしていくこととしています。
 
6. 「中小企業の会計指針」と「会計参与」
 
佐伯会長:
リレバンのコミュニケーションとして“財務情報”が有効ですし、あと、知的資産(人材・技術・組織力・ブランド等)のような“非財務情報”も重要だと思います。一般に企業価値を見るときに、財務情報では決算書ですが、非財務情報として知的資産とCSR(企業の社会的責任)の存在が最近クローズアップされてきています。
 まず“財務情報”ですが、新しく導入される中小会社の会計指針と会計参与の近畿での普及に勤めたいと思って、今いろいろなところと交渉しているところです。
 具体的には、地銀や第2地銀と大阪商工会議所と会計士協会近畿会が研究会を立ち上げ、財務情報の制度が相対的に高い中小企業・ベンチャー企業に対する融資プログラムの整備に取り組みたいと考えています。
 例えば「中小会社の会計指針」と「会計参与」を導入した企業に対しては融資審査の期間を短くするとか、貸出金利を優遇するとか、あと、保証協会に対する優遇に関しても連動するとか、そういう具体的な形で地銀・第2地銀が動き始められるような下地を近畿に根づかせる社会貢献をしたいと考えています。
森本局長:
具体的にどのように取り組むかは個々の金融機関の判断ですが、「新アクションプログラム」の中でも、財務諸表の精度が相対的に高い中小企業に対する融資の推進を要請しているところです。財務局としては、中小企業金融の円滑化を推進する立場として、各金融機関には、基本的にはそういう取り組みをしてほしいと考えています。
佐伯会長:
リレバンの一つの道具として「中小企業の会計指針」と、「会計参与」の導入と、そこに伴うインセンティブについて研究会で知恵を出し合う努力をしてみます。
森本局長:
現状では、地銀や第2地銀にどのように説明しているのですか。
佐伯会長:
まだ大商と我々の事務方レベルで相談し合っている状態です。
 
7. 「知的資産経営報告書」と「CSR報告書」
 
佐伯会長:
次に、“非財務情報”について話しをしたいと思います。
 企業価値を評価するのに財務諸表に表れない知的資産・CSRの情報に関心が高まっており、中小会社やベンチャー会社にとって財務情報以上に有用と考えられる場合もあります。その中で会計士協会が注目しているのが知的資産報告書です。これは経済産業省の本省に知的財産政策室というものがありまして、そこが「知的資産経営の開示ガイドライン」を出しています。具体的には「知的資産経営報告書」というのですが、内容はCSRに近いもので、35項目の指標の中から各企業が選択をして非財務情報を開示することで、企業価値を評価してもらおうというものです。
 中小会社、特にベンチャーの会社などは、決算書を今の会計指針で作ったとしても、在庫・機械・土地等の所有資産の重要性が低い場合が多く、逆に、事業計画とか、知的資産にかかわるノウハウを持っているかといった情報のほうが有用な情報になりうるのです。
 こういう知的資産・CSRの情報を出すことで特定の金融機関がそれなりの優遇した融資プログラムを始めることに関してはどんな感触をお持ちですか。
森本局長:
これもリレバンの中で、創業・新事業支援機能の強化や、不動産担保や保証等に頼らない融資の促進を要請している中で、知的財産権などを適切に評価した融資の取組みを要請しているところです。現状は、適切な評価はなかなか難しく、金融機関には、企業の将来性・技術力を的確に評価できる(目利き能力)人材の育成を要請しているところです。また、金融機関だけでは評価し切れないものを、産学官など外部との協力で補っていきましょうということも要請しています。
佐伯会長:
大田区で知財信託の第1号がありましたけれど、あまり後が出てこないのは、やはり目利き評価が難しいのと、資産を担保で押さえるのが難しいことで、それもそれなりの試行錯誤が行われています。私は中小ベンチャー会社のリレバン情報として、特にベンチャーの場合は、その経営者の手腕というか、人間力のようなものがあって、無形固定資産もそうなのですがコンプライアンスも含めて、このようなビジネスを将来作っていきますよということを一つの整理したストーリーとして情報提供して、金融機関が一つの定量・定性情報として活用すべきだと考えています。
森本局長:
企業情報の何をどのように使うかは、金融機関の判断によりますが、外部が評価した報告書などを上手に利用して融資していくことは、我々も推奨しているところです。
 
8. ディスクロージャー制度をめぐる問題に関する近畿財務局での取り組みと会計士への期待
 
佐伯会長:
最後になりますが、近畿財務局長として会計士への期待についてお話しを伺いたいと思います。
森本局長:
ディスクロージャー制度は、私が言うまでもなく、外国でもエンロンの事件とか、日本でも昨年の秋以降いろいろな事件があって、ディスクロージャー制度の信頼性を確保するということが、今非常に重要な課題になっているわけです。
 中央では、証券取引法の改正や、公認会計士・監査審査会の設置など体制整備の強化を図っています。財務局のレベルでは、例えば企業の開示内容の自主点検を要請し一部の企業には訂正報告書を提出してもらっています。また、継続開示会社に調査票の提出を依頼し審査の強化を図っています。
 個々の会社の監査をしていただいている監査法人や公認会計士の役割は極めて重要です。協会の研修や活動の充実・強化により、あえて言えば信頼性回復の取り組みには我々も非常に期待しています。最初に出ましたが、会計士協会とも今まで以上に密接に協力してやっていきたいと考えています。
佐伯会長:
会計士の責任というのは一義的に問われることが多いですが、会計士だけではなく財務諸表作成者の責任や、監査役、証券取引所、証券会社、アナリスト等も、制度に関る皆でやらなければならないものを、何かあったらいつも会計士だけに集中することは問題だと思います。ただ、それだけ会計士への期待が大きいことの裏返しとも思います。
森本局長:
監査役も最近訴えられたりして、前よりは責任が重いという認識にはなっていますよね。企業開示は会社が行なうわけですが、ただ、適切な開示を促していくというところでは、プロである監査法人なり公認会計士の役割が大きいと思います。
佐伯会長:
本日はお忙しい中お時間を頂き、かつ率直なお話しをありがとうございました。関西経済の活性化に向けて近畿会として積極的な社会貢献を行っていきますので、今後とも宜しくご指導頂ければと思います。