年頭所感

財務省近畿財務局
局長 畑中龍太郎
 新年あけましておめでとうございます。
 日本公認会計士協会並びに会員の皆様には、日頃から財務局の業務に関しまして深いご理解とご協力をいただきまして、厚く御礼申し上げます。
 年頭にあたり、新年のご挨拶を申し上げます。
 
【金融システムの環境変化】
   今や、銀行の店舗で投信を買い、株式の購入を申し込むことができるようになりました。銀行以外でも多くの証券仲介業者が株式購入などの仲介を行なっています。ワンストップ・サービスや販売チャネルの多様化ということで、今ではこれを歓迎する向きが多いと思いますが、業際問題の議論が盛んであった頃には考えられなかったことです。
 銀行が預金として集めた資金を企業に貸し出すという相対型金融だけでは、もはや、わが国全体の資金が効率的に流れず、目詰まりを起こしてきているということが、この背景にあります。
 すなわち、わが国経済がキャッチアップ段階である時代はともかくとして、世界のフロント・ランナーとなった今では、銀行にリスクを集中する「銀行中心の金融システム」から、市場を通じてリスクを再配分する「市場を中心とした金融システム」に再構築する必要があるということです。
 これによって、1400兆円ともいわれる国民資産を効率的に活用し、わが国経済の構造的な改革を進めていくことが可能となります。もちろん、市場の利用が難しい中小企業にとっては銀行中心の金融システムは依然として有効であり、その意味でリレーションシップバンキングの機能強化は重要なテーマであります。
 
【インフラとしての企業会計】
   ご存知のように、市場を中心とした金融システム(市場型金融システム)では、銀行と企業の情報の交換だけで済む相対型とは異なり、企業自らが広く開示する情報によって不特定多数の者が取引を行います。そして、取引を行う不特定多数の者の様々な思惑は、市場に織り込まれて価格という形に変わりますが、こうして形成(発見)された価格は、さらに、企業の将来性に関する評価として外部に発信され、企業はこのような評価を参考に行動を決めることとなります。
 このように、企業情報を織り込んだ市場の価格は、資金をリスクに晒す投資者や評価される企業の双方に重要な意味を持ちますが、この価格(評価)が公正なものであるためには、信頼性の高い企業情報が十分に開示されていることが前提となることはいうまでもありません。この意味において、企業情報をチェックする企業会計基準や監査制度は、市場型金融システムになくてはならないインフラであり、また、多くの人々に利用され、広く社会に影響を与えるという意味で公共財であるといえるのではないでしょうか。
 
【会計基準のグローバルスタンダード化】
   資金の動きはボーダーレスであり、また、政策として金融システムを国際的なものにしていくという命題がある以上、わが国会計基準の国際会計基準への統合化、いわゆる会計基準のグローバルスタンダード化は避けては通れない課題です。
 一方で、経営に対する考え方や取引慣行等の違いにより、各国の会計基準がある程度異なったとしても、それがその国の企業の実態をより合理的に表すとすれば、一概に否定されるべきものではないと思います。また、市場型先進国である米国におけるエンロン社の粉飾会計をみればわかるように、ルールの精緻化やグローバルスタンダード化ですべての問題が解決されるというものでもありません。
 海外諸国には日本の会計に対する理解不足もあると聞いております。規制当局間の意見交換はもちろんですが、わが国の公認会計士が、会計のプロフェッションとして、グローバルスタンダード化の議論へ積極的に参加すれば、より説得力があるのではないでしょうか。
 
【信頼される公認会計士】
   監査業務は公認会計士のみが行えることとなっていますが、それは、高い専門知識を持つ者として、独立の立場から企業情報の質をチェックすることが期待されているからです。
 いわゆる会計ビッグバン以来、ディスクロージャー制度は飛躍的に拡充・強化され、今や、わが国の企業会計は国際的にみても遜色のないレベルにまできていると思いますが、ご承知のとおり、会計ルールは、多様な企業に適用されるために当事者の合理的な判断に委ねられている部分が少なくありません。したがって、どれだけ制度を精緻に整備したとしても、結局のところ、それを運用する会計人の健全な「マインド」が最後の拠りどころではないかと思うのです。
 金融行政に携わるわれわれは、今、強固で活力ある金融システムの構築に努めているところです。公認会計士の皆様方には、金融システムの信頼性確保のために、企業会計制度の存在意義を常に自問しつつ、信頼される公認会計士として、そのプロフェッショナリズムを発揮していただきたいと切に願っております。
 最後になりましたが、新年を迎え、貴協会の一層のご発展と会員各位のご健勝と益々のご活躍を心よりお祈り申し上げまして、私の年頭のご挨拶といたします。