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詩吟を唸ってみませんか

富田 英孝

 
1. 中国では、古くから人生を四つに分けてそれぞれ青春(勉学時代)・朱夏(働き盛り)・白秋(楽しむ時代)・玄冬(エンディング)と呼んでいるようです。 最近、折角功なり名を遂げた有名人の方でも最後まで頑張り、晩節を汚した方が多く見られますが、これでは何にもなりません。仕事について職場から墓場まで頑張る方も数多くおられますが、生を受けて一度の人生ですから、多いに楽しみたいものです。
 私もそろそろ白秋の時代の入り、昨日の食事も忘れるような歳になりましたが、不思議に50年前に学校で教わった漢詩・漢文のいくつかは未だに記憶に残っており人生訓としてきました。おそらく当時の先生のご指導が良かったからだと感謝しております。
 古くは、政界・財界の方々の演説には、必ず漢詩・漢文の一節を引用して訓辞とされたようですが、最近は、引用する人は、殆んど見当たりません。大学入試科目が選択制になり然も漢文がマイナー的風潮になったことも否めません。
 最近、少しゆとりができましたので、この漢詩に節をつけて詠ってみたいと思っていましたところ、知人から、詩吟の先生の紹介を受け、紫暁流の仲間に入れて頂き、習い始めて1年になりました。 
  驚いたことに吟詠者は大変多く、レベルも高く中年以上のご婦人が特に多いようです。
   
2. 詩吟は、口先ではなくお腹の中から大声を発するので健康にも好いといわれていますが、若さを保つためには、なんといっても複式呼吸で横隔膜を動かすことにより、内臓や脳神経を刺激し、血液の循環を良くすることです。このほかにも・礼節を重んじ高い情操を養う・容姿を端麗にする・交友を厚くする・古典を通暁し文学を愛好する・名所旧跡に親しむ・故事・歴史に興味を深める等々その功徳は限りがありません。ただし狭い家の中や人込みで唸ると迷惑になりますので慎まなければなりません。
   
3. 音楽は通常リズム・メロディ・歌詞から構成されていますが、詩吟のリズムとメロディは、殆ど大きくは変わらず、歌詞は漢詩による絶句または律詩を対象としています。日本の和歌も含みます。
 西洋音楽のメロディは、ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ドの7音階ですが、詩吟はド・ミ・ファ・ラ・シ・ドの5音階で、西洋音楽の長音階のレとソが抜けています。ド・ ミ・ソを主とした音階の「長調」が明るいのに対し、ラ・ド・ミが主音の「短調」は、暗く寂しい韻律になりますが、聞く人には胸に沁みるような心地良さがあります。短調の見本は、「荒城の月」・「さくらさくら」などです。太鼓は、胸に響くように唄いますが、詩吟は、胸に沁みるように唄わねばなりません。
 これに対し沖縄の音楽は、半音がありませんので、明るく楽しいメロディだといわれています。
   
4. 詩作は、日本は、平安時代以降で忠君愛国的な作品が圧倒的に多いが、中国の漢詩は紀元前後位から詠われており、春夏秋冬の季節の移り変わりや花鳥風月・人生の喜び・悲しみ・恋愛など大変幅が広くなっています。特に唐の時代の李白・杜甫・白楽天や王維などが有名です。
  私の好きな絶句は、次のようなものです。
   
 
壁に題す (男児志を立てて郷関を出ず) 釈 月性
勧 学 (少年老い易く学成り難し) 朱  熹
春 望 (国破れて山河あり) 杜  甫
楓橋夜泊 (月落ち烏啼いて霜天に満つ) 張  継
九月十日 (去年の今夜清涼に侍す) 菅原道真
静夜思 (牀前月光を看る) 李  白
名槍日本号 (美酒元来吾好む所) 松口月城
山中対酌 (両人対酌すれば山花開く 李  白
山中問答 (余に問う何の意ありて碧山に栖むと) 李  白
5. 近畿会でも、かつては詩吟同好会があったようですが、村田敏秋先生に伺いますと余りに人数が少ないので、予算が取れなくなり解散したとのことでした。                 復活を期待しています。
 

アカペラで 詩吟を唸る歳になり